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第78話

 波だ。漆黒の闇が、波となってうちよせていた。この漆黒の闇は、いったい何なのだろう?

 ああ、そうか。これは、俺の闇だ。俺の心の闇だ。

 俺が決して抜け出せる事の出来ぬ闇だ。

 そう、厨二病と言う名の、一度罹患すると根治の難しい病の闇だ。

 噂によると、リア充になるか、死ぬしかないらしい。根治するには。あと、リア充になれたとしても、根治出来るかどうかは、相方次第らしい。リア充になったとしても、更にドップリとはまる場合もあるらしい。

 しかし、俺はいったい何時から、いや、何歳の頃からこの闇に足を踏み入れたのだろう?

 いつまでが、この闇から抜け出せるチャンスだったのだろう?


 うちよせる波が、姿を変えた。

 漆黒の闇の中、今、俺は坂を上っている。終わりの見えない坂だ。

 ただ終わりが見えないのなら、始まりの場所に戻ればいい。

 だが、この坂は違う。始まりの場所は、もう見えないのだ。

 何メートル登ったのだろう? 周りはきりたった崖だ。

 崖の下には、いくつもの死体が見えた。そう、この坂から脱落していった者たちの、いわばぬけがらが大量に、そこらじゅうに転がっている。

 遙か奈落の底にその死体は転がっている筈なのに、まるで目の前にその死体があるような、そんな錯覚を覚えてしまう。

 そのぬけがらに纏わりついているのは、恋人や子供であったりする。

 そう、彼らがこの終わりの見えない坂から、ぬけがらたちを、否、俺の同胞たちを引きずりおろしたのだ。

 同胞たちが何人も、何十人達も、この坂からぬけがらとなって転がり落ちていく。

 ぬけがらとなった彼らは、見果てぬ夢を完全に諦める事が出来るのだろうか?

 そして、己の子供たちが、自分が果たせなかった夢を、辿り着くことが出来なかった坂の上、いや、山の頂点まで辿り着くという夢を果たしてくれることを、もしかしたら願うのかもしれない。

 だけど、俺は違う。

 俺は辿り着いて見せる。彼らが辿り着く事の出来なかったその先へ。山の頂上へ。そこでしか見る事の出来ない景色を見る為に。

 俺は永遠に上り続けてみせる。この、永遠に終わる事のない道の向こうへ辿り着く為に。

 ああ、でも、まだまだ先は長い。

 引きかえす事など出来ない。俺は、この坂の途中で転げ落ちていった同胞たちの分まで、上り続けなければならないのだから。

 先は長い。永遠に終わりなど見えない。

 弱音を吐きたくなる。この苦行を永遠に続けたとして、辿り着ける境地は、本当にあるのだろうか? 辿り着いた時、俺は本当に解放されるのだろうか?

 それを確かめるためにも、俺は上り続けるだろう。

 そうさ、まだ俺は上りはじめたばかりなんだ。この、永遠とわに続く厨二坂をよ……!!
































 未完!!






















 神代直斗先生の次の人生にご期待ください!!




































「なあ、蜥蜴丸……」

「何かね?」

「まるで、モノローグのように語るの、やめてくれないか? しかも、俺の心情のように長々と語りやがってよ」

「仕方ないではないか。やる事などもうないぞ」

 そう、この漆黒の闇が支配する空間に、何時間いるのだろうか? 最初はこの漆黒の闇から抜け出そうと、必死でもがいた二人であったが、抜け出す事は叶わなかったのだ。

 もう、色々と諦め、先程から二人でポーカーやったり、ババ抜きしたり、桃鉄やったり、ある意味エンジョイしていた。

「しかも、最後には俺を死んだ事にしやがって。だいたい、死んだ場合はアレだろ? 神様か女神様か天使が謝りながら出てくる場面だろ? 私たちのミスであなたを死なせてしまいました。ごめんなさい、チート能力与えて違う世界で新しい人生を送ってもらいますトカ言ってくれる筈だろ?」

「貴様は、もう、アレだな。どこかの小説投稿サイトによくある異世界転生モノに毒され過ぎではないか?」

「その場合、俺は、女神様か天使(ただし、可愛い女の子に限る)をお供にして、次の人生を送るね」

「おいおい、逝っちゃってるね、既に」

 こうして軽口をたたきあっても、無駄だという事を分かりきっている。

「どうしたら、ここから出る事が出来るんだ?」

「猫娘の力でも借りない限り、ここから抜け出す事など出来んだろうよ。連絡取れないのか、猫娘とは?」

 猫娘……、リリスの事か。

 直斗は黒コートの内側から携帯電話をとりだし、リリスにかけてみようとして、圏外と画面に表示されたのを見て、うなだれた。

「圏外かよ……、お約束だな」

 



