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第8話

 なんという事であろうか。こんなことがまかり通ってもいいと言うのだろうか? 神は我々を、否、俺を見放したというのか!?

 直斗は今目の前のナイスミドルを指さし、口をパクパク開閉させている。余程のショックを受けたようだ。

「おいおい、人の顔を指さしながら口をパクパクさせるなんざ、失礼な行為だぜ」

 確かに、声はバーソロミューと同一であろう。眼差しも初めて会った時と同じに見える。しかし、直斗が彼から受けた第一印象は「髭面」であった。むしろ、髭が彼の本体に見えたと言っても過言ではないだろう。

 



 これがギャップ萌えというやつだろうか? 否、ギャップ萌えが通じるのは女の子だけでなければならない。「実は脱いだら凄いんです」とか、「眼鏡をとったら美女か美少女だった」というやつだ。そうだ、そうでなければならない。髭を剃ったらイケメン、ナイスミドルだと!? 許せん、そんなことがあっていい筈がない。むしろあの髭が奴の本体であった筈だ。髭はどこへ行った? それともあれか、今は髭がどこかからこの人間の体をした何かを操っているのか? そうであって欲しい。だいたいイケメンというのは信用してはいけない。こいつらは俺とは人種が違うんだ。会社の先輩とナンパした時もそうだったじゃないか。俺たちがナンパに何度も失敗した時もただイケメンというだけで女の子をかっさらっていった奴らがいたじゃないか。そうだ、イケメンは敵だ。今こそイケメンを滅ぼすべき時だ、そうに違いない。立ち上がれ俺、イケメンを滅ぼす時は今、戦うべき時は今なのだ。さあ、開戦の時間だ。勝利を我が手に、栄光を我が手に!! 俺と共に戦う同志が例えいなくても構わない。俺一人でだって殺ってやる。きっとイケメンを倒せばそれだけ経験値が大量に入るに違いない。イケメンバスターの称号だって手に入る筈だ。なんだ良い事だらけじゃないか。それにイケメンが一人でも少なくなればもしかしたら俺が女の子にモテる確率が上がるかもしれない。さあ、殺ろう!!





 以上の思考を僅か0.1秒で終わらせ、いつの間にか携帯電話を手に持っていた。

 いったい何を考え555を入力したかは分からない。繰り返される「error」の電子音声。

 何故だ!? 何故errorなのだ? 俺の何がいけないというのだ!?

 全てがダメだとしか言いようがなかった。全てがいけないとしか言いようがなかった。

 ダメ人間がここに爆現していた。

「ナ、ナオト? いったい何してるの?」

 エクリアの声に自分を取り戻す直斗。

 何故自分は携帯電話を握っているのだ? そして繰り返される虚しいerrorの電子音声はいったいなんだというのか? 正気を取り戻した彼には分からないことだらけであった。


「なるほど、それで武器を作ってもらえないかと言う事か」

「お願いできますでしょうか?」

「他にも仕事抱えているからな。すぐには無理だ。1、2週間待ってもらうことになるかもしれんが、それでいいなら俺がまた前のとおんなじもの作ってやってもいい、もちろん金は頂くがな」

「お願いします」

 今はエクリアと工房の主人ドルトムントの会話を聞いている。

 ドルトムントはスキンヘッドのマッチョな中年男であった。バーソロミューとは顔なじみであるため娘であるエクリアもここで武器を作ってもらっていたのだ。

 連接剣は並大抵の職人が作れるものではなく、世界で作れるのも僅か数人であるということだ。それだけでこのドルトムントと名乗った職人の腕は相当なものであることが分かるというものだ。

「しかし、あれはそう簡単に壊れたり斬れたりはしない筈だ。エクリア、どう使ったらこうなるんだ? 並大抵の切れ味じゃあねえ」

 ドルトムントが斬られた連接剣を見ながら唸る。己の自信作がこうも簡単に斬られるなんて実物を見せつけられても簡単に信じることは出来なかった。

 その連接剣を見ながらバーソロミューは口笛を吹いた。ドルトムントをバカにした口笛ではない。彼もまたドルトムントの職人としての腕は最高級の物だということを確信している。そして、娘がうってもらったこの連接剣も最高級の材質を使って造られたものだということを理解していたのである。

