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第90話

「長かったなあ、ここまで来るのに」

 直斗はもう、何十分かかったかなど気にしない事にした。気にしていたら負けだ。

「ナオトさんが私を置いてきぼりにしなければもっと早く来れたんですけどね」

「本当にそう思っているのか?」

「いいえ。最初に私の意見をちゃんと聞いてさえいればこんなにかからなかったと思っています。諸悪の根源は、女の子にデレデレしているナオトさんです。そう、私は何一つ悪くありません」

 本気で自分は悪くない、そう思っている声であった。直斗としても、意見を聞かなかった事、また、置いてきぼりにした事もあり、引け目を感じていた為、これ以上意見を述べなかった。これ以上意見を言ったとしても、最後には蜥蜴丸がシルヴィアに加勢するのだ。そうなれば、直斗の勝ち目はどこにもない。

「貴様たちは、いったいいつまでふざければ気がすむのかね? せっかく私が諸々の注意事項を伝える為に出張ってきているというのに……」

 特徴的な声の持ち主であるザリー軍曹が、今直斗たちの前に立っていた。

 もちろん、皆気付いていたが、直斗とシルヴィアが口喧嘩を始めたため、ザリー軍曹を視界に入れていなかったのである。

「何だ、いたのか」

 直斗は普通に気付いていなかったようだ。そして、吹き飛ぶ直斗。

「いたのか、とは何だね? いいかね諸君。遠足は無事に帰りつくまでが遠足なのだよ。この、ピクニック気分でやって来ている脳内お花畑の厨二病患者には特に言い聞かせてやらねばなるまいな」

「サー、何でありますか、サー?」

 数メートルは吹き飛ばされているのに無傷で立ち上がり、疑問形で半分バカにするような感じでザリー軍曹に相対する直斗。雪菜だけが「大丈夫かな?」と呟いたが、他の女性陣は誰一人心配している視線を向けない。その視線を言葉で表すなら「またか」が正解に近いだろう。

「いいか、遠足とは家に帰るまでが遠足だ。復唱!!」

「いいか、遠足とは家に帰るまでが遠足だ。復唱!!」

「お約束をするんじゃないッ!!」

 またも殴られ吹き飛ぶ直斗。吹き飛ばされている間に「お約束をするんじゃないッ!!」と叫んでいるあたり、彼も芸人魂が植え付けられているのかもしれなかった。

「やはり、あ奴こそワガハイに必要な愛方。クカカカ、コンビの解散など認めないのだよ……!!」

 蜥蜴丸さんの笑みは、それはそれは邪悪な笑みだったそうだ。


「さて、いくつか説明をさせてもらうとするか。いいか、厨二病に茶色の蜥蜴。説明の邪魔をするなよ」

「「サー・イェッ・サー!!」」

 こういう時だけノリノリで息ピッタリの直斗と蜥蜴丸であった。

「この超古代科学技術怒迫力研究所イン王都は本家とほとんど構造は変わらぬ。各フロアーをモンスターを倒したり、罠をかいくぐったり、イチャイチャしたりしながら進んでいくダンジョンのようなモノだ」

「イチャイチャしていいのかッ!?」

 直斗はよく分からないところに食いついた。

「好きにせよ。イチャイチャ出来るかどうかは、貴様の手腕にかかっている。アドバイスはしてやらんぞ」

「任せろ」

 何を任せればいいのだろう? 全員がそう思ったが口には出さない。

「各フロアーにはボスモンスターのようなモノがいる。そいつを倒せば、次のフロアーに進めるという、古典的かつ王道な感じのダンジョンだ。ついでに言っておくと、初心者用、中級者用、上級者用、超上級者用、修羅用と用途はいくつかある。まあ、はっきり言って修羅用は私が趣味で作ったモノだ。まず、生きて帰れないだろうから、ここには上級者用、超上級者用をクリアーした者たちではないと入らせないぞ。一応冒険者ギルドと契約している以上、簡単に冒険者を死なせるわけにはいかないのでな」

