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第68話

「さて、もう全員でいったんユゴス伯爵邸まで行って、古代科学研究所の入口の鍵を受け取ろう。その後、馬で古代科学研究所付近まで行って、今日はキャンプと洒落こもうじゃないの」

 何故キャンプをすることを洒落こもうなどと表現したのか、それはもちろん直斗にも分からない。表現を気にしている余裕など今の直斗にはなかった。パーティーメンバーは皆庭に集まっているのだが、一人欠けていた。否、一人だけ少し離れた所にいた。

 玄関の扉を少しだけ開けて、その隙間から片目だけでパーティーメンバーを、否、直斗を睨みつけている目があった。

「悪かったよ、シルヴィア。俺が悪かったから、玄関の扉の向こうからずっと覗くのやめてくれないか? なんだか昔同級生に無理やり連れていかれて観たホラー映画を思い出してしまう。俺、ホラー映画苦手なんだよ」

 それでも、睨みつけるのをやめない。目が血走っているようにも見える。夢に出てきそうだ。

「何故、昨日私は意見を聞かれなかったのでしょう?」

「その場にいなかったじゃないか。仕方ないだろう?」

「では、何故呼ばれなかったのでしょう?」

 ただ単に忘れていたからだ、とは言えない直斗。助けを求めて皆を見るが、全員通常運転であった。つまり、皆そっぽを向いていた。なんと冷たいパーティーメンバーであろうか?

「いや、だからさっきから謝っているじゃないか。俺が悪かった、スマン。この通りだ」

 流石にこれは自分が悪い。素直に頭を下げる直斗。

「本当に悪いと思っているのですか?」

「俺は、この世界に来てから心から感謝をする時と、心から謝る時以外頭を下げない事にしている」

「よくエクリアさんやユーフェミアさん、ディアナさんには頭を下げているじゃないですか」

「女の子には頭を下げるのが上手く行く秘訣だと習った事がある」

 本当に習ったかどうか、記憶は定かではない。もちろん、誰に習ったのかも記憶は定かではない。

「じゃあ、なんで私には頭を下げないのですか?」

「ストライクゾーンじゃないから。アウトローいっぱいでボール」

「そこは、アウトローギリギリでストライクと言って欲しいところなのですが」

「素直な心に嘘はつけない」

 その場にいた女性陣はアウトローとかストライクだとか、ボールだとか意味が分からなかった。しかし、直斗とシルヴィアの会話は成立していた。いったい何に例えて会話をしているのだろうか? 

「ねえ、蜥蜴丸、ボールとかストライクとか、いったい何かな?」

「野球用語よ。かつてはワガハイらもW●C三連覇応援芸人を名乗っていたからな。野球に関してはニワカ程度の知識はあるのよ。異世界通信でずっと見ていたからな。こう、いぶし銀な選手が活躍すると燃える」

「ふうん、その●BC三連覇応援芸人って、蜥蜴丸とシルヴィア?」

「いや、ワガハイと直斗、ついでに銀髪」

 ついでなんだ、とは質問をしたエクリアでも口には出さなかった。なんだか可哀相な気がしてきた。

 直斗とシルヴィアの会話は続いていた。

「だいたい、何でさっきからずっと見つめているんだ? しかも、そんな隙間から」

「家政婦の真似事です」

「マジで?」

「大●家政婦紹介所から来ました」

「ほんまですかー?」

 ついインチキ関西弁を喋ってしまう直斗。もはや、自分が何を言っているのか分かっていない。聞いている残りのメンバーも分かっていない。おそらく、蜥蜴丸を除いて。

「ところで、何処に行くのですか? 今回は?」

 ようやく皆のいる庭に出てきたシルヴィア。飽きたのかもしれない。

「古代科学研究所に行きます」

 何故か敬語になってしまう直斗。もしかしたら家政婦に悪事を暴かれる事を恐れているのかもしれない。ちなみに直斗が今まで行ってきた悪事の中で一番恥ずかしかったのが、ベッドの下に隠していたエロ本が母親に見つかり、勉強机の上に整理整頓されて置かれていた事であった。しかも、ジャンル別に分けられていた。あの時は物凄く恥ずかしかったものである。性に目覚めだした中学二年生の頃の出来事であった。もっとも、今ではもう隠していないので、恐れる心配はない。母を亡くした今、誰を恐れているのかはよく分からない。マリアであろうか?

