第96話
「さて、どうする? 雪菜の強さもその一端は見えた事だし、最上階まで行く意味はもう、ないと思うんだが……」
翌日になり、休憩フロアーで直斗はパーティーメンバーに対してきりだした。中級レベルであれば、これだけのメンバーがそろっているので、攻略し甲斐がないとすら思っている直斗である。たいして魔石や素材もいいのが出ないだろう。
「ふむ、ワガハイもこれ以上進むつもりはないねえ。最上階まで行っても、褒美はどうせアレだろうからねえ。ワガハイとしてもここで帰るのをオススメするよ」
「皆はどうだ?」
パーティーメンバーから反対意見は出なかった。全員が全員、これ以上ここにいてもやる事もない、そう考えていたのかもしれない。
「では、帰るか」
「そうだな」
「帰ろう」
「帰ろう」
そういう事になった。
「ぬおおおおおぅ、貴様ら、何を『陰陽師』風に纏めようとしているのかね!? 途中でドロップアウトなど認めるわけあるまい!!」
帰り支度をしている直斗たちの前に現れたのは、ザリー軍曹であった。何故か怒っているようだ。
「何故だ? 途中でのドロップアウトは認められている筈だ」
よく考えれば、ドロップアウトするよ、とザリー軍曹に電話をかける必要はなかったな、そう思いながら会話を続ける直斗。
「一発目でドロップアウトするなんて何を考えているのかね? しかも、中級者用だぞ? この程度でドロップアウトするなんて、そんなに低レベルなのかね、貴様のパーティーは?」
「いや、手応えがない。中級者用を何度クリアーしても、金も経験値もたまらん。せめて、上級者用で頑張るべきであったよ」
「では、今なら無償特典で、上級者用に飛ばしてやろう。このフロアーから始められるぞ、攻略を」
「いやだよ、メンドクサイ」
直斗は正直であった。帰って寝たい。そして、引っ越しの準備を始めたい。今まではバーソロミューとマリアというコブ付きであったが、これからは彼らのいない直斗所有の家で可愛い女の子たちとイチャイチャ出来るのだ。直斗はこれからの事に思いをはせていた。ただ、今現在の直斗の頭の中に蜥蜴丸とゲーサンはいなかった。どれだけいい思いをしようとしても、きっと蜥蜴丸とゲーサンに邪魔をされるのだろうが、直斗はその事は考えないようにしていた。
「ぬううう、茶色の蜥蜴よ、貴様はどう思うのかね?」
「ワガハイも今回はメンドクサイので、パスさせてもらおう。だいたい、盛り上がらんよ。一定のイベントは終わったからねえ……」
「それは、貴様が腹を下した事かね?」
「貴様を真っ赤に燃え上がらせて、レッドロブスターと偽ってユゴス伯爵にでも売りつけてやろうかねえ……」
ザリー軍曹は、口を噤むことにした。いけない、今、この茶色の蜥蜴は、本気だ。本気で私をレッドロブスターに変えようとしている……ッ!!
レッドロブスターに変えられてはたまらない、そう思ったのかどうかは知らないが、ザリー軍曹は女性陣にターゲットを変える事にした。本来、ここで直斗たちが帰ったからと言っても、ザリー軍曹やM蜥蜴丸には何のダメージもないのだが、ただ単に「飽きたから」トカ言った様な理由でこの超古代科学技術怒迫力研究所イン王都をドロップアウトされてはたまらない。今後の経営にも関わってくる。何故なら直斗たちは、王都の冒険者の間では有名な存在だからである。いい意味でも、悪い意味でも。彼らが「凄くつまらない」などと噂を流せば一発アウトではないか……!!