「おい、ザリー軍曹」

「何かね、厨二病?」

「デート用はないのか?」

「あるわけなかろうが。いいか、こういう場所でデートする場合、二人っきりで来るか、パーティーメンバーの目を盗んでイチャイチャするかのどっちかしかあるまい。まあ、貴様が見られながらイチャイチャするのが大好きだと言うなら、止めはせんよ」

「じゃあ、今度二人っきりで来よう」

 二人っきりで来るとは、誰と来るという意味なのだろうか? 女性陣が直斗を見つめていたが、直斗は誰と二人っきりで来るとは言わなかった。用心したのだろうか?

「ちなみに、デート目的でここに来た場合、入場料は五万Gになるが、よろしいかな?」

「高ッ!!」

 にわか成金の直斗であってもそう簡単に手を出せる額ではない。

「もちろん、一人五万だからな」

「なるほど、使いどころが肝心なのだな」

 よく分からない納得をしだす直斗であった。頭の中では女性メンバーの誰かと新密度をあげる為のプランが練られているのかもしれない。

「まあ、他にもいくつか注意点がある。聞け」

 残りの注意点は以下のような感じであった。


①各フロアーの最初の間と、最後の間(ボスモンスターがいる間)には、大きな赤いボタンがある。緊急脱出用である。それを押すと、入り口(ザリー軍曹と直斗たちが話をしているここ)に強制転移させられる。

②五フロアーごとに休憩フロアーがある。そこでは回復薬などの物品販売も行っているとの事。ここでは体力や魔力の回復も出来る。モンスターはいないフロアーである。

③武器も魔法も、強力なモノを使い放題である。それだけの結界トカが張り巡らされているらしい。

④モンスターの落とす素材や魔石は、貰っても構わない。ここでも換金できる。

⑤最上階まで無事に辿り着けると、素晴らしいお宝が待っている。


 注意事項の説明は終わった。

「何か聞きたい事はあるかね?」

「素晴らしいお宝の受け取り拒否は出来るのか?」

 間髪入れずに直斗が尋ねた。雪菜を除いた全員が首を縦に振った。一番聞きたいのはその事に関してだ、と言わんばかりに。

「おいおい、本家をクリアーしたからって、調子に乗り過ぎではないかね? 王都の方でも簡単にクリアー出来ると思っているのかね?」

「そんな事はどうでもいい、受け取りを拒否出来るかどうか、聞いているんだ。答えろよ」

「まあまあ、直斗君。せっかく素晴らしいお宝をくれるって言っているんだから、受け取り拒否なんてしなくてもいいんじゃない?」

「ほう、心の綺麗な女性メンバーもいるようではないか、厨二病よ? いつ、こんな心の綺麗な女性メンバーをパーティーに加えたのかね……、いや、残りのメンバーも心は綺麗であったな。品性卑しい貴様のような厨二病や蜥蜴にこんな女性たちはもったいないと思うな、私は」

 話の途中でザリー軍曹を見つめる雪菜以外の女性陣の視線が変わった。「今、この場で死ぬか?」、女性陣の視線はそう語っていた、ザリー軍曹は後にそう語ったトカ騙らなかったトカ。女性陣の視線の鋭さにエクリアの腕の中にいるコリスが驚き、その場で女性陣を見まわしたくらいであった。

「いや、まあ、うん。うちの女性陣はみんないいだよ。それは、よく分かっているよ」

 直斗としては、女性陣を褒められて悪い気はしないので、ザリー軍曹の言葉をそのまま受け取った。

「クカカカ、まあ、そんな事はどうでもいいのだよ。女性陣が褒められようが、けなされようが害が及ぶのは直斗だけであって、ワガハイには何の関係もないからねえ……。ところで、未だ説明がないが、素晴らしいお宝の受け取り拒否は出来るのかね?」

