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戦争は終結し、1か月が過ぎた。王都の人々は何事もなかったかのように生活を送っている。私のレストランの売り上げは戦争前の水準にほぼ戻った。仕入先の業者も仕事を再開している。順調だ。


ただ、王都の中心部にある城だけが、戦争の爪痕を残していた。ポート・ディクソン軍は今も瓦礫の撤去作業に追われている。ポート・ディクソン軍はよく統率されており、街における略奪・暴行の類は一切なかった。帝国による統治が始まって1か月がたつが、何の不都合も発生していないどころか、総じて国は良い方向に向かっている。帝国と国境はなくなり、ヒト・モノ・カネの流れは以前よりも活発になった。今まで帝国からの輸入には税金がかけれらていたが、それも撤廃され、仕入れもしやすくなった。


私は今日の営業を終えると、馬を駆け自宅へと戻る。夕刊をポストからとり、家の中へ入って電気をつけ、新聞を広げる。新聞には新しい女王の誕生を祝う記事が一面で出ていた。新しい女王とは、1か月前にこの家に押しかけてきた例の王女のことである。他の王族がすべて自害したのだから、当然の成り行きだろう。彼女はこれからこの国のシンボルとして、ポート・ディクソン帝国の統治の一端を担うことになるのだ。一度は絶体絶命の状況に追い込まれたのだ。もとより王位継承順位の低い彼女が女王にまで上り詰めたのだから、彼女からしてみれば万々歳ではないか。


と、新聞の隙間から1通の封筒がひらりと床に落ちた。随分と上等な封筒だ。しかし、封筒には差出人がかかれていない。私は、封筒の端をハサミでキレイに切り取ると、中身を取り出した。封筒の中に入っていたのは、一枚の小切手だった。小切手には途方もない金額が書かれていた。小切手の振出人を見ると、ついさっき新聞で目にした名前が書かれていた。女王の名前である。


一体なぜ、女王はこの小切手を私によこしたのだろうか。


その問いを立てたとき、あっ、とすべての事情がのみ込めた。


10年前、私は魔術防衛局局長として、この国の魔術防衛の問題点を洗い出し、新たな防衛計画を策定した。それは北方の湖地帯における防衛上の問題点を指摘するものだった。しかし、それは当時の長官によって握りつぶされることになった。それは、前任の魔術防衛局局長―つまり当時の長官のすべての施策を否定するものとなっていったからだ。私は閑職へ追いやられ、王女の教育係を務めることになった。


私は、策定した防衛計画に自信があったから、閑職へと追いやられたことが不満でならなかった。半ばヤケになりながら、当時7歳か8歳程度であった王女に対して、この国の魔術防衛の問題点と改善策を来る日も来る日も語った。ほんの小さな子供だからどうせ分りっこないだろうと思いつつも、閑職へ追いやられたうっぷんを晴らすかのように語ったのだった。


女王は当時教えた内容を覚えていたのだ。そして自身の野心のために使ったのだろう。ポート・ディクソン帝国の侵攻をうまく利用したのだ。


城に突然火の手が上がったのは、ポート・ディクソン軍からの砲撃が原因ではあるまい。あの護衛の2人の魔法を使えばできることだ。


しかし、問題が1つ残る。それは、いかに安全にポート・ディクソン軍に投降するかという点だ。ポート・ディクソン帝国と女王がどのようにつながっていたのかは知らないが、おそらく極めて不安定なつながりだったのではないだろうか。王位継承順位が低かった女王だから、きちんとした後ろ盾がいなかったのかもしれない。


それで私のもとへやって来たのだろう。私のもとへ訪れた理由は、2つだ。1つ目は、魔術防衛の問題点を教えた張本人として信用した、ということだ。2つ目は、女王の意図したとおり、身元をポート・ディクソン軍へ安全に引き渡すことができると考えたからだ。だから、あえて無謀な亡命計画を披露することで、私が女王を引き渡すよう誘導したのだろう。もし、ポート・ディクソン軍へ投降したい旨を直接的に聞いていたら、私は女王の企みを察知していたかもしれない。そうしたら女王の意図したとおりの行動をとったか不明だ。つまり女王は、自分の意図した行動を私に取らせるために一芝居打っていたのだ。そして私の人脈を使うことで、自分の計画を完遂したのだ。


と、するとこの小切手は、女王のために働いた私に対する報酬だということになる。

そういえば、女王は亡命の報酬として、1%課税権を提示していた。


私はメモ帳を取り出し、取引高を概算で計算し、それに対して1%の税率をかけてみた。


小切手に書かれている金額とピッタリ一致した。





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