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第67話

「王都で家を買いたい?」

「そう、出来れば一軒家。庭付き。大型犬を飼っても大丈夫そうな家。部屋数も多いのがいいんです」

 久しぶりに冒険者ギルドまでやって来た直斗はシンシアに相談した。一軒家が欲しいのだ、と。

「それは、私に聞くべきことじゃなく、不動産屋とかに聞くべきことじゃないかしら?」

 シンシアの疑問ももっともだが、直斗も何の考えもないわけではない。

「不動産屋には行ってきました。いい物件があったんです。ただ、契約をしたくても、賃貸ではなく売り家でして、ね。で、頭金だけでも一千万Gは必要だって言われてしまったもんですから」

「それで、大金を早く稼げる依頼や高額な素材や魔石をドロップするモンスターがいないかどうか、聞きに来たわけね」

「その通りでございます、流石はシンシアさん」

 顎に手を当てて考えるシンシア。

「高額な依頼は今現在ないわね。壁に貼ってある依頼で全部よ。高額な素材や魔石をドロップするモンスター、ねえ。ガ●ラなんてどう?」

「ガ●ラ?」

「“走る丘”を背負って動いていた巨大モンスター。ただ、あれ似たようなのが存在していないから、実際どんな素材や魔石をドロップするかは分からないのよね。つまりは、買い取り値も今のところ値段をつけられないってワケ」

「ガ●ラは一人では無理そうだな、倒すのは……」

「一人で倒そうと思ったの?」

 直斗のひとり言を聞きつけ、質問するシンシア。

「ああ、だって、そうしないと俺の取り分が減るじゃないですか。いつもいつも一番活躍したのが俺だとしても、だいたいみんなに多くとられるんですから。俺の手元に残るははした金ばっかり」

 それは、直斗がただ単にヘタレなだけじゃないだろうか? そうは思っても口には出さないシンシア。彼女なりの優しさなのかもしれない。

「どうしても、広い一軒家が欲しいのなら、旧ダゴン商会の本店を乗っ取るとか、どう?」

「あそこ今、猫神教の総本山じゃないですか。あんなところ乗っ取って猫たちに恨まれたらどうするんですか。知ってます? ネコマタって恐ろしい妖怪がいるんですよ?」

 猫の呪いは恐ろしいらしい。その癖、コリスを飼っているのだからよく分からない男だ。

「じゃあ、問題ありの物件に手を出してみるとか。安いでしょう?」

「いやですよ、問題ありの物件なんて。安い分変なのがいたりしたらどうするんですか? 安心して住めないじゃないですか。俺、ホラー苦手なんです」

 女の子に対してヘタレな直斗ではあるが、幽霊や化物の類も苦手であった。世界観の異なる蜥蜴たちと一緒に暮らしているのに、そんなところには慣れない男である。

「ぶちのめしていなくなる存在なら、何とも思わないんですけどねえ」

 直斗はぶちのめせる存在なら怖くない男であるが、邦画のホラーは大の苦手であった。洋画のホラーはだいたい主人公が最後にぶちのめす事が多いので、そこまで苦手ではなかった。あくまでも、邦画に比べて、である。映画好きではあるが、ホラージャンルを好んで観る男ではなかった。

 結局、高額依頼が今のところないという事と、近場では高額な素材や魔石をドロップするモンスターがいないという事で冒険者ギルドを後にした直斗。


 不動産屋で聞いた話では、三百万G程度でも、頭金として不足はないと言われた。だが、それは騎士などの安定した職業に就いている人間のみである。

 冒険者など、いつ死んでもおかしくない(つまりは、いつ金払いが滞るかもしれない)人間にはそう簡単に不動産屋も貸してくれないし、売ってくれないのだ。彼らも商売なのだから、当然だ。問題あり物件は流石に御免こうむりたい直斗なので、広くて安い物件があったのだが、そこは断った。何があるか分かったモノではない。

 しかし、家が欲しいと言うだけなら、そこまで広い家である必要はない。彼の頭の中ではユーフェミアではなく風牙が既に家族の一員として勘定されていた。あのフサフサの毛を手放すつもりはないのである。まあ、なんだかんだ言って家を買うとなれば、ユーフェミアとディアナはついて来るだろう。問題はエクリアだ。バーソロミューとマリアが許可をくれるだろうか?

 そして、問題の蜥蜴丸とゲーサン。彼らは問答無用で付いて来るだろう。何とかティンダロス家に残ってくれないだろうか? しかし、そこはたぶん無理だろうな、絶対に付いて来るだろうな、と妙に確信している直斗であった。


 直斗はティンダロス邸に戻らず、ユゴス伯爵邸を訪ねた。

 ここならば、もしかしたら高額な素材や魔石をドロップするモンスターを知らないか、聞けるかもしれないと言うシンシアの助言に従ったのである。

「ほう、つまり高額素材や魔石をドロップするモンスターに心当たりがないか、と?」

「出来れば近場がいいんだけどね」

「近場で、ですか……。心当たりがないわけではありません」

 食いつく直斗。

「一人でどうにか出来そうかな?」

「まず無理でしょうな。貴方は確かに不思議な力で守られているが、そこまで攻撃方面に優れた方ではないとお見受けします」

 確かに、リリスが施した魔術か何かで、何かを身に着けていれば最強防御力を誇る直斗ではあるが、純粋な強さで言えばそこら辺の一般的な冒険者と大差ないのである。回避力に優れた蜥蜴丸の方がもしかしたら強いかもしれない。

