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第54話

「久しぶりな感じがするなあ」

「何が?」

 アークティカ王都。そこを一組の男女が歩いていた。直斗とエクリアである。

「いや、こうしてエクリアと二人で王都を歩くのが、さ。近頃色々と出歩いていた記憶しかない気がして、さ」

「……近頃蜥蜴丸とばっかり行動を共にしていた、の間違いじゃない?」

「……」

 エクリアの返答を受けた直斗は、立ち尽くした。

「どうしたの?」

 いきなり歩みを止めた直斗を見て、引き返してきたエクリア。直斗の顔を覗き込む。以前の直斗であれば、そこで顔を赤くして視線を逸らすくらいはしたであろう。だが、今の直斗は顔面蒼白であった。

「……否定できない自分が辛い」

 気付かされた事実に涙が溢れだしそうだった。

 

 前日映画を観続けたせいもあり、昼前から行動を開始した直斗。

 仕事の都合でバーソロミューとマリアが外出しているのをこれ幸いと言わんばかりに、エクリアをデートに誘ったのであった。

 そして、二人で王都を歩いているのである。エクリアの腕の中にコリスがいるので、厳密には二人きりではないのだが。

 先ほどまで二人と一匹で喫茶店で昼食をとっていたのであるが、今は特に目的もなくブラブラと歩いているだけであった。

 そんな二人と一匹の前に立ち塞がる集団があった。

「ネイサン?」

 このアークティカ王都に直斗たちが辿り着いた頃にエクリアと直斗に絡んできたネイサンとその取り巻きであった。

「久しぶりだなあ、エクリア。ところで、その後、その猫様は元気にしているかな?」

「は?」

 直斗は臨戦態勢に入っているが、ネイサンは闘う気配すら見せていない。以前はエクリアにやたら絡んできたという話であったが、今、彼の視線はエクリアに向かってはいなかった。エクリアの腕の中にいるコリスを慈愛に満ちた目で見ていた。

「いやいや、エクリアよ。君の事はもはやどうでもいいのだよ。その猫様は元気にしているかな? 俺が聞きたいのはそれだけなのだよ」

 以前のチンピラ臭がしていたネイサンは何処にもいなかった。喋り方も少し落ち着いている感じがする。直斗も危険性はないと判断して、臨戦態勢を解除した。しかし、こいつ、本当にあのネイサンだろうか?

「コリス? コリスは元気にしているけど……」

 エクリアもネイサンの事を疑問視していた。まったく分からない存在と化しているかのようだ。

「そうか、それならいいのだよ。そうだ、一度その猫様を連れてダゴン商会本店に来てくれないか? 可愛い猫様たちを紹介しようじゃないか。その猫様にも友達が出来るかもしれない。俺がいることで、エクリアが不安だと言うのなら、その猫様だけで遊びに来てももちろん、構わない。では、な」

 喋りたいことだけを喋って、ネイサンと取り巻きたちは歩き去って行った。彼らの手には猫の餌で埋まっていた。コリスがそれを欲しそうに見ていた。

「猫はかわいい、猫はかわいい、猫はかわいい……」

 まるで呪いか呪文の類か、そのような言葉を呟きながらネイサンとその取り巻きたちは歩み去ったのだが、その後を数匹の猫たちが追いかけていた。彼らは野良猫であったが、随分と綺麗な毛並みをしていた。

「やべえ、アレが猫神教の集団か……」

「猫だけは異様にかわいがるって一団だ……」

「蜥蜴だけは許さないって集団らしいが、何故蜥蜴なんだろうな、誰にも分からないって話だぞ……」

 王都の住民たちが猫神教について話をしている。もちろん、直斗にもエクリアにも、何故ネイサンたちが猫神教なんて宗教を作り上げたかは分からないが、きっと、蜥蜴丸から宇宙ナノマシン“スグナオール”をぶち込まれたせいなんだろうな。そうは思ったが、直斗もエクリアも知らないふりをしたのであった。


