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第89話

「何故私を待ってくれなかったのですか?」

 何故か直斗と雪菜の前には長机があった。その後ろにはパイプ椅子。直斗と雪菜は並んでパイプ椅子に座り、正面の椅子にはシルヴィアと、その横に何故か蜥蜴丸。蜥蜴丸は何故か眼鏡をかけていた。微妙に似合っている。

「いや、いると思ってまして……」

「思ってまして? 確認はちゃんとしたのですか、指さし確認を?」

 右の掌を水平に、リズミカルに長机に叩きつけるという芸当をしてみせるシルヴィア。その肘は、一度も長机から離れる事はない。

 シルヴィアの横のパイプ椅子に座る蜥蜴丸は何事かをノートに書き記している。おそらくはパラパラ漫画か何かを描いているのだろう。この前、「どうやらパラパラ漫画でブレイクした芸人がいるらしい。いつかはワガハイもピンで頑張る時が来るやもしれんからな、芸の幅を広めておいても悪くはあるまい」などと言っていた。直斗としてはとっくにコンビを解散しているつもりなのだが、蜥蜴丸としてはまだコンビを解散しているつもりはないのだろう。残りのパーティーメンバーはもちろん、直斗と蜥蜴丸がコンビを解散しているとは思っていない。

「いや、していないけれど……」

 バン。

「基本でしょう、指さし確認は」

 バン、バン。

「それを怠っておいて、さっさと歩き出すとは何事です?」

 バン、バン、バン。

 規則正しく叩きつけられる掌に、直斗はビビり始めていた。

「しかも、やたらとイチャイチャして、楽しいんですか? 貴方は優しくしてくれる女なら誰でもいいんですか?」

 バン、バン、バン、バン。

「いや、いちゃついているわけじゃないけれど……」

 バンッ!!

 ビクリ。体全体が少し浮き上がる直斗。それを横から見つめる雪菜。彼女もまた、シルヴィアが漂わせている雰囲気に少し驚いていた。残りの女性陣が何故かひそひそ話をしているのだが、何だろう?

「イチャイチャして浮かれているのなら、まだ許せたかもしれませんが、普段の状態で忘れていたんですか、私を?」

「いや、イチャイチャしてても、普段でもシルヴィアの事はよく忘れています」

 直斗はもう、包み隠さず本当の事を話す事にした。

 バン。

「普段でも……?」

「はい」

 バン。バン。

「普段でも忘れている、と?」

「よく忘れます。学生時代は宿題もよく忘れていました」

 バン、バン、バン。

「今更嘘をつかないでくださいね。学生時代は宿題を忘れてなどいないでしょう? 元から宿題をする気など、かけらもなかったくせに」

「え、いや……」

 バン、バン、バン、バン。

「まあ、学生時代のナオトさんの事などどうでもいいのです。何故なら誰もそんな事など興味がないのですから。私への謝罪を要求します」

「の、後ほど文書でしっかりとしたモノを……」

 言い逃れをしようとする直斗であった。何故か分からないけれど、この場で頭を下げたくないと思ってしまった。

 バンッ!!

 しかし、その直斗の姑息な思考を、シルヴィアが掌を叩きつける事でうち破ったのだ。

「今、この場でです!!」

 ヤバイ、これ以上怒らせてもいい事は何一つない、そう、自分にとって。直斗は瞬時に判断を済ませる。これ以上ごねた場合、雪菜にまで謝罪をさせるように持っていくだろう。シルヴィアと、蜥蜴丸が。分かっている。この小芝居に一役買っているのは蜥蜴丸なのだから。