「罠にはまれば一発でアウトかもしれませんな」

「罠なんてぶち破ればいいじゃない」

 罠を回避するトカ考えないあたり、蜥蜴丸たちにだいぶ毒されているのかもしれない。

「簡単にぶち破れるほどの罠ばかりとは限らないでしょうな」

 それもそうか、と沈黙してしまう直斗。伯爵の言う事は正しい、と理性で理解する。感情は理解したがっていなかったが。

「他のメンバーと一緒にそこへ向かうと言うならば、お教えしましょう。こちらとしても大助かりですからなあ」

 結局は残りのパーティーメンバーと一緒に向かう事を約束し、場所を教えてもらったのであった。




 ティンダロス邸にて夕食をとり終えた後、直斗はパーティーメンバーを集めてユゴス伯爵邸で聞いた話をした。

「というわけで、二、三日中に古代科学研究所へ向かおうと思います」

 ただ、冒険者ギルドで受け付けた依頼ではないので、参加するかどうかは各個人の意思に任せる事にした。ここら辺は他の冒険者パーティーより緩いのかもしれない。

「古代科学研究所? そんなモノ、この王都近辺にあったかな?」

 直斗の説明によれば、古代科学研究所はこのアークティカ王都から馬で一日かかるかかからないかの距離にあると言う。なので、近くまで行って一日キャンプを張り、翌日その古代科学研究所に乗り込もうと言うのだが、王都に子供の頃から暮らすエクリアであろうと、聞いた事がない。

「私もそんなモノがあるなんて聞いた事がないぞ。ガセネタではないだろうな?」

 ディアナは伯爵にガセネタをつかまされたのではないかと、疑っている。

「私も聞いた事がないなあ。ギルドマスターやっていた時にも聞いた事がないよ。ディアナの言うとおりガセネタじゃないかなあ」

――目先の欲に溺れたか。欲に溺れて溺死したらどうかな?

 ユーフェミアもガセネタではないかと疑っている。ユゴス伯爵には会った事もない風牙など、直斗そのものを疑っているような口ぶりだ。

「ほう、古代科学研究所、ねえ。ワガハイ、科学と聞いて出張らないわけにはいかないな。古代科学とリザード星が誇る宇宙一の科学、どちらが優れた科学か、対決と行こうじゃないの。ウホッ、漲ってきたよ!!」

 何が漲ってきたのかは、きっと、聞いてはいけないのだろう。嬉々として語りだすに違いない。そんな事は御免こうむりたい直斗である。他のメンバーも同様だろう。実際、蜥蜴丸は物凄く聞いて欲しそうにしていた。

「げげっげ、げっげ、げげっげ、げげげ」

「ゲーサンも参加、と」

「げげ!?」

 何か嫌そうな声を出したが、無視して参加の意思表明をした、と捉える直斗。ゲーサンの真意が何処にあるのかなど考えない男である。そして蜥蜴丸は聞いてくれなかった事にしょんぼりしていた。

「あはは、どうしても行くの、ナオト?」

「男には行かねばならない時もあるのだよ、エクリア。エクリアも一緒に来てくれるよね?」

 仕方ないなあ、と苦笑するエクリア。エクリアも参加することになった。

「む、エクリア、参加するのか。ならば、私も参加しよう」

「ディアナまで……、はあ、仕方ないなあ。私も行くよ」

――ユーフェが参加するのなら、我も参加しよう。ユーフェが欲に溺れないようにしっかり監視しなければ、な。

「この頃、風牙がナオト君達に毒されてきた気がするなあ」

「毒されたのではない、正道に向かいつつあるんだ」

 よく分からない事を言いだす直斗であった。

「じゃあ、明日ユゴス伯爵邸で古代科学研究所の入口の鍵を受け取ってから、出発な。各自準備を怠らないようにな」

 今日はその場で解散となった。




「古代科学研究所、か。そこで果たして大金を手にできるのだろうか、俺は」

 直斗の呟きを耳にした者はいなかった。






「いいのですか? 古代化科学研究所、向かわても?」

 ユゴス伯爵邸では、例の執事服の男が伯爵に質問していた。

「何、構わぬよ。私の最終目的は宇宙空間に出て“あのお方”に再会することだからな。その為にはあの男の仲間となっている蜥蜴丸と名乗っている奴の力を借りなければならないだろう」

「あの黒コートの男も信用できるか、と問われれば信用できないかもしれないぞ。古代科学研究所に眠る技術、世に出してはならないと考えれば爆発させる事も考えられる。あの蜥蜴に至っては悪用しかねない雰囲気すらある」

「何、そうなったらそうなったで構わないよ。今ではあそこに眠る古代科学技術、私達では使いこなせないのだからな」

「それは、確かにそうなのだが……」

「私達が“あのお方”に再会できるのが近付くか、それとも、二度と会えなくなるか、それだけの事だ」

「出来れば前者になる事を願いたいな」

「もちろん、私も前者になる事を願っているよ」

「だが、あそこに眠るモノたち……、否、私達が眠っていると思っているモノたち、未だだ動いているかもしれないぞ」

「それなら、それで一向に構わんよ。彼らがどうにかしてくれるだろう。宇宙怪獣の一匹や二匹くらい、否、百を超えるかもしれんな。あそこには私たちも数百年足を踏み入れていないのだから」

 ユゴス伯爵たちは伯爵たちで直斗たちを利用しようとしているに過ぎない側面もまた、あるのだった。


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