「女性陣はどうかな? こんなもうすぐ最上階というところまで数日かけて上って来たのに、最上階まで行かずにドロップアウトするなど、認められるモノかな?」
プライドをくすぐる作戦にしておいた。ザリー軍曹も案外考えているのである。だが、彼の期待を裏切って、女性陣はあっさりと答えた。雪菜を除いて。
「まあ、ナオトと蜥蜴丸が言うように、メンドクサイっていうのには賛成かな」
「攻略してもメリットがない。少なくとも最上階まで行こうとは思わないな」
「うーん、今更上級者用に行くのもメンドクサイよね。上級者用で無事に上れるかどうかも不明だし」
「最上階まで辿り着いたところで、得られるモノは欲しいモノではありませんし」
雪菜は雪菜で口をはさまない事にした。全員口をそろえて最上階まで行きたくないと言うのなら、最上階まで辿り着いたところで結局財宝も何もないのだろう。
「ならば、犬っころよ、貴様はどうだね?」
――死にたいと言うのなら、今ここで殺してやろう。
「子猫よ、貴様はどうかね?」
返答は、眠たそうに欠伸をする姿であった。欠伸をする姿すら可愛い……と雪菜は考えていた。もう、この頃になると、誰もザリー軍曹を見ていなかった。
「おい、子ドラゴンよ、貴様はどう考えるのかな?」
「くー?」
意味を理解しているのかいないのか、首を傾げるクーちゃん。ザリー軍曹はブチキレかけていた。
そしてついに、一番声をかけてもどうしようもない相手に声をかけた。
「おい、緑色の蜥蜴よ、貴様はどう思うのだね!?」
「げげっげ、げげげげっげ、げっげげ、げげげっげ、げげ、げげげっげげげ。げげ、げげっげ。げげげ、げげっげ、げげっげ、げげ?」
「マジダルイ、そう申しております、ゲーサンが」
「貴様のその通訳は合っているのかッ!?」
ゲーサンの言葉を翻訳したシルヴィアであったが、ザリー軍曹に怒鳴られてしまっていた。いくらなんでも、短すぎるだろう、そう思った雪菜であったが、誰もその事にツッコミは入れなかった。きっと、日常茶飯事なのだろう。
「ええい、貴様らに私の『お・も・て・な・し』を受けるという優しさはないのか?」
「「「「「全然ない」」」」」
雪菜を除いた全員がハモった。何故かこういう時だけパーティー内の息が合うのである。自分もいつかこういう時だけ息ピッタリになるのだろうか……? 雪菜は考えるのをやめる事にした。不毛な気がしたからである。
「ええい、こうなったら強制的に私の『お・も・て・な・し』を受けさせてやろうではないか!! では、先生方、お願いします!!」
フィンガー・スナップで指を鳴らそうとするザリー軍曹。しかし、音は鳴らなかった。何度やっても。
沈黙がその場を支配した。誰もが、可哀相な子を見る目つきでザリー軍曹を見つめていた。
「ええい、こうなったらッ!?」
足で床を踏みつけるザリー軍曹。床が踏み鳴らされると同時に、ザリー軍曹の背後に煙が出てきた。まるで、誰かの登場を待つかのように、煙が広がっていく。そして、その後ろには、七体ほどのシルエットが現れていた。
しかし、誰もシルエットは見ていなかった。皆、床を踏み抜いて足が抜けなくなったザリー軍曹を見ていた。可哀相な子を見る目つきで見ていた。
そして、煙が風に乗って消え――塔の中で自然に風が吹いているのではない。ザリー軍曹が何らかの手段で起こした風である――、七人の(七匹の、と表現するのが正しいだろうか?)オーク侍(仮)が姿を現した。
しかし、直斗たちはその時になっても彼らを見ていなかった。ただ、可哀相な子を見る目つきでザリー軍曹を見つめていた。
「こやつらが私のサムライセブンよ。先生方、やっておしまいなさい!!」
直斗たちとザリー軍曹のサムライセブンの戦いの火蓋が切って落とされた。