 何故か聞こえてくる波の音に、まるで海岸線に二人並んで座るかのようにして、耳を澄ませていた。これで、自分の横に座るのがエクリアで、夕日の沈む海を眺めていたなら最高だったのにな、そんな思いが、直斗の胸をしめつけた。

「なあ、蜥蜴丸」

「何だ?」

「何故、俺たちはこの世界に、この広い世界に二人ボッチなんだ?」

「何度も言ったであろうが、この世界に来る資格があるモノは、あのザリガニケーキを食したモノだけよ。ワガハイと貴様しかいないことがそれを証明しているではないか。ワガハイと貴様、二人があのザリガニケーキに撃沈した以上、誰もその後を追ってザリガニケーキを食べるモノなどいないだろうよ」

 何度も言われた言葉だ。

「ゲーサンは食わなかったのか?」

「食わなかったのだろうなあ」

「風牙は?」

「身の危険を感じたのかもしれんな」

 女性陣があの毒々しいザリガニケーキを食べるとは思えない。故に、この世界に来る事が出来るのは、直斗と蜥蜴丸しか存在しないのである。

「この世界で、俺たちは生き延びる事が出来るのか?」

「いや、それ以前にここが死後の世界でないと、貴様は断言出来るのか、直斗よ。死後の世界で生き延びるとは、どういう理屈かね?」

 蜥蜴丸の疑問はもっともだろう。だが、直斗は認めたくないのだ。

「認めるモノかよ、死んだだなんて」

「時には諦めも肝心だ、という名言を聞いた事がある。今の状況がそれではないかな?」

「諦めてたまるかよ。だいたい、死因がザリガニケーキだなんて、悔やんでも悔やみきれんわ!!」

「それも、そうだな」

 神代直斗、享年二十三。死因、ザリガニケーキ。

 蜥蜴丸、享年十六(何故なら、“星の海を渡る旅人センチメンタル・ジャーニーだから)。死因、ザリガニケーキ。

 蜥蜴丸の享年が十六というのは、あくまでも彼がそう言い張っているからである。誰も認めてはいないが。

 二人とも、自分の死因を考えてみる。あまりにも、情けなかった。

「ああ、死ぬならやはり、星の海で死にたいモノよ。地上ではなく、星の海が本来ワガハイの生きるべき場所なのだから」

「ああ、死ぬなら大好きな女の子に看取られて死にたかったなあ……。天寿を全うして」

「貴様が天寿を全うする頃には、エルフ耳と亜麻色髪を除けばみんな、婆になっているかもしれんぞ、どうする?」

「バカだな、エクリアはおばあちゃんになっても可愛いんだよ、たぶん」

 根拠のない自信であった。自分がいい年になった頃、カッコイイジジイになっているだろうか? ジジイになっても、厨二病を患っていたらどうしよう?




「暇だな……」

「もう、やる事が本当になくなったな」

 直斗と蜥蜴丸の周りには、格闘ゲームや野球ゲーム、サッカーゲーム、人生ゲーム、双六など、色々なモノが転がっていた。

 最初ははまって頑張っていた二人であったが、いい加減厭きてきたのである。

 結局、波打ち際で波の音を聞いている二人であった。

「なあ、今気付いたんだけどさ」

「何だ?」

「時計の表記がおかしい。野球ゲームで百四十試合以上戦っていたのに、時計の表記が五分ほどしか経っていないんだ」

「何……だと……?」

 リリスがいじった携帯電話の時計である。時間の流れはたぶん、正確な筈だ。先程リリスに電話をかけようとして見た時間から、五分ほどしか携帯電話の画面表記では時間が経過していないのだ。

「日にちは?」

「もちろん、変わっていない。一年と五分経ったなんてオチもない」

「バカな……、では、ワガハイらは五分ほどで、丸数年分もの時間経過を体感したとでも言うのか? 日●ハム対巨●で日本シリーズを戦い、役者と言われたキャッチャーに毎打席デッドボールを与えたのは、十秒にも満たない時間だったとでも……?」

「そうだ」

「時間の流れとは、これ程残酷なモノなのか……ッ!!」




 世界に光がさしこんだのは、いったいどれ程時間が経った頃だろう?

