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第57話

「さあ、張り切っていくよぉーッ!!」

「やれやれ、今日も元気ですね。その元気は何処から出てくるのですか? 是非聞いてみたいものです」

 思いっきり質問してるやんけ、とインチキ関西弁みたいな思考をしてしまう直斗。おかしい、俺は何故このような所にいるのだろうか? ユーフェミアとシルヴィアと一緒に。

「おいおい、ワガハイたちの事を忘れてはいないかね。泣くよ、ゲーサンが」

「げっげ、げげっげ」

 おかしい、俺は今日エクリアをデートに誘う筈だったのに。そして、交際を申し込む筈だったのに。給料三か月分の指輪を片手に。せっかく昨日三百万G手に入れたのだから。誰だ? 婚約指輪が給料三か月分なんて遙か昔の宝石店か何処かが言いだした陰謀だなんて言っているのは? ヴァレンタインデーにチョコを贈るのなんて、お菓子会社の陰謀じゃないか。時流に乗って何が悪い? 

 え? 給料三か月分なんて結構昔に廃れたの? 蜥蜴丸が差し出したタブレットPCで情報を確認して己が情報弱者である事を再認識する直斗。……ふん、今更後に退けるかよ!! 俺は給料三か月分を貫き通してみせる!! 変なところで意固地になる直斗であった。

「おい、てめぇ、何ナチュラルにシカトこいてるの? ぶん殴っちゃうよ、ゲーサンが」

 次の瞬間、自分の体が吹き飛ぶのを感じた直斗。おお、これがいつも蜥蜴丸が感じている威力か。いくらノーダメージであるとは言え、流石に壁にめり込むのはキツイ。

「ちょっ!? ゲーサン、ナオト君にいったい何しちゃってるのさ?」

 何とか壁にめり込んでいる直斗を引きずりだそうとするユーフェミア。

「げげ、げっげげ」

「俺たちをシカトするナオトがいけないのです、そう申しております、ゲーサンがって、そんな事言っている場合じゃない」

「ほほう、エルフ耳め、ノリ突っ込みを修得したかよ。やはり、ワガハイと直斗だけではファーガイアの笑いの頂点に立つのは難しいか。ここは正式にエルフ耳を加えたトリオ漫才を考えるべきかな?」

「やれやれ、今日も平和ですね。いったい、何故私はこんなことに付き合っているのでしょうか?」

「げげ、げっげげ、げげっげ、げげげ」

 それは俺が聞きたいよ、そう思うが壁にめり込んでいる為、口に出せない直斗。そして、ゲーサンよ、一体何を言っているのだ?




「しかし、エクリアよ、良かったのか、ユーフェとシルヴィアだけナオトと一緒に行かせて。本当は自分も一緒に行きたかったのではないのか?」

「そういうディアナも残っているじゃない。だって、しょうがないでしょ。ユーフェにあんなに熱心に頼まれたら、さ」

 エクリアとディアナは今、ティンダロス邸の居間で一緒にお茶を飲んでいた。

 直斗たちはユーフェミアが持ってきた情報に従い、アークティカ王都近くの山脈で発見されたという古代遺跡に向かっている。「トレジャーハンティングに行くよ!!」というユーフェミアの言葉に直斗と蜥蜴丸が反応を示し、「どうせガセネタかなんかですよ、バカなんですか?」というシルヴィアを無理やり連れだしていったのだ。ここ数日塞ぎこんでいるシルヴィアを見かねての行動かもしれないな、とはエクリアもディアナも感じてはいたが、口には出さなかった。

 コリスとクーちゃんは今、エクリアとディアナの膝の上で丸くなって寝息を立てている。

「まあ、そうなのだがな。エクリアよ、何故そんなに余裕なのだ? ユーフェがナオトに向けている感情、知らないわけではあるまい?」

「ディアナもでしょう?」

 聞き返されたディアナは苦笑するしかない。私も、ユーフェも、そしてエクリアもまた、ナオトに好意を抱く者たちだ。

「それに、蜥蜴丸やゲーサンも一緒だし、なんだかんだ言ってヘタレだから、ナオトは。ユーフェとの仲が良くなることはあっても、急展開するほどではないと思うな。せいぜいが正式にトリオ漫才になるかどうかだよ」

 否定できないな、と考えてしまうディアナ。確かに、ナオトは私たちから向けられている好意をどうも、勘違いしていそうだし。それとも、ただ単にエクリア一直線なだけか?

