◆15◆
「何考えてんですか、あんた!」
アリッサは、つい声を荒げた。
「『試合に応じなければ、娘のあられもない姿の写真を公開する』と言えば、ヴォーンさんも考えを変えてくれると思わない?」
「お断りします。あなたが父に何をしようと勝手ですが、私をしょうもないことに巻き込むのは、やめてください」
「そうはいかないの。私は何としても、ヴォーンさんと戦いたいから。もし、どうしても嫌だと言うなら」
パティはカメラをポーチに戻し、替わりに、刃渡りニ十センチ程の戦闘用ナイフを取り出して、刃先をアリッサに向けた。
「力ずくですか?」
アリッサが不快感を露わにして言う。
「あなたみたいな可愛い女の子の肌に傷をつけたくないの。おとなしく脱いでちょうだい」
「お断りします」
「じゃあ仕方ないわね」
パティは自分の唇をぺろりと舐めて、ゆっくりと立ち上がる。顔が紅潮し、目つきも怪しくなって来た。もう、武芸者と言うよりただの変質者だ。
アリッサも立ち上がった。特に身構える訳でもなく、普通に突っ立っている。パティをゴミを見るような目で見ている。
パティはちゃぶ台を横に蹴飛ばし、次の瞬間には、アリッサに向かって跳びかかっていた。が、もうそこには、アリッサの姿は無かった。
素早く周囲を見回すパティ。アリッサは、すでに居間から廊下に出ていた。
「さすがヴォーンの娘ね」
その言葉が終るか終らぬ内に、パティはアリッサの方へ突進した。アリッサは後へ跳びのいて、棚から木箱をつかみ、床に中身をぶちまける。廊下が銀色に染まっていく。直径一センチ程の金属球が、大量にばらまかれたのだ。
「しまった!」
アリッサを追って廊下に出たパティは、金属球を踏みつけ、バランスを崩して転倒し、とっさに突いた手もずるっとすべってしまい、結果、身体全体が床に叩きつけられた。
そこへ廊下の左右の壁を交互に蹴って跳びながら、アリッサがひょいひょいと迫って来る。身構える間もないパティに馬乗りになり、ナイフを持つ手をねじあげた。
「うっ……卑怯な……」
「ナイフで丸腰の相手に、突然襲いかかる方が卑怯です。マントノン家の恥晒しになりたくなかったら、とっとと、お帰り下さい」
「油断しただけよ! こんなの勝負じゃないっ!」
「ああ、そうですか。じゃあ」
アリッサは、パティの手を離した。
「稽古場へどうぞ」
パティの身体から跳び上がり、また廊下の左右の壁を交互に蹴って、ひょいひょいと稽古場の方へ移動するアリッサ。
パティはそろそろと身を起こし、金属球が散乱する廊下を、すり足でゆっくりと後を追った。




