第70話
直斗はただひたすらに火を見つめ続けていた。背中には素晴らしいクッション。今の直斗を慰めているのは背中のクッションだけであった。しかし、これ程素晴らしいクッションを俺は持っていただろうか? まあ、そんな事はどうでもいいか。そんな事より真剣に考えなければならない事がある。
俺は何故、エクリアに嫌われたのだろうか? おかしい、好感度MAXという答えで何故嫌われなければならないのか?
別に取り繕ったわけではないのに……。
今の直斗はキャンプファイヤーを見つめる事しか出来なかった。涙が溢れそうであった。
そんな直斗に声をかける者がいた。エクリアである。
「ナオト、起きているの?」
「……起きているよ」
直斗の返事を待ってエクリアは直斗の隣に腰かけた。不寝番は今直斗の順番ではあるが、現状役に立ちそうにない。
「怒ってる?」
「泣いてる」
むしろ、もう出る涙もなかった。
何でこうも素直に返事してしまうのだろう? きっと、キャンプファイヤーは己を素直にさせる何かがあるに違いない。科学的根拠はもちろん何処にもないが。
「まだ私が怒っている理由が分からないの?」
「……ゴメン、分からない」
返事は素直にするに限る……のだろうか。
「私への好感度、何でMAXなんて表現したの? 蜥蜴丸とは違う表現して欲しかったな」
エクリアは直斗の肩に頭を預けながら言った。
「別の表現? あれは、蜥蜴丸がそんな事を言っていたから引っ張られただけで、悪気はなかったんだ。俺のエクリアに対する好感度は百だよ。最大値」
「いつから?」
「いつからかなあ? 一目惚れに近かったからなあ。でも、やっぱりアレかなあ。サンドワームを倒した後さ、エクリアにサンドワームの魔石をプレゼントしたじゃない。俺が初めてエクリアにあげたプレゼント。あの時のエクリアの笑顔なんだよなあ。あれに、心を撃ち抜かれたんだ。あれから、ずっとだよ」
火は俺を素直にするのだろうか。普段の直斗であれば言いそうにないセリフがスラスラと口をついて出た。
「ナオト……」
「笑ってもいいよ。でもさ、あれからやっぱりこの世界で生きて行こうって気になれたんだ。エクリアと出会えた。だから、今こうして生きてる。そう思うんだ」
「ナオト、私はね、あの時凄く怖かったんだ。サンドワームに襲われたあの時。ああ、今日ここで死ぬんだって。でもさ、あの時ナオトが助けてくれたんだ。命がけで」
「そうだったかな?」
「ベトベトだったけどね」
思いだし苦笑するしかない直斗とエクリア。確かに、あの後生き延びた喜びから抱き合ったが結局二人ともベトベトになったのだった。
「だけどね、あの時から、ナオトはヒーローになったんだ。私のヒーローに」
「エクリア……」
「だからね、私のナオトに対する好感度も……」
見つめあう直斗とエクリア。
エクリアの俺に対する好感度はどのくらいなのだろうか? そして、少しずつ近づいてくるエクリアの顔に高鳴り続ける俺の胸よ、落ち着け。落ち着くのだ!!
――貴様らはいつまで我をクッションにしてラブコメを続けるつもりかな?
もう少しで唇が触れるかもしれないという時に、風牙が口を挟んできた。
猛スピードで離れる二人。二人とも顔が真っ赤になっていた。
「風牙、何で止めるんだ!! もう少しだけ黙っていてくれても良かっただろうが!!」
――ほう、本当に良かったのかな、止めなくて?
エクリアは顔を真っ赤にしてその場から逃げ出した。だが、エクリアを追いかける余裕は今の直斗にはもちろんなかった。風牙を問い詰めなければならない。
――貴様は今から我に感謝する事になるだろう。我に怒りを向けても良いのかな?
「今、まさに俺の怒りは次元をも超えようとしているよ」
――相変わらず、バカというか抜けているというか……、ユーフェもこのような男の何処がいいのだろうか?