「まあ、ユーフェが持ってきた情報がガセネタではない事を祈ろうか」

「ユーフェはなんだかんだ言ってどこか抜けているからなあ」

 Aランク冒険者であるユーフェミアであるが、エクリアもディアナも彼女が大活躍しているところを見たことがないため、あまりユーフェミアの実力を信頼していなかった。どうせ、危険な目に遭っても、直斗と蜥蜴丸、ゲーサンがいさえすれば何とかするだろう。シルヴィアはそういう時は上手く直斗か蜥蜴丸、ゲーサンを利用して生き延びるだろう。特に古代遺跡の危険性を考えてはいない二人であった。

 黒猫と白龍の寝息が優しげに聞こえる優雅なひと時であった。




「おい、ゲーサンよ、何故貴様はあそこで紐を切るのだ!? あれは如何にも罠でございますと言わんばかりにはられていたではないか!! こうなる可能性があるのは分かっていたではないか!!」

「げげ、げっげ、げげげ、げげっげ、げげ」

「古代遺跡に張り巡らされた紐、それを切るのは男のロマンです。そう申しております、ゲーサンが」

「こら、エルフ耳よ、ワガハイのセリフをとるんじゃない!! しかし、なんとなく合ってそうで怖いな、その訳」

「おいおい、普段のお前の訳がほとんど合っていそうにないじゃないか、その答え」

「褒められちゃったよ、ナオト君。私の眠れる才能が花開いたね!!」

「……皆さんは何故こんな時でも平常運転なのですか? 『口より足を動かせ!!』と言う名言を贈らせて頂きますよ」

「「「お前も平常運転じゃないか!!」」」

 直斗、蜥蜴丸、ユーフェミアのセリフがハモッた。ゲーサンは一人乗り遅れた。


 シルヴィアが「口より足を動かせ」と言ったのは、あながち間違いではない。彼らは全員今、巨大な転がる岩に追いかけられている状態だ。

 全員力を合わせれば、いや、蜥蜴丸が上手くスペース光線銃の威力を調節すれば、こんな巨大な岩壊すことは容易い。では、何故それをしないのか。もしくは、誰も言いださないのか。答えは単純である。皆、忘れているのである。もしくは、この茶番を楽しみたいだけである。飽きれば終わりだろう。

「おお、目の前には分かれ道。どちらを選ぶ?」

 巨大岩石に追われること数分。全員微妙に追いつかれかけそうな距離を開けて走っていた。そして、目の前には分かれ道。右と左だ。まっすぐ進むのは無理だ。巨大な空間がすっぽり抜けている。要するに、落とし穴だ。

「右!!」

 ユーフェミアの言葉に従い、全員右側通路の方に走り抜ける。

 巨大な岩石は結局真っ直ぐ進み、穴に落ちた。着地音と言うか、衝撃音が響いたのは数十秒後だ。落ちたらひとたまりもないだろう。

「いやあ、危ないところだったね」

「バカ丸出しですね。さっさと破壊すればよかったのでは?」

「そういう事は早く言えよ、銀髪。だいたい、古代遺跡で巨大岩石に追われるのはお約束なんだよ。様式美なのよ!!」

 何故か勝ち誇ったかのように、様式美を強調する蜥蜴丸。その横ではうんうん頷く直斗。どうやら直斗と蜥蜴丸には思い当たる節があるようだ。ゲーサンは特に共感する部分はなさそうだ。紐を切ったのも、ただ単に邪魔だったから切った、とか言ったところか。古代遺跡に紐があれば切る、という考えかどうかは分からない。




「今頃、あいつら何しているかな?」

「きっと、巨大岩石に追われていたりするよ」

「凄いな、私も同じことを考えていたぞ。あいつらの事だから、『お約束よ』とか言ってそうだしな」

「たぶん、蜥蜴丸かゲーサンが無意識に罠を発動させたりしてると思うんだ」

「いや、私は違う意見だな。どちらかと言えば、ユーフェだろう。きっと、蜥蜴丸たちに罠には気をつけろと注意をしながら、結局ドジ踏んで自分が罠を発動させそうだ」

「……」

「……」

「両方、ありそうだね」

「ナオトもそうだが、全員変なところで期待を裏切らないからな」

「それに対して、シルヴィアが呆れながらも付き合ってあげるんだろうね」

「ああ、これで少し吹っ切れてくれればいいんだがな。近くで塞ぎこんでいられたら、こちらもきついからな」

 エクリアとディアナの予想は当たっているのだろうか? 帰ってきたら聞いてみよう、二人はそう思った。

 コリスとクーちゃんはまだ眠っていた。




「もう、ナオト君も、蜥蜴丸も、ゲーサンも気を付けてよね!! 罠とわかるモノには手を出さない!!」

「はい」

「何故ワガハイが怒られなければならん? ワガハイが罠を発動させたわけではないぞ」

「げげ、げっげげ」

「罠など発動させても打ち破ればいいのです、そう申しております、ゲーサンが」

「……」

「……」

「……」

「何故、黙るのです? いいではないですか。私もゲーサンの言葉の翻訳、やってみたかったのです」

 急にゲーサンの言葉の翻訳にチャレンジしたシルヴィア。熱があるのではないかと思い、思わず彼女の額に手を当ててしまうユーフェミア。

「……熱はないようだね。どうしたの?」

「バカにしないでください。ただやってみたかっただけです」

 その手を退けるシルヴィア。その光景を見て苦笑する直斗。ついこの前まで、シルヴィアがユーフェミアをからかっていたのに、反対になっているのが、直斗にとってはおかしくてたまらない。