 気分を何とか変えて、エクリアと並んで歩き出した直斗。

 目当てのアクセサリーを売っている露店を見つけた。ここで、決めるんだ。給料三か月分をつぎ込むんだ。

 だいたい、自分の年齢くらいなら、月20万Gがいいところらしい。普通の勤め人ならそれくらい貰っていれば十分だろう、とはシンシアに今朝貰った回答である。

 ならば、そうだな、昨日蜥蜴丸からぶんどった100万Gがある、食費やらなんやら払ったが、まだ諸々合わせて80万G以上手元に残っている。60万Gならば余裕だ。

 それで指輪を買うんだ、そして、出来ればその場で結婚を前提に交際してくれないか言うんだ。直斗の厨二病脳はフル回転を始めていた。


「やあ、待っていたよ、ナオト君」

「遅かったではないか。待ちくたびれて眠るところだったぞ」

 直斗を絶望が襲った。ここまで来て強敵が現れたのであった。

「何故、俺がここに来ると分かった……?」

 直斗の問いかけは何故ユーフェミアとディアナがここにいるのか本当に分かっていないからこその問いであった。

「昨日、頬が緩みまくっていたからねえ」

「きっと、エクリアを誘ってデートにでも行くのだろうと考え、邪魔はしないでおいた。そして、目的地はここであろうと、予測していたのさ」

「だいたい、ズルいんだよ。エクリアばっかりアクセサリー貰ってさ。私にもプレゼントを渡すべきだと思うんだよね!!」

「フム、そうだな、私も頂こうではないか」

「ワガハイも頂きたいものだな」

 なんか最後に恐ろしい一言が聞こえた気がしたが、直斗は無視した。

「いやだ、俺は今日……」

「私たちもパーティーメンバーだよね」

「一人にだけあげると言うのは、いただけないな。私たちも貰う資格があるよな。エクリアにはパーティーメンバーだからあげたんだろう?」

 恐怖心が直斗を支配した。ダメだ、逃げられない。助けを求めてエクリアを振り返るも、エクリアも恐怖心に負けたのか、コリスと一緒に何事もなかったかのようにアクセサリーを見ているのであった。

 結局、直斗は恐怖心に負けた。逆らえなかった。

 ユーフェミアには、その髪の色とよく似たオニキスの宝石を使ったネックレスを、ディアナには直斗が勝手に連想する「月」から、ムーンストーンを使ったネックレスをプレゼントした。

「ワガハイには?」

「貴様にやる宝石などない」

 ナチュラルに蜥蜴丸をシカトする直斗であった。


「ああ、浪費してしまった。給料三か月分が……」

 ユーフェミアとディアナにネックレスをプレゼントしたため、手元に残った金額が不安になった直斗であった。だが、直斗は諦めなかった。

 給料三か月分は流石にまだ早いか、そんな事を考えた直斗は、それでも、エクリアに指輪をプレゼントした。

 彼女の眼の色には及ばないが、少しうすい青色のアパタイトを使った指輪だ。

 喜んでくれるといいなあ、そう思いながら横目でチラリとエクリアを眺めてみた。彼女の横顔は少し笑顔であったが、自信がない直斗にはそれが喜んでいるのかどうか、確信は持てなかった。




「何故、ワガハイにはプレゼントがないのだろう?」

「欲しかったのか?」

「野郎からもらって何が嬉しいのよ。エクリアから欲しかったのよ、ワガハイ」

「あげないよ、蜥蜴丸には」

「おうふ、ワガハイ、ショック」

 全員で露店を後にした。

 最初から露店にいたのに悉く存在を無視された蜥蜴丸さんは少しご立腹であった。

 そんな虫の居所が悪い蜥蜴丸の前に猫神教のメンバー達が通りがかった。ネイサン達主要メンバーがいなかった事が災いしたのか、彼らは蜥蜴丸を見てののしりだした。


「ひとーつ、猫神教は猫様を最上の生き物とすべし!!」

「ふたーつ、猫様以外の存在は皆平等である!!」

「みっつ、しかし、蜥蜴だけは許すまじ!!」


 どうやら、猫神教の教義のようだ。何か、統制がとれていた。

 蜥蜴丸がネイサン達に宇宙ナノマシン“スグナオール”を注入してから、それほど時間は経過していないと思うのだが、アークティカ王都ではもしかしたら一大勢力になっているのかもしれない。