 時計を最初に確認してから、実はまだ、七分程しか経っていなかった。

「やはり、貴様ら無事であったか。と言うより、ここは何処だ? ひよっこども、説明をしたまえ!!」

 特徴的な声の持ち主が、二人っきりであった世界にやって来たのだ。

 世界に光が満ち溢れたかと思ったが、すぐにその世界はまた、漆黒の闇に閉ざされたのであった。

「ここは、アレを食したモノだけが来る事の出来る世界よ」

「アレ? アレとは、何ぞ?」

「ザリガニケーキだ」




「バカな、あのケーキにあれ程の破壊力がある筈はない。何故なら、ちゃんと食べられる食材で作ったのだからな!!」

「だが、現実に俺たちはここにいる。この、漆黒の闇に閉ざされた世界で、三人ボッチなんだよ」

「帰る方法は?」

「未だ、見つかっておらんよ。諦めるしかあるまい。科学は、世界の神秘の前にこうも無力なのだよ」

 あれから、三人で色々と試したが、結局はこの闇に閉ざされた世界から抜け出す方法は見つかっていない。

「エースのスリーカード」

「むうぅ、ブタよ」

「クカカカ、ロイヤルストレートフラッシュ」

 結局はポーカーをしたりして過ごしていた。




「最初の頃は時間を確認していなかったから分からなかったが、たぶんようやく十分が過ぎたあたりだろう」

「そうか、私がアレを食したのも、お前たちが食べた後ある程度時間が経ってからだからな。実際にそれくらいしか、向こうでは時間が経っていないのだろうよ」

「ふむ、もしかしたら、ある程度時間が経てばこの世界から抜け出せるのかもな。ワガハイらは、向こうの世界では死んでいなかったのだろう?」

「おお、産まれたての子鹿のように、ピクピク震えておったわ」

 産まれたての子鹿など見た事のない直斗には、その例えがイマイチ分からなかった。

 だいたいにして、産まれたての小鹿を表現するのに、ピクピクと表現するのはいかがなものだろう? プルプルとかのほうが良かったのではないだろうか? もっとも、直斗も国語力には自信がなかったのでツッコミは入れなかった。




 いつからだろう?

 自分の腕を誰かにつかまれている感じがしだしたのは。

 誰かに抱きしめられている感じがしだしたのは。

 自分を呼ぶ声が聞こえる。

「俺を呼ぶ声が聞こえる」

「どうした、遂に幻聴が聞え出したか?」

「むうぅ、いかんぞ、気をしっかりもて!!」

 直斗は自分を心配する蜥蜴丸とザリー軍曹の声を無視した。

 やがて、自分の手を包む暖かな感触を、頭の下に柔らかい何かが当たっている感触を、確かに実感するようになった。

「ああ、暖かい。この暖かさは、何処からくるんだ?」

「おい、直斗。そこから先は、きっと海だ」

「ええい、行ってはならん。逝ってはならんぞ!!」

 ザリー軍曹の言葉のニュアンスが途中からおかしかった気がしたが、直斗にはそんな事どうでもよかった。

 海を、ひたすら進む。

 あるかなきかも分からぬ岸辺を目指して。

 帰ってこい、戻ってこい、そう叫ぶ二人の声を遙か遠く背にして。




 やがて、直斗の目に光が見えた。

 その光に、直斗は飛び込んだ。










 目の前に、エクリアの顔が見えた。

「ナオト? 目が覚めたの?」

 今、自分はエクリアの膝枕で眠っていたようだ。

「大丈夫?」

「あ、ああ」

「まったく、十分以上も目を覚まさないとは……、心配したぞ?」

 右手をユーフェミアが、左手をディアナが握ってくれていたようだ。ああ。自分の腕を握ってくれていたのは、ユーフェミアとディアナだったのか。

「ごめん、心配かけたな。ありがとう、三人とも」

 ストレートに感謝の言葉を告げるのは、少し恥ずかしかった。

「ただいま」

 今、一番こう言いたかった。声をかけたら、三人が声を揃えて

「お帰り」

 そう言ってくれた。

 ああ、やっぱり、ここが俺の帰る場所なんだ。

 世界は、こんなに暖かい。俺は、この広い世界に一人ぼっちじゃないんだ。

 ちょっと、ポエマーになりかけた直斗であった。




 上体を起こして周りを見てみると、仰向けになって倒れている蜥蜴丸とザリー軍曹がいた。蜥蜴丸はゲーサンに蹴りまくられていた。

 ザリー軍曹は直斗が目を覚ました数分後に起き上がった。

 蜥蜴丸は意識を取り戻すのにその後一時間以上かかった。ザリガニケーキを食べた量が多すぎたのかもしれなかった。

「世界は、こんなにも色彩に溢れていたのかッ!!」

 蜥蜴丸のこの言葉に共感できたのは、この場にいたメンバーの中で、直斗とザリー軍曹だけであった。漆黒の闇に閉ざされた世界にいた彼らだけが、蜥蜴丸の言葉に共感できたのだ。

 ああ、光あふれる世界は、美しいモノなんだ。


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