「おい、今ユーフェは関係ないだろう? 何でいいところで邪魔をしたのか、返答次第によっちゃあ容赦しないぜ」
今の直斗を占めるのは、もう少しでエクリアといい関係になれるところだったのにという憤りのみであった。風牙をクッションにして話をしていた事など忘れている。風牙にとってはいい迷惑であろうが、直斗に風牙の気持ちを思いやる余裕などない。
――あちらを見ろ。火の反対側だ。
風牙に言われてキャンプファイヤーの反対側を見た。
直斗の視界に飛び込んできたのは、ビデオカメラを抱えて直斗を撮っている蜥蜴丸であった。
「おいおい、何故教えたのかね? ワガハイ、一部始終を撮っていたよ。もう少しでいいところであったのに」
「いつから撮っていた?」
「バカか貴様は。いつからだと? それはもちろん貴様が黄昏ていた時からに決まっているだろう? ワガハイ思ったね。ここは撮影チャンスだと。一部始終を映像として残してやろう、そしてその映像で貴様をからかい続けてやろう、と。エクリアが来たのは予想外であったよ。でも、その程度では動じないよ、ワガハイは!!」
「蜥蜴丸、その映像をよこせ。もしくは処分しろ」
そのような映像が残っているなどたまったモノではない。蜥蜴丸にからかい続けられるのはもちろんの事だが、これからエクリアと一緒に旅をする事をバーソロミューが許してくれないかもしれない。そちらの方が直斗にとっては一大事である。
「クカカカ、バカだな貴様は。撮影すると同時に異空間サーバーに映像データは転送されている。つまりは、ここでワガハイを例えボコろうとも、貴様が映像データを取り戻す事はないのだよ」
「そうか、だがお前を殺せば異空間サーバーからデータを引き出せるモノはいなくなる。成程、ここでお前を殺せば俺はこれから枕を高くして眠れるよ。何、蜥蜴を殺したくらいでは罪には問われない。むしろ猫神教の信者からは崇拝されるかもしれんな。よし、殺そう」
「おいおい、目がイっちゃっているよ、直斗。だが、殺せるかね、直斗よ? 愛方たるワガハイを!!」
「コンビは解散だな。理由は音楽性の違いだ」
「音楽性? バカだな貴様は。生まれ育った星も違えば厨二病と科学の道、違う道を歩んできたワガハイらは元々音楽性など全然一致していなかったではないか!!」
「バカだな蜥蜴丸よ。そんな事は分かっている。ただ単に音楽性の違いって言ってみたかっただけだよ」
そして、追いかけっこが始まった。
途中でゲーサンを踏みつけてしまった為、怒り狂ったゲーサンに二人はぶちのめされたのであった。ついでに蜥蜴丸のビデオカメラも破壊された。だが、アレが最後の一つかどうかは誰にも分からない。
ゲーサンは二人をぶちのめした後、二度寝をしたのであった。
朝、何か柔らかいモノに頭を置いている感触を感じながら直斗は目を覚ました。
直斗の視界にはエクリアの少し恥ずかしげな笑顔が飛び込んできた。
「おはよう、ナオト」
「ああ、おはよう」
朝一番でいいモノを見ることが出来た。直斗はいつの間にかは分からないがエクリアの膝枕で眠っている事が分かり、二度寝をする事に決めた。
「お休み、エクリア」
「アハハ、ダメだよナオト。もう、朝ご飯だから。今日は古代科学研究所に行くんでしょう?」
「そうだったな」
苦笑しながらも起き上がる直斗。ああ、もう少し柔らかいエクリアの膝枕を堪能しておきたかった。
「ふん、仲直りはしたようだな。朝食にするぞ。今朝の当番は私だ。残すなよ」
どうやら夜の間に仲直りはしていたようだ。二人の事を昨日から心配していたが、何事もなく元通りになったようだ。……少しだけ今までより距離感が近いような気もするが。
「朝食はディアナか。食べられるモノだろうな?」
「涙の味しかしないかもしれんぞ?」
「からかうのはやめてくれよ」
朝食終了後、古代科学研究所へと向かう事になった。
教えられた場所にやって来た。何もなかった。一面砂が敷き詰められているだけの場所であった。
「おいおい、本当にここか?」
直斗の疑問ももっともであろう。教えらえた場所は確かにここなのだ。だが、研究所といわれている場所なのに、建物一つ見当たらないのは、どういう事だろう?
