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第64話

「ところで、何で笑いの道に突き進もうとしているの? 貴方は科学者じゃなかったかしら?」

「そうだな、私も聞きたいな。何故だ?」

 魔王の疑問に便乗するディアナ。確かに蜥蜴丸と名乗るこの男(蜥蜴)は、何かあるたびに「リザード星の科学力は宇宙イチィーーッ」などと叫んでいる。が、(自称)宇宙一の科学力が有効利用されているところを見た事はほとんどない。霊峰ゲノムでの冷却光線ぐらいなものだろうか。

「以前も言わなかったかな? まあいい、ワガハイ気持ちイイので答えてやろうではないかね。耳かっぽじって、体をこちらに向けて、顔も洗って、口をアングリと開けて、目ん玉ひんむいて、更に正座して聞きたまえよ」

「ああ、そこまで言うなら聞きたくないです」

「まあ、そこまでする必要はないから聞いていきたまえよ。喋りたがりの人間を喋らせないようにするとは、何というKICHIKU」

「ならば、さっさと喋れよ。無駄な時間を使わせるな」

 魔王は聞きたくないと言い、ディアナはさっさと喋れという。蜥蜴丸は不満たらたらながらも、喋る事にした。何故なら、喋りたかったからである。

「いやあね、ワガハイ、科学の道極めちゃったじゃない?」

 聞かれても極めたかどうかなど、誰にも分からない。魔王もディアナももちろん、分からない。

「一つの道極めちゃうと、別の道に進みたくなるんだよねえ」

「別の道に進むというのなら、魔法の道に進もうとか思わなかったの? せっかくこんな世界に来たのだから」

「科学を極めるってことは、誰もが魔法使いみたいなモノよ。火を点ける魔法はライターやチャ●カマンで代用できるからねえ。流石に何もないところで人間を氷漬けにする魔法に対抗できる科学力は、ワガハイにもないけどねえ。宇宙天体マルドゥークの再建は暫く先になりそうだからねえ」

 なかなか本題に入らない。ディアナはその事にイライラしだしてきた。

「商売の道とかは?」

「金銭感覚、ワガハイ並大抵の人間ほどすら持ち合わせていないんだよねえ。ぼったくられて終わりになりそうだからねえ。そっちの道には進もうとは思わなかったねえ」

「格闘技の道とかは?」

 おい、まだ続けるのか?

「格闘技はねえ、ワガハイじゃなくゲーサンがいるからねえ。あ奴は格闘技とか剣術とか、総合的に武術方向に優れているからねえ。そっちの道はあいつが極めてくれるであろうよ」

「笑いの道をゲーサンと共に突き進もうとは考えなかったの?」

「おいおい、何言ってくれちゃってんの? あんな『げっげー』くらいしか喋れない奴とどうやって、笑いの道に突き進めというのかね? あ奴が笑いの道に突き進むのなら、パントマイムくらいしかないであろうよ。ワガハイは『べしゃり』で頂点に立ちたいのよ。だがねえ、笑いの進歩した世界ではワガハイ程度では二流がいいところ。しかし、ワガハイ出来れば頂点に立ちたい。故に初めて降り立った現代日本で笑いの道には突き進もうとは思わなかった。あそこでは二流になれるかどうか。だがねえ、この世界に縁あってきたのだよ。ここは、笑いの成熟していない世界。ここでなら『べしゃり』で頂点をとれるかもしれない。ワガハイの夢が花開くかもしれないのよ。ここで、ワガハイは決めたね。愛方を手に入れ、笑いの頂点に立つ、と。ワガハイ、寂しがり屋故ピン芸人は無理。ならば、誰かとコンビを組むしかあるまい。コンビをこむ、なんて噛んだりはしないよ、ワガハイ。そして、見つけたね、愛方になれる逸材を。あ奴となら、このファーガイアでなら、頂点に立てるかもしれぬ。てっぺんとる事が出来るかもしれぬ。そう、あ奴を見つけてからというもの、ワガハイの夢は加速度つけて走り始めたのだよ。いつか、ワガハイらの単独ライブに招待しようではないか。いつの日か、チケットが数万Gくらいで売り出されるくらいビッグになってみせるよ。だが、招待する時は無料で招待しよう。ワガハイがポケットマネーを出そうじゃないか。直斗という名のポケットから出してやろう。どうだね、嬉しいかね?」