「す……、すみませんでした」

 そう、ここは退いておく方が身の為である。深々と頭を下げる。

「弁明の一つも出来ないのか、可哀相な厨二病め!!」

 いつもの敬語ではない口調のシルヴィアに驚いて、つい顔をあげてしまう直斗。

 ニヤニヤとした笑いが直斗を出迎えたのであった。

「さて、小芝居は楽しめましたし、超古代科学技術怒迫力研究所イン王都の攻略を楽しむとしますか。行きましょう、皆さん」

「まあ、小芝居を外側から見ている分には楽しめたけどね。大丈夫かな、ナオト君? なんだか項垂れているけど……」

「小芝居に巻き込まれた自分に項垂れているのだろう? 確か、この前見たドラマに似たような感じの場面があったな。まあ、シルヴィアからあのナントカ次長の役の人みたいな憎々しさは感じられなかったがな。役者の差だな」

「あの人はホント、憎らしかったよね。お芝居とは言え、凄かったなあ……。どうやって、日本とやらのテレビドラマを見る事が出来るのか、未だに分からないし、分かりたくもないけれど」

 シルヴィアに続いてユーフェミア、ディアナ、エクリアの三人が小芝居の行われていた部屋から出て行った。

「え? ちょっと、この世界で日本で放送されているテレビドラマが見られるの? どうやったら見れるの? 昔の土四……じゃなかった、月九は見られるのかな? もう、結構見逃しているんだよね」

「と、蜥蜴丸に聞いてくれるかな……?」

 雪菜が何故土四と言いだしたのか、それはきっと、永遠の謎だろう。とりあえず気にしない事にした。

「楽しみだなあ、テレビドラマ。ところで、渡●はまだやっているの?」

「もう終わったよ、●鬼」

 雪菜はその場に膝をついた。

「これが、時代の流れか……」

 雪菜って渡●好きだったかな? そんなどうでもいい事を思いながら、直斗もまた、部屋を後にしたのだった。




「さて、では気を取り直して、超古代科学技術怒迫力研究所の攻略にあたろうと思います」

 何とか、普段の精神状態に戻した直斗。パーティーメンバー全員を前にして、声をかける。

「あれ、雪菜は?」

「おやおや、私の場合は存在をスルーして、セツナさんの場合は指さし確認ですか?」

「え、いや、これはさっきの反省をいかして……」

「弁明の一つくらいしてみてはどうかね、厨二病患者よ」

「いやいや、しっかりと反省しているからこその指さし確認だよ。シルヴィアに対する謝罪の念で俺の胸はいっぱいだよ?」

「どうせ、すぐ忘れるくせに」

「弁明の一つでも、出来るかね?」

「すみませんでした」

 シルヴィアと蜥蜴丸の連携攻撃に素直に頭を下げる直斗。ここは、逆らっても意味がない。否、あの二人がコンビを組んだら、だいたい直斗かユーフェミアを追い詰めるまで攻撃をやめない。先手を打って謝っておくに限る。

「もう、いつまでミニコント続けるつもりなの?」

 ため息と同時に、エクリアの呆れるような声が飛んできた。

「無論、死ぬまで」

 間髪入れずに蜥蜴丸の返事が飛んだ。

「いやいや、蜥蜴丸さん、無理ですから。ミニコントはすぐ終わらなければミニコントと言ってはいけないと思います」

 直斗としても、本当に死ぬまでミニコントを続けられたらたまらないから、蜥蜴丸のボケにツッコミを入れる。

「流石はナオトさんですね。蜥蜴丸との息がピッタリです」

「嘘だッ!! 俺は、蜥蜴丸とのコンビは解散したんだ。解散理由は音楽性の違いだッ!!」

「いつまで言い張るつもりですか? 誰もそんな事信用していませんよ?」

 今日のシルヴィアはいつもより、えげつないなあ、そんな事を思いながら直斗とシルヴィアのやりとりを見つめているユーフェミアであった。ハッ、この後ナオト君を慰めたら、ナオト君の私への好感度はアップするかもしれないな。そんな事をのんきに考えているユーフェミアであった。

「おいおい、エルフ耳よ、この後さりげなく直斗を慰めてあげれば好感度ガッポリとか考えていないかね? なあに、心配するな。あの銀髪の次のターゲットは貴様よ。好感度を上げる暇などないという事を教えておいてやろうではないか。おお、ワガハイ、なんと親切な男、否、親切な蜥蜴」