「まあ、気を取り直して、最奥へ向かうよ」

「カチッ」

 一歩踏み出したユーフェミアの足元で変な音がした。見下ろしてみると、彼女の靴が何かボタンのようなモノを踏み抜いていた。

 全員顔を見合わせた。これは、どう考えても罠だ。何か良くないことが起きるだろう。

 後ろの方からガタン、とか、ジャリッ、とかいうような音が聞こえる。

 振り向いた皆の目に映るのは、先ほどまで歩いていた通路がどんどん下に落ちていく光景。

「うわぁぁぁぁ、走れぇぇ!!」

 直斗の号令に従い、一斉に走り出すメンバー達。落ちる通路が追いつくのが先か、罠が終わるのが先か。

 先頭をゲーサン、その後ろをシルヴィア、蜥蜴丸、直斗、ユーフェミアの順に走る。頭脳労働担当トカ言いながら、なかなかこういう時の蜥蜴丸は足が速い。

 しかし、彼らの前で唐突に通路が終わる。約四メートルに渡って次の通路まで何もない。

 飛び出すゲーサンにシルヴィア、蜥蜴丸。そして直斗。全員向こう側にまで渡ったが、ユーフェミアだけが飛ばなかった。

「何している、ユーフェ、飛べ!!」

「そ、そこまで飛べないんだけど!!」

 後数メートルと言うところまで、後ろの通路の崩落は迫っていた。

「いいから飛べ、俺が受け止める!!」

 直斗のその言葉に奮闘したのか、数歩後ろに下がってからユーフェミアは直斗の腕めがけて飛んだ。

 しかし、飛距離が足りない!!

 通路前で失速したユーフェミアは顔面を通路を支える壁に激突させた。伸ばした腕を直斗とゲーサンがつかみ、引っ張り上げてくれたので、何とか奈落の底へ落ちる事にはならなかった。

 

 ようやく引っ張り上げる事に成功した。

 少し顔面を強打したため、顔が赤くなっているが、心配はいらないだろう。ユーフェミアは治癒魔法も使える。後で、自分でかければいいだろう。ひっぱりあげた時に後ろに倒れこんだ直斗の目の前に、今、ユーフェミアの顔がある。その為、直斗は今ドキドキしていた。

 急にユーフェミアが抱きついてきた。

「怖かったんだよ……!!」

 半泣きになるユーフェミア。そのユーフェミアをあやすように抱きとめる。彼女の豊満な胸が当たっていて、先ほどギリギリでユーフェミアを助ける事が出来たこともあり、直斗は少し興奮気味であった。

「いい役得だな、だが、無意味だ。ワガハイは貴様が幸せになることは許さん。後でエクリアにチクってやろう」

「おい、待て蜥蜴丸」

「エルフ耳ともどもエクリアに氷漬けにされるがいいわ!! ワガハイ、近頃氷漬けにされていないから、鬱憤が溜まっておるのよ!!」

 変な事をカミングアウトする蜥蜴丸。氷漬けにされるのはやめてほしい一心で何とかユーフェミアをなだめすかして立ち上がらせた。

 涙目になりながらも、「ゴメンね」と言いながら微笑む彼女の笑顔にハートを撃ち抜かれた直斗。笑顔には弱い男である。

「やれやれ、ですね。では、先に向かいましょう。宝物があるといいのですが」

 先頭に立ち歩き出すシルヴィア。彼女の表情もユーフェミアが助かってホッとしているのは一目瞭然だ。それを隠すかのように、先頭に立ったのだ。

 その後を追いかけるゲーサン。特に彼は何も考えていない。特に宝物にも興味はない男(蜥蜴)である。彼の興味はもう今日の夕食でいっぱいである。

 その後には直斗とユーフェミアが続いた。ユーフェミアが直斗の左腕をつかんで離さなかった為、仕方なく直斗は彼女と手を繋いでシルヴィアとゲーサンの後を追った。ユーフェミアの顔は見なかった。そのユーフェミアの顔は嬉しさと照れが混じった笑顔であった。

 そして、最後尾で彼らの後を追う蜥蜴丸。彼は、いい笑顔であった。クカカカ、これでまた直斗をイジルネタが増えたよ。どうしようか、エクリアにチクるか、それとも、皆がいるところで爆弾のように投下しようか。ああ、直斗よ、もっと、ネタを提供したまえ。いやあ、楽しいねえ!!


 


 最奥へと辿り着いた彼らを待ち受けていたのは、空っぽになった宝箱であった。

 失意のどん底に落ちた彼らは、ションボリしながら家路についた。


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