 その後もじっと直斗を見つめるシルヴィア。何か言いたそうでもあり、言ってもらいたいような感じでもあった。

「えっと、何でございましょうか?」

 プレッシャーに負けて聞いてしまう直斗。間違っている敬語を使っているとは思うが、もちろん何がどう間違っているのか、直斗には分からない。

「何故私には一緒に行くかどうか聞いてくれないのですか?」

「聞いて欲しいのですか? どうせ、一緒に行くのですからわざわざ聞く必要などないと思われるのですが」

「……バカにしているのですか?」

「古代科学研究所、一緒に来てくれるかな?」

「分かりました、行きます」

「……一緒に来てくれるかな?」

「行くと言っているではありませんか」

「……一緒に来てくれるかな?」

「だから、行くと言っているではないですか」

「……一緒に来て、くれるかな!?」

「いい加減にしてもらえませんか?」

 殺気を感じ出したので、そこでやめた。直斗としては「いいとも!!」と快く言ってくれる事を期待していたのだが、何故かこのネタはシルヴィアには通じなかったようだ。大●家政婦紹介所が何故通用してこのネタが通じなかったのか、もちろん直斗には分からない。

 直斗とシルヴィアのやりとりを見ていて、パーティーメンバー全員が呆れていた。ネタが通じないというのもあった。しかし、全員時間をだいぶ無駄にしたと思っていた。

 皆を振り返った直斗は、皆の視線が物理的な鋭さを持って突き刺さって来た。それは、物理的に刺されるよりも、言葉のナイフで刺されるよりも、その時の直斗には鋭く、深く突き刺さったように感じた。




「おや、どうしたのですかな、泣きそうな顔をして?」

「言葉のナイフとは、否、視線のナイフとはげに恐ろしきモノよ。空気を読める人間であった事を後悔してしまったよ」

「ほう、貴方が空気を読める人間であるとは思いもしませんでしたな。どう考えても、空気を読めないのではなく、空気を読もうともしない人間であると、そう思っておりましたよ」

 ユゴス伯爵邸では、視線のナイフではなく言葉のナイフを突き立てられた直斗。

「クカカカ、こやつに言葉でトドメを刺すとはな、流石は伯爵といったところか」

「やれやれ、この程度で打ちのめされているようでは、古代科学研究所を攻略できますかな?」

「別に完全に攻略する必要など、貴様らにもないのであろう? ワガハイらはワガハイらのやりたいようにやらせてもらうだけよ」

 何故か交渉をしだす蜥蜴丸。彼は彼でユゴス伯爵を完全に信頼はしていない。むしろ、金づるとしか思っていないのかもしれない。

「まあ、いいでしょう。あそこは今、我々も長い間入っていない所でしてな。我々が知る頃と姿を変えているかもしれない。努々注意なされよ」

「ねえ、伯爵。少し聞きたいのだけれど。私もギルドマスター暫くやっていたけど、王都近辺に古代科学研究所なんて聞いた事もないのだけれど?」

 蜥蜴丸とユゴス伯爵の会話に割り込むユーフェミア。彼女もギルドマスターをやっていただけあって多少は情報に精通しているという自負があった。しかし、古代科学研究所など、今まで聞いた事もなかったのである。これは恥ずかしい事実であった。

「ふむ、知らなくても仕方ないでしょうな。何故なら貴女は若い。若すぎるのですよ、私達から見れば、ですがね」

「ま、まだ実際若いけどね。エルフなんだし、長命なんだから、エルフは」

「ユーフェミアさんって今何歳なんですか?」

 口を挟むシルヴィア。

「言わない、貴女よりは結構年上だから」

 ユーフェミアはエルフとしては若い部類ではあるが、エクリアやシルヴィアよりは遙かに年上だ。だから、言いたくない。なんだかおばさん扱いされそうな気がしてきた。いや、シルヴィアは確実に何回かおばさん扱いするだろう。だから、言わない事にしたユーフェミア。