しかし、中級者用に調整を施されていたのか、ザリー軍曹のサムライセブンは強くはなかった。直斗が吹き飛ばされたくらいで、他のメンバーが直斗をフォローし、七人(七匹?)全員を一か所に集めた時であった。
「complete」
電子音声が響いた。皆がその電子音声が鳴った一点を見た。ザリー軍曹はまだ足を床から抜けずにいたが、彼も電子音声が鳴った場所を見た。
そこには、サングラスにスーツ姿の二人の男が立っていた。
「ま、まさかあいつらは……」
「あー、やっちゃったかな、ナオト?」
ディアナとエクリアは、今度は二人の男を見て“やっちゃったな”といった顔つきをした。蜥蜴丸はニヤついていた。他のメンバー達は何だこいつら、といった顔つきをしていた。
「き、貴様らは誰でおじゃるか!?」
麿(サムライセブンの一人)が叫んだ。ああ、言わずにいれば良かったモノを……と、表情だけで語るエクリアとディアナ。
「どうも、セクシーオ●シタです」
「ダンディータ●ヤマ」
そして、セ●シーオ●シタと名乗った方が、バズーカを肩に担いだ。
「好きだねえ、バズーカ」
ダ●ディータ●ヤマと名乗った方が呆れたように声をかけた、と同時に「発射」と声が響き、バズーカから“ナニカ”が発射された。発射されたのは何だったのか、誰も知らないし、知りたいとも思わないだろう。サムライセブンの集まっているあたりに何かが着弾した。どういった効果が発揮されたのかは知らないが、着弾したと思っても、何も起こらない。しかし、サムライセブン全員が動けなかった。
サムライセブンも、ザリー軍曹も、蜥蜴丸たちパーティーメンバーもキョトンとしていた。
彼らの見つめる先では、二人が懐から何かを取り出し、口に咥えた。
「タバコ……? ナオトはタバコなんて吸わない筈だけど……」
「シガレットチョコだな」
蜥蜴丸の声を聞き、目を凝らしてみると、確かにチョコレートであった。きっと、まだまだカッコつけたいお年頃なのだろう、直斗は。
「再登場は派手に行かなければな」
「そうだな、だって俺達」
「「リターンズだもんな」」
二人が口をそろえてよく分からない事を言ったと思った途端、サムライセブンの真ん中で大爆発が起こり、サムライセブンを跡形もなく吹き飛ばした。と、同時にセクシーオ●シタもダンディータ●ヤマも姿を消した。残るは直斗一人。
直斗は、皆の元に歩いていき、未だ足が床から抜けないザリー軍曹に向けてコンバットバイソンを突きつけた。無言で。
「ま、待て、待ってくれぃ……!!」
「言い残す事はあるか、ザリー軍曹?」
「お、女、紹介するから……!!」
自分の意思では言いそうもないセリフが口をついて出た事に愕然とするザリー軍曹。おかしい、こんな言葉を私が言う筈がない……ッ!!
「それは、ト●ル君にでも言いな。可愛い女の子は間にあっているんだよ!!」
躊躇う事すらせず、直斗は引鉄をひいた。ザリー軍曹は死を覚悟した。
金属音が鳴り響き、コンバットバイソンから放たれた弾丸は、突如現れたM蜥蜴丸がザリー軍曹との間に滑り込ませた盾によって受け止められていた。
「正気に戻ったかね? まさか、ザリー軍曹まで雰囲気にのまれてよく分からないセリフを吐くとはねえ……、魔術恐るべし、と言ったところかね? まあいい、今日は帰りたまえ。後日、上級者用や超上級者用への挑戦をお待ちしているよ」
ティンダロス邸への帰途についている間、直斗はずっと首を傾げていた。サムライセブンの一人である麿に吹き飛ばされた後の記憶がはっきりしないのだ。
「何故みんな、俺を可哀相な子を見る目つきで見ているんだ……?」
誰も答えなかった。
直斗は帰途についている間、ひたすら孤独感を味わっていた。
本日の映画
「あ●ない刑事リターンズ」(1996年)
一番好きな刑事もの。また、このシリーズ作ってくれないかなあ……。