 猫神教信者は満足そうな表情をしている。おそらく、人間大の二足歩行をする蜥蜴に対して実力行使をしてはいけない、そのような掟でもあるのだろう。蜥蜴丸に対して暴力を使って排除しようなどとは考えていないようだ。

「なかなか面白い言葉遊びではないかね。では、ワガハイもやってみよう。ワガハイのカッコヨサに思わず笑点、否、昇天しちゃうかもしれんよ。準備はいいかね、おーい、山●君、ワガハイに座布団一枚」

「座布団の用意は出来ていないぞ」

 すぐに受け答えをする直斗。やたらと付き合いはいい男である。

「ノリが悪いではないか、まあいい、では、心して聞け、猫神教などと自称する愚か者どもよ。聞き終えたら真・蜥蜴教に改宗させてやろう」

 座布団云々にツッコミを入れるモノどもは何処にもいなかった。


「ひとつ、人の世生き血を啜り……」

「……」

「続きは直斗、貴様も言えよ。これは、ワガハイらに対する挑戦よ。ファーガイアのお笑いは貴様とワガハイにかかっているのよ。続きを言えよ。奴らが三つ言ったのだから、最低でも四つ以上にするぞ、挑戦された以上、受けて立つ。それこそが王者たるワガハイらの立場よ」

「科学者じゃなかったのか、貴様」

 振り出しに戻った。今度は直斗を絡めての仕切り直しである。他のメンバーは自分たちが絡むのを拒否した。猫神教のメンバー達は帰ることは許されなかった。何故か正座してかけあい漫才を聞かされることになった。座布団の上に正座をさせてやったのは、直斗の優しさであった。人数分の座布団を何処からとりだしたのか、その頃には正気を失っていた直斗には分からなかった。

 直斗は足りない頭をフル回転させて蜥蜴丸に付き合ってやることにした。


「ひとつ、人の世生き血を啜り……」

「ふたつ、富士山麓に鸚鵡オウム鳴く」

「みっつ、みんなで皆殺し」

「よっつ、死人に口なし冥土の土産」

「いつつ、誤認逮捕は蜜の味」

「むっつ、無人改札あるのはそこそこ都会」

「ななつ、なあなあで終わらす不思議な世界」

「やっつ、八ッ橋第一、京都の土産」

「ここのつ、苦渋の選択、何処へ行く?」

「とおでまだまだ終わらない。やめられない、止まらない」


 蜥蜴丸と直斗のかけあい漫才は十を超えても終わる気配がなかったが、蜥蜴丸が先に飽きた。

「おいおい、いつまで続ける気よ?」

「まだ終われないだろうが、諦めるな、諦めたらそこで試合終了だよって、あのお方が言っていたではないか!! お前なら出来る!! さあ、もっと、もっと熱くなれよ!!」

 直斗が変な熱血モードに突入していたので、蜥蜴丸が何処からかとりだしたハリセンで直斗をぶちのめし、かけあい漫才を強制終了させた。

 猫神教のメンバー達は蜥蜴丸が直斗をハリセンで叩いている間に逃げ出していた。女性陣は直斗と蜥蜴丸がかけあい漫才をしている間、買い物を楽しんでいた。




 ティンダロス邸ではその頃、シルヴィアとゲーサンが将棋をさしていた。

「みなさん、何処へ行ったのでしょうね? 起きたら誰もいないなんて、寂しすぎませんか、ゲーサン?」

「げっげ、げげげ、げげ、げっげげ」

「何を言っているか、分かりませんよ……」


一つ目は、「桃太郎侍」から。

二つ目は、ルート3、いや、ルート5……? もっと上? 数学は嫌いだ。

三つ目以降は、一応オリジナルのつもり。


ちなみに私が一番好きな時代劇は「三匹が斬る!」シリーズです。

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