「へ?」

 そう言われて直斗とシルヴィアのいる方向を見てみる。シルヴィアは真っ直ぐユーフェミアを見ていた。あの眼は、「次はお前だ」、そう言っているように見えた。

「何で私?」

「一番からかいがいがあるのが貴様だからだろうよ。エクリアであったら凍らされるかもしれんし、亜麻色髪であったら斬り刻まれるかもしれんからなあ。あの黒髪は、ワガハイもまだよく分からん。実力があるのか、ないのか。笑いに寛容なのか、厳しいのか。見定めない限り、銀髪もからかわないだろうよ。だからこそ、ターゲットは暫くの間、貴様一人という事だ」

「誰か、変わってくれないかなあ……、このポジション」

 誰も変わろうという人間はいなかった。






「いつまでも項垂れていていはいけないよね、うん。しょうがないよ、長寿シリーズは、いつか終わるんだ……」

 仕方ない。そう思考をきりかえ、部屋を出て行こうとする雪菜であったが、スケッチブックを見つけて、つい手にとってしまった。

 あの小芝居の間、蜥蜴丸がせっせと手を動かしていた。きっと、このスケッチブックに何か描かれているに違いない。たぶん、直斗君はスケッチブックではなくノートか何かだと勘違いしたんだろうけど。

 ページをめくってみる。スケッチブックもページと表現するのかは分からないが、それ以外表現方法を知らない雪菜であった。

「これは……」

 言葉を失った。

 彼女の目に飛び込んできたのは、おそらくだが直斗と雪菜を描いたイラストだろう。だろう、というのはそれ以外に判断したくなかったからである。

「ほとんど、ム●クの『叫び』じゃない……」

 見るんじゃなかった。彼女の脳裏を占めるのは後悔の念だけであった。

「忘れよう……」

 そう言いながら、長机にスケッチブックを置いて部屋を出る。

「忘れられるといいな……」

 とてもじゃないけれど、忘れられそうにない。ああ、今日は悪夢を見てしまいそうだ。






 部屋を出た雪菜を、パーティーメンバー全員が迎えた。

「あれ? 置いてきぼりにされたかと思ったよ」

「シルヴィアが怖いので、ちゃんと指さし確認を怠りませんでした」

 本当に怖いんだろうな、とは声に出さないでおいた。優しさというのも、必要だろう、今の直斗にとっては。たぶんだけれど。

「さあ、行こうか。全員そろったからな」

 かなりの長時間がかかったが、ようやく直斗たちは超古代科学技術怒迫力研究所イン王都に足を踏み入れたのだった。






「ようやく行ったかね。ワガハイが目をつけただけあっておかしな連中だ」

 機械音を響かせM蜥蜴丸は、遅れた仕事を取り戻す為、事務室に戻って来た。この事務室は、先程まで直斗たちが小芝居を行っていた部屋である。

「どうやったら、あの短時間で部屋を改造できるのかねえ?」

 まあ、自分と同じ蜥蜴丸であるヤツなら出来るか、そう考えを取りまとめ、部屋を元に戻す事にした。

 だが、彼の目に一冊のスケッチブックが飛び込んできた。

「何かね?」

 ページをめくってみると、そこには恐ろしいイラストが描かれていた。

「ふむ。全く分からん。こんなのに芸術的価値は認められんな」

 そうして、スケッチブックに火を点けるM蜥蜴丸。

「さて、仕事をせねばな。経営者とは、疲れるねえ」

 まあ、従業員には食費がかからないのがいいねえ。ザリガニとレバー、青汁、白子の購入費だけが異様にかかるのが難点だ。

「今日は、あいつらを入れて三組しか来ていないのか……。もっと、集客力を高めないといかんな。さて、どうするかねえ……」

 M蜥蜴丸の呟きは、それでも楽しそうであった。



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