「こいつをいとも簡単に斬ってやがるな。確かにこれは伝説級の刀剣類でもなければこうも綺麗な切断面を示すことはないだろう」

「ああ、俺の腕も全然足りねえ。この斬れ味を出す刀はまだうてねえ。いや、死ぬまでうてねえかもしれねえ」

 親父2人組が何か喋っているが全然理解していない直斗である。むしろ、それを斬ったのは自分であるためとりあえず口は一切挟まないことにした。

「まあ、いい。以前のと同じでいいんだな、エクリア。連接剣なんてお前さん以外使っている奴もいないぞ。他の武器に変えようとは思わないのか?」

 ドルトムントにそう問われたエクリア。

「うーん、他の武器はしっくり来ないというか、何というか。私の戦い方に合うのを探していきついたのが連接剣だからね。今更変えようとは思わない、かな」

 エクリアの意思は固そうだ、そう思って連接剣をうつことを約束するドルトムント。

「それで、坊主も欲しいんだろ、武器。何がいいんだ? 予算次第で造ってやってもいいぞ」

「じゃあ、1000Gで何かいい刀を」

「よし、そこに正座しろ。説教してやる」

 言い終わる前に正座を要求された。もしかしたら職人のプライドを傷付けてしまったのかもしれない。

「いやいや、1000Gでいい刀造れないのは知っているよ。ただ、俺は特に武器を必要とはしないんだ。だから、1000Gくらいで見た目だけ武器持ってますみたいな形にしようと思うんだ。そういう虚仮脅しになりそうな奴ないかな?」

 1000Gでいい武器を得ようと思ったのは間違いだったようだ。最後まで言わないで命拾いをしたかもしれない。

「ふうん、虚仮脅しに使える武器ねえ。じゃあ、あそこにある奴で気に入ったものを持って行っていいぜ。もちろん金はとるがな」

そう言って指さされた先には筒状のものに無造作に突っ込まれているいくつかの武器であった。

「あれ?」

「おう、失敗作だったり、気に入らなかったり、冒険者がいらないと言って置いていったものの中からギリギリ使えそうなものが入れてある。どれか一つ選んでいいぜ」

 そう言われて直斗はそれに近づく。どんな武器を選ぶのか興味を持ったエクリアが後ろについてきた。

 いくつかを手にとってはみたが、元々武器に興味のない直斗である。

 どうせなら日本刀が欲しいところだが、この“ファーガイア”、世界観的に日本刀がとてもではないがありそうにない。しかし、連接剣なんて架空の武器が作り手は少ないとはいえ、実在する世界である。侮れはしない。

 その中から一つ「お?」と思うものを発見した。

 期待していなかった日本刀がそこにあった。

 何という僥倖。俺はこの刀に心奪われた。さっそく鞘から剣を抜いてみる。

 その瞬間、直斗はそれを床に叩き付けたくなった。

 鞘はいい。もしかしたら高級なものかもしれない。心奪われたのも当然かもしれなかった。

 しかし、鞘から抜いた刀身は竹光であった。

「嘘だあ……」

「にゃう」

 慰めるようにコリスに右肩を叩かれた。もしかしたらバカにされたのかもしれない。どちらの行動であったかは気にしないことにした。

「えーと、ざ、残念だった……ね?」

 エクリアもかわいそうに思ったのか、気落ちしないようにとでも言いたげに声をかけてきた。

「竹光かよ、使い道がねえなあ」

 確かに、武器としては何の使い道もない。人を殴るならまだしも、モンスター相手に竹光を振るったとしても何の効果もありはしないだろう。

 もちろん、人を無闇に殴る趣味はないので、余程の事がない限りは人を竹光で殴りつけることはないだろう。冒険者なんて鍛えている奴が多いので、竹光で殴ったとしても、何の効果もなさそうだ。