 何で蜥蜴丸まで素晴らしいお宝の受け取りを拒否したがるんだろう……? 周りを見まわしてみても、全員が直斗と蜥蜴丸に賛成のようだ。これ以上口を出すのはやめよう。様子を見よう。

「さあ、答えろよ、ザリー軍曹。返答次第じゃ軍曹一人であの世界に旅立たせてやるぜ? あの漆黒の闇に閉ざされた時の流れの異なる世界に」

「クカカカ、今度はワガハイは完全に傍観者になってみせるよ。心優しい科学の子であるワガハイ、観察も趣味なんだよねえ」

 直斗と蜥蜴丸に詰め寄られ、観念したのだろう。

「まあ、受け取りたくないのなら、受け取らなくても結構だ。希望者にだけ渡そうではないか。欲しい者はいるかね?」

「じゃッ!?」

 雪菜の口を大慌てで塞ぐユーフェミア。

「希望者はいないよ、ザリー軍曹」

「!?」

「いや、欲しそうにしているではないかね。希望者がいるのなら、渡すのにやぶさかではないよ、私は」

「欲しくないよ。セツナもそう言っている。そうだろう、セツナ?」

 ディアナの視線が怖くて、首を縦に振る雪菜。口はまだユーフェミアに塞がれたままであった。そして、雪菜が首を縦に振った事を確認し、安堵のため息を吐くエクリア。

「と言うワケだ。俺たちは、素晴らしいお宝はいらない。わかったな、ザリー軍曹」

「むぬうううう。今度は自信作だと言うのにッ!!」

「やっぱりか、絶対にいらんからな!!」

 何も聞かずにいたら、きっと最上階であのザリガニケーキを食べさせられたのだろうな。先に断っておいて良かった。それは、きっと雪菜を除いたパーティーメンバー全員の共通の思いだっただろう。

「だいたいにして、大鍋一つで全工程が作られるケーキなど、聞いた事がない。貴様、本当は妖術か何かでアレを作っただろう?」

「否、科学なり……ッ!!」

 直斗の問いかけに自信満々で科学と答えるザリー軍曹。

「おいおい、ザリー軍曹。大鍋一つであんな複雑怪奇なザリガニケーキを作れるような科学など、どこにもないよ。いくらワガハイが心優しい科学の子であっても、科学の冒涜をする真似は許せないねえ……、何かね? その眼は」

「「「「お前が言うな」」」」

 宇宙ナノマシン“スグナオール”などを製造している蜥蜴丸に、科学の冒涜など言う資格はない、そう全員が思っていた。雪菜を除いて。




「さて、行くか。雪菜の実力試しも兼ねてだけど、超古代科学技術怒迫力研究所イン王都を攻略しちゃおうぜ」

「何で説明を受けるだけでこんなに時間がかかるかなあ?」

 雪菜の疑問はもっともであろうが、直斗と蜥蜴丸がいるのだ。そう簡単に事が終わるわけはない。残りのメンバーはそう考えていた。もっとも、全員が言葉にはせず、胸の内にしまっておいたのだが。

「次のフロアーからだな。モンスターがいるのは。さ、中級者用とはいえ、気合を入れていこう!!」

 初心者用を選ばなかったのは、まあ、このメンバーなら大丈夫だろうという思いがあるからだ。

 直斗たちは、ザリー軍曹の見守る中、次のフロアーへ向けて足を踏み出したのだった。











「何故、あれ程不評なのだろう? 違う時の流れも体験できる優れモノだと言うのに……」

 ザリー軍曹は己の自信作が不評なのに、不満であった。

「どれだ、どれがいけないのだ……? いったい何の食材が違う時の流れをもたらすのだ……?」

 ザリガニだろうか、青汁だろうか、白子だろうか、レバーだろうか?

「何、科学に失敗はつきもの。次は上手くやればいいのだ。私はまだ、のぼりはじめたばかりだからな。この永久とわに続くザリガニケーキ坂をな」

 ザリー軍曹のリベンジは、いつの日か叶うのだろうか?


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