 「べしゃりで頂点に立ちたいのよ~」の頃には何故か後ろを振り向いて夢を語りだした蜥蜴丸。そして、その隙に食堂の中に戻った魔王とディアナ。

 長台詞を終えてドヤ顔で再度振り向いた時、彼を見つめていたのは、痩せこけた野良犬一匹だけであった。

「ワガハイの心を、孤独の風が吹き抜ける。それもまた、人生」

 蜥蜴丸もまた、寂しさ虚しさを抱えて、食堂に戻ろうとした。そんな彼の黒マントに野良犬が噛みついた。蜥蜴丸は、暫く野良犬と戯れた。彼の心は虐殺に目覚める寸前まで追い詰められていたトカいなかったトカ。




 ジンが見つめる先、黒コートの青年は何度も何度も同じところでミスをしていた。何度やっても、それ以上進めない。青年はギターを弾くのを諦めたようだ。ちゃんと一曲聞きたかったな、とジンは考えたが、青年の技量では一曲弾ききる事は難しそうであった。きっと、練習をほとんどしていないのだろう。

 見つめていたことに気付かれていたのだろう。青年は同席していた女性陣に断り、椅子を抱えてこちらのテーブルにやって来た。

 残されたメンバー達はデザートを食べたり、追加で食事をとっていたりした。ジンにとって一番驚いた事は、テーブルマナーが一番しっかりしていたのが緑色のマッチョな蜥蜴であった事だ。彼のテーブルマナーは荒くれ者冒険者が沢山いたこの食堂でも際立っていたのがテーブルマナーに疎いジンにすら分かったくらいなのだから。


「よう、少年。さっきの曲知っていたみたいだな。って事は、日本人か?」

 黒コートの青年が同じテーブルについた時、開口一番にそう声をかけてきた。

「僕が日本人って分かるんですか?」

 何故僕が日本人だと分かるのだろうか? 

「まあ、俺が日本人だからっていうのもあるけど、ずいぶん熱心にあの歌聞いていたからなあ。俺の知り合い以外でこの世界であの歌知っている奴はいないさ。まあ、何度弾いても同じところでミスったからなあ。もう、弾く気力失くした」

「そうですか……」

 ジンの両親が若い頃はまっていたバンドの名曲だった。一度解散したが復活のライブにジンを連れて行ったので、ジンも古い曲ながらも知っているのだ。この青年もリアルタイムで聞いていた世代ではなさそうだ。二十代前半くらいにしか見えない。

「よくあの歌知っていましたね。それほど年には見えませんが」

「ああ、会社の先輩に彼らの大ファンがいてね。おかげで俺もはまっちまってさ。復活ライブも先輩に連れていかれたんだ。で、昔を思い出しながら弾いていたってワケ」

 会社というからには、社会人だろうか?

「少年、お前さん何でこんな世界にいるの? アレ? 異世界に迷い込んだってパターン? それとも、『魔王を倒す為に貴方を召喚しました』とか言われちゃって、厨二病に火が点いちゃったってヤツ? ちなみに、俺は迷い込んだパターンね」

「えっと、まあ、召喚されました。でも、厨二病ではないです。僕はもう、十七ですし。厨二病は卒業しました」

「なん……だと……、卒業した、だと……」

 「ナオト君は卒業していないのにねえ」とか、「聞こえるように言うとは、ユーフェミアさんも鬼畜ですねえ」とか、青年の同行者から声が聞こえてきた。ヒドイ。

「そ、そうか、卒業できたのか。うん、偉いな、俺には無理だったよ……」

 血の涙を青年が流しているようにジンには見えた。厨二病はそう簡単に治らないのだろうか? 少なくとも目の前の青年は完治しなかったのだろう。

「ああ、悪い、自己紹介が遅れたな。俺は神代直斗。一応、日本で社会人やってたよ」

「牙鳴仁です。この世界で日本人と出会えるなんて、思いもしなかったですよ。高校生です」

 お互いに握手するジンと直斗。




「へえ、そこの女の子に召喚されちゃったのか」

 アイリーンと紹介された金髪の少女。彼女が仁をファーガイアに召喚した巫女だという。厨二病の直斗にとって憧れのシチュエーションである。何故、俺はただ単に迷い込んだのだろう? まあ、そのおかげでエクリアに出会えたのだから、いいが。