鞘と柄の部分だけは何故か高級そうだ。何故そんなところに金をかけたのだろうか。きっとこれを持っていた奴は見栄っ張りだったに違いない。

「おっさん、これにするよ」

 ドルトムントに告げて、竹光を貰い受けることにした。

「いくらになる?」

「……お前さん、本当にそれでいいのか? 後悔しないか?」

 ドルトムントが呆れながら声をかけてきた。いや、普通誰でも彼と同じ反応をするだろう。竹光一本で冒険者の旅に出ますなんて、自殺行為をするのに等しい。

 だが直斗は普通ではなかった。これでいいという男であった。

「いくらになる?」

 もう一度尋ねる事にした。出来ればタダがいいと祈りながら。

 もしかしたら祈りが通じたかもしれない。

「……タダでいい」

 鞘を取り付けられるようなベルト(ガンベルトのようなもの)を同時に貰う。こちらは残念なことにタダにはならなかった。結局は1000G払うことになった。


 バーソロミューはドルトムントといろいろ話があるということだったので、エクリアと一緒に工房を出ることにした。

 いつの間にか日が落ちかけていた。

 特に話をすることなく、並んで歩く二人。

 直斗の泊る宿屋が近付いてきた。

「ねえ、明日、どうする?」

「明日?」

 もしかして、デートの誘いだろうか? 頭の中の直斗が小躍りしている。ヒャッハー。

「明日、ナオトが良ければ、近くの洞窟に行こう。ゴブよりは強いモンスターがいるからなり立て冒険者のレベル上げには最適な場所があるんだ。そこでレベル上げしてから、いくつか冒険者ギルドの依頼をこなせばいいと思うよ」

 ……レベル上げの誘いだと? これが上げて落とすというやつか。頭の中の直斗はガックリと膝をついた。過度の期待はするものではない。

「……ああ、いいよ。一緒にレベル上げに行こう」

 返答はどのような調子で言ったかは分からない。

「じゃあ、明日の朝七時頃に宿屋の前でね」

「おう」

「……デートみたいなもの、かな?」

 期待して落とされたと感じていた直斗には最後にエクリアが呟いた一言を聞き取ることは出来なかった。


 エクリアと別れ宿屋に入り、食事と風呂を済ませてから泊っている部屋へと入る。

 その時になってようやく直斗は気付いた。

「コリス、エクリアに連れて行かれちまった……」

 彼は異世界に来てから初めて孤独な夜を過ごすことになった。

 まあ、いい。今日は久しぶりにベッドで寝ることが出来そうだ。いつもはベッドをコリスに占領されている直斗は久しぶりにベッドに寝た。




「気付いているのかなあ、ナオトは?」

どうも、デートまがいな冒険に誘ったことに気付いていない感じがした。そのおかげかコリスを連れて来てしまった。

 直斗が寝るベッドより少し高級なベッドにコリスと一緒に寝ることにした。

「お休み」

 そうコリスに声をかけた。

「にゃあう」

 お休み、今日はいいベッドだ。

 そう言いかえされた気がした。


ナオト・カミシロ(闇)

性別:男 

レベル:99 NEXT 99999/99999

体力:99999 精神力:99999

攻撃力:∞(ただし、イケメンへの攻撃に限る)

防御力:∞(ただし、イケメンからの攻撃に限る)

魔力:∞(ただし、イケメンへの魔法攻撃に限る)

魔法抵抗力:∞(ただし、イケメンからの魔法攻撃に限る)

反応値:∞(イケメンだけが何故か視認できない)

命中率:物理法則を無視してでも攻撃が当たる(ただし、イケメンへの攻撃に限る)

回避率:何をやっても当たらない(ただし、イケメンからの攻撃に限る)

運:最悪 (イケメンにとって)

装備品:黒いコート 黒いズボン 怪しい携帯電話

称号:イケメンバスター

所持金:9999999(イケメンから奪った金額。これでもまだカウンターストップには程遠い)

闇ギルドランク:EX


イケメンと対峙した時にのみこのステータスになるとかならないとか。

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