◆13◆
翌朝、今度こそ本当にノルドは道場から去って行った。
「では、アリッサさん、これで失礼します。色々ご迷惑をおかけして、すみませんでした」
「気にしないで。元はと言えば、ウチの父が悪いんだから。遠い所までどうもご苦労様でした。気を付けてね」
山道を歩きながら、ノルドは今回の件について色々と反省した。
武芸者のはしくれを自認していたのに、自分の身長の半分もない子供達に、手も足も出なかったこと。
自信満々に道場を出て行ったはいいが、いきなり道に迷い、すごすごと道場に戻って来たあげく、一晩泊めてもらったこと。
思い出すだけで自分が情けなく、恥ずかしさの余り、歩きながら身悶えしてしまうノルド。
ちょうど身をよじって悶えている時、間の悪いことに、向こうから女の人が歩いて来るのが見えた。
あわてて平静を装い、何事も無かったかのように通り過ぎようとした時、女がノルドを呼び止める。
「あなたは道場の人?」
「い、いえ、違います。僕はアリッサさんに用事があって、今はその帰りです」
女は二十歳くらいだろうか、ノルドより頭一つ分背が高い。光沢のある小麦色の髪を後で束ね、薄く化粧が施されたその細面の美貌は、こんな山奥には似つかわしく思えなかった。暑い地方から来たのだろうか、やや露出度の高い服を着ている。
つい目をそらしてしまうノルドを見て、女の口元は微かに笑った。
「アリッサさんは今、道場にいらっしゃる?」
「はい、行けば会えると思います」
「そう、ありがとう」
女は、ノルドが目をそらした方向に、わざと肢体を見せつけるように回り込んでから、道場の方へ歩いて行った。
ノルドは少し顔を赤くして、その場から早歩きで去ろうとしたが、ふと立ち止まり、振り向いて、女の後姿を見た。女は大きめのベルトポーチを腰に下げていたが、よく見ると、何かの柄が横に飛び出している。
「戦闘用ナイフだ。あの女の人も武芸者なのか?」
ノルドは波乱の予感がした。武芸者と武芸者が道場で相対すれば、いざ尋常に勝負、という展開もあり得る。だとしたら、自分も武芸者のはしくれとして、その試合は是非見届けたい。
「でも、今道場に戻ったら、『お前、また道に迷ったのか』と思われそうで嫌だ」
どうしようかと迷っている内に、女の姿はノルドの視界から消えていた。