「年齢を聞かれて答えないようにする女性は、自分がたいしたことのない人生を送ってきた証拠だってナオトさんが言っていましたよ」

 追い打ちをかけるシルヴィア。

「違う、違うぞ、俺が言ったんじゃない!! それはM野さんの名言だ!!」

 何故M野さんの名言を知っているのだろうか、シルヴィアは? M野さんのあの名言は、何故か直斗の心に響いた。今でも強烈に心に残っている。

「その癖誕生日は毎年祝ってもらいたがるんでしょう? 強欲エルフですね」

「ち、違うもん、今でも誕生日祝ってもらいたいなんて思っていないもん!!」

 なんだか普段使わない言葉を使いだし、逃げ出したユーフェミア。それを見て頷くシルヴィア。きっと、いじめる事が出来て満足なのだろう。

 直斗は流石に可哀相になってユーフェミアを追いかけた。


「ふむ、私もあまり年齢の事は聞かれたくないな」

「亜麻色髪よ、貴様もたいしたことのない人生を送ってきたのだな、可哀相に」

「蜥蜴を殺すと言うのは何の罪に問われるのだろうか? 殺蜥蜴罪などというモノがあったかな?」

「今年の誕生日、盛大に祝ってやろうじゃないか。直斗の金でな」

 そう言えば、自分の誕生日はいつだったかな。まあいい、直斗に祝ってもらえればいいか。ディアナはそう考え、蜥蜴丸の首にセットした魔剣を異空間に収納した。魔剣には血液らしきモノが少し付着していた。赤色ではなかった気がしたが、ディアナは気にしない事にした。この蜥蜴には自分たちの常識は通用しない。




 ティンダロス邸の庭でようやくユーフェミアに追いついた直斗。

 かける言葉を選んでいた直斗にユーフェミアが背を向けたまま問いかけた。

「おばさんだと、思ってるんでしょう?」

 ユーフェミアの声が、直斗には今にも泣き出しそうに聞こえた。

「そんな事、思っていないさ。俺にとっては、ユーフェは頼りになる仲間だし、可愛い女の子だよ」

 何故かこういう時だけスラスラと言葉が出てくる直斗。泣かれるのは、たまったモノではない。

「本当に?」

「ああ、本当だ」

「じゃあ、今年誕生日を祝ってって言ったら、祝ってくれる?」

「いくらでも祝ってやるさ。もちろん、金はかけられないけどな」

「一言多いよ、いつも」

「ゴメン」

 確かに、一言多い気がするので謝っておく直斗。いつもかどうかは、直斗には分からない。

「来年も?」

「もちろん」

 ユーフェミアが振り返り、直斗に抱きついた。

「その次も?」

「そうだな、皆で一緒に祝えたらいいな」

 なんで、二人でって言ってくれないんだろう? ユーフェミアはそう思ったが、直斗がそう言わなかったのは防衛本能が働いたからだ。そろそろ皆やって来る頃だ。




 実際、パーティーメンバー全員がやって来た。

 この時には直斗とユーフェミアはもう抱き合っていない。ユーフェミアは直斗の防衛本能に感謝した。皆に見られるのは恥ずかしい。

「直斗のヘタレめ、ここでエルフ耳を押し倒しているくらいは期待していたモノを」

「お前は俺をなんだと思っているんだ、蜥蜴丸?」

 直斗と蜥蜴丸の殴りあいが始まった。最終的にはゲーサンが二人をぶちのめして終わるといういつもの展開になった。




 結局、出発は翌日に持ち越しになった。

――無計画な奴らめ。

 風牙の声は、パーティーメンバーには届かなかった。


M野さんの名言は皆さんご存知でしょうか?

「女の子苦手芸人」の回からです。

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