「で、魔王を討伐して欲しい、って美少女に言われたから、厨二病が発病しちゃって魔王討伐に行くことにしたわけね」

「厨二病は関係ないです。魔王討伐もするかどうかは分かりません」

「分からないって、魔王討伐の為の勇者として召喚されたんだろう?」

 テンプレな召喚の理由ではないか。そして、行く先々で王女とか、女騎士とかとあんな事やそんな事をするのが、異世界召喚モノの王道ではないか。……自分には縁遠いな。

「確かに、召喚の理由はそうなんですけど、この世界をまず知りたいんです。この世界を知ったうえで魔王討伐に向かうかどうかは決めます」

「へえ。モンスターとかはどうでもいいのかい?」

「モンスターは騎士団や冒険者の方の力でどうにかなります。彼らとは違う魔族が問題なのです。ただ、フォーマルハウトやこの国でいくらか見聞きしたところ、魔族は現在ほとんど問題を起こしていないとの事です。それどころか、魔族の本拠地であるカダスにも住んでいる人間がいるって話です」

「そうなんだ」

 そこそここの世界にいる癖に何も知らない直斗は、己を恥じた。

「それで、僕は考えたんです。魔王討伐などという事はしたくない、と。出来れば、魔族と国交など結んで、彼らと共に生きていけるようにしたいな、と」

「ほほう」

「それで、各国をまわって、僕の意思に共感してくれる方を探す事にしたんです」

「マジか」

「マジです。本気と書いてマジと読むくらい、マジです」

 なんて古いネタだ。だが、口に出すことはやめた。

 こいつは、盛大な夢だ。俺には賛同は出来ても、行動を共にすることは出来ないな。

「まあ、あれだ、頑張れ」

 そんな盛大な夢には、頑張れとしか言いようがない。

 黒コートの内側からコ●コーラのペットボトルをとりだしキャップを開けて口をつける直斗。先ほどまでのほろ酔い気分は少し抜けていた。

「な、何飲んでるんですか!?」

 少し驚かれた。

「●カコーラ」

「ええ!? そんなの何で持っているんです?」

「俺がかっこいいから」

 後ろの席から「どの口であんな事言うんだろうね」とか、「流石はユーフェミアさんが惚れた男ですねえ。厨二病どころではないですよ、どこか逝っちゃってますよ」などと聞こえてきたが、気にしない事にした。

「い、いいですよ、僕はペ●シコーラ派ですから」

「ほい」

 未開封のペ●シコーラのペットボトルをとりだし、仁に渡す。

「い、頂いてもいいんですか……?」

「お近づきの印だ。やるよ」

「ありがとうございます!!」

 故郷の味、というわけではないだろうが、五百mlのペットボトルを一気飲みせんばかりの勢いで流し込む仁。この世界にコーラはないからなあ。

 勇者たるモノ、毒殺などの危険はないのだろうか? おつきの銀髪の騎士が止める間もなく、飲み干した。

「久しぶりに飲んだなあ。美味しいなあ」

 コーラは美味いよ。うん。

「ねえ、直斗さん。ここで出会えたのも何かの縁。僕の意思に賛同してくれませんか?」

「え?」

「一緒に旅しましょう。この世界で、魔族と人間や他種族のエルフとかが共に手をとりあって過ごしていける世界を作りましょうよ!!」

「本気で言っているのか?」

 身を乗り出して話を始めだした。マジだろうか?

「本気です!! 色んな種族の方と一緒に過ごしている直斗さんなら、僕の意思にきっと、賛同してくださると信じています!!」

 確かに、俺は人間とエルフ、魔族に神狼、ちょっと変わった黒猫に白龍、更には二足歩行する蜥蜴と一緒に暮らしてはいるが……。

「お願いします!! 一緒に世界をよりよい方向に変えていきましょう!!」

「だが断る」

「!?」


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