「ナオト君、聞き間違えた?」
「いやいや、聞いたのは俺だけど、鍵を受け取ったのは蜥蜴丸たちだろう? 最終的な確認をしなかったのか?」
直斗は昨夜の事など覚えていないかのように蜥蜴丸に声をかける。
「ワガハイもここだと聞いたのだがなあ」
もちろん、蜥蜴丸も昨夜の事などどうでもいいかのように答える。
その時、蜥蜴丸が首から下げていた古代科学研究所の“鍵”が光った。
まばゆい光を放ち始めたソレに驚き、コリスがエクリアの腕の中から直斗の黒コートの内ポケットに逃げ込んだ。
そして、あたり一面に霧が立ち込めた。
霧が立ち込め始めた時、あたり一面に轟音が響き渡った。そして、地面が揺れた。
だが、その揺れは直斗たちを転ばせたりする事はなかった。
直斗たちが立つエリアの少し手前までしか揺れていなかったのである。
そして、霧が晴れた時、ソレは威容を直斗たちの前に現した。
天まで届くのではないかと思わせる巨塔であった。そして、それを囲むかのように延々と続く塀があった。半径数キロメートルはあるのではないだろうか?
中央部には門。おそらくそこから入らなければならないのだろう。
おそるおそるではあるが、近づく直斗たち。
一行の眼に飛び込んできたのは、よく分からない字であった。
だが、直斗と蜥蜴丸にはよく分かった。
「蜥蜴丸よ、どう見る?」
「どう見る、とは?」
「俺にはこれは漢字にしか見えん。お前にはどう見える?」
「やはり、貴様にも漢字にしか見えぬか。どうやらワガハイら、ゲーサンに殴られ過ぎて頭がおかしくなったかな?」
「いやいや、俺はおかしくないぞ。お前は元々おかしいがな」
「おいおい、厨二病の貴様が科学者たるワガハイをバカにするのかね? 許さんよ」
また口喧嘩を始める二人であった。
「まあまあ、落ち着きなよ。これ、なんて書いてあるのかな? 私達には読めないから、教えてくれないかな?」
エクリアが二人を落ち着かせるためになんと書かれているのかを問う。どうやらファーガイアの言語ではないらしい。
「「超古代科学技術怒迫力研究所」」
古代科学研究所ではなかったのだろうか?
そして、門が開いた。
どうやら、中にいる何モノかが招き入れようとしているらしい。
「どうする?」
「招待には応じればいいのです。怖いのですか?」
「いや、怖くはないけど……、なら、シルヴィア先頭に立てよ」
「嫌です。怖くはありませんが常に安全地帯に立ちたいのです、私は。なので先頭にナオトさんと蜥蜴丸、殿にはゲーサンを配備することをオススメします」
シルヴィアを先頭に立たせるのは無理そうだ。
結局直斗と蜥蜴丸が先頭に立ち、超古代科学技術怒迫力研究所へと進む一行。
そして、塔の前に立った時、扉が開いた。継ぎ目は何処にも見えなかったのだが……。
だが、特に驚くこともなく中に入る一行。蜥蜴丸で慣れているのかもしれない。
そして、中に入った一行の耳に特徴的な声が響いてきた。
「ようこそ、諸君!! 超古代科学技術怒迫力研究所へ!!」
その声の主はいったい何モノであろうか?




