第50話
束ねられた闇を斬り裂き、突き進む弾丸と化した蜥蜴丸。
「馬鹿ナ、我ノ闇ヲモ斬リ裂クト言ウノカ……ッ、貴様コソ勇者ノ末裔カ……!?」
直斗への恨み言を言う為、全くアンゴルモアの話など聞いていない蜥蜴丸。そして、自分が勇者などとは思っていない直斗。何故か胸を張るゲーサン。もしかして、勇者の末裔は、ゲーサン!? 直斗は急にそんな考えが沸き起こったが、気にしないことにした。
そして、突き刺さった弾丸蜥蜴丸。
「ヌゥォオオオッッ!! 我ガ、恐怖ノ魔王タル我ガ、コンナ蜥蜴二殺サレル、ダト……!? ソンナ事ガ許サレテナルモノカ……!!」
「しょせん貴様は時代遅れの魔王よ。地球ではなく、このような星に降り立ってしまい、勇者とやらに封じられたのだとしても、俺の前に立った時点で、貴様の敗北・消滅は決まっていたのだよ」
自分が封印をノリと勢いで解いてしまったくせに、まるで恐怖の魔王アンゴルモアの運命であったかのごとく語りだす直斗。やはり、厨二病が異世界ファーガイアに来てから進行し続けているのか。何故なら、この世界には彼の厨二病を止める存在がいない。むしろ、魔王とかいろんなものがいて、進行を手助けしている。
「ヌゥガァァアアアッッ、許サン、許サンゾォッッ!!」
断末魔の悲鳴をあげる恐怖の魔王アンゴルモア。
「我ガ、恐怖ノ魔王あんごるもあガ、コノヨウナトコロデ、終ワッテタマルカ……!!」
最後の悪あがきを続ける魔王アンゴルモア。だが、その体は、蜥蜴丸が突き刺さったところから、光の線が走り、ひび割れが入っていく。
「我ハ、コノ世界ニ恐怖ト混沌ヲモタラスものナリィィッッ!! 我ガ闇ハ、コノ世界ヲアマネク覆ウものナリ……ッ!!」
この頃になると、案外しぶといなくらいにしか、直斗は思っていない。さっさとくたばれよ。
「貴様如きの闇で、俺の太陽を止められるわけがあるまい。さらばだ、時代遅れの恐怖の魔王アンゴルモア。君はとても、滑稽な存在だったよ。二千年を超えた俺たちには、君の存在は不要なのだよ」
そして、恐怖の魔王アンゴルモアに背を向ける直斗。つられてゲーサンも背を向ける。
直斗は右手を高く掲げた。指を広げて。
「我ハタダ、使命ニ従イ、世界ニ闇ト混沌ヲモタラシタカッタダケナノニ……ッ!!」
「さよならだよ、アンゴルモア」
直斗の右拳が握られると同時に、大爆発を起こすアンゴルモア。
爆風を背にカッコイイ(と直斗とゲーサンは思っている)ポーズをとる直斗とゲーサン。
ああ、戦いは終わった。
恐怖の魔王アンゴルモアを倒し、異世界ファーガイアを恐怖と混沌から救った直斗。
あれから何年経っただろう?
エクリアに結婚を申し込み、OKを貰った直斗は、リリスの力を借り、エクリアを地球に連れ帰り、幸せな結婚生活を送っていた。何故か、戻った時は、例の直斗が失踪してから一日後であった。
リリスとアヤメさんの力を借りて、エクリアの戸籍を偽造したのは言うまでもない。
数年後、直斗とエクリアの間に愛の結晶が生まれた。
スクスクと育った彼も、今ではもう6歳。小学校に上がる歳になった。
ちょうど、直斗が仕事の都合で転勤になったのを機に、郊外に一軒家を建てる事になった。この頃の直斗は己が幸せの絶頂にあると考え、疑っていなかった。
綺麗な奥さん、かわいい子供、そこそこある給料、会社は堅実な経営を続けていて、リストラになどあいそうもない。ああ、順風満帆な我が人生よ。エクリアと出会うまでは、不幸な方が多かった気がするが、今では会社の同僚から「あんな綺麗な奥さん手に入れやがって……」とやっかみを受ける日々だ。
そして、入学式を終え、クラス別で集まることになった。
教師が児童の名前を呼び続けている。
「かみしろ、ええと、なんて呼ぶのかな、かみしろくん、自分の名前、言えるかな?」
小学一年生を受け持つだけあって、ベテラン教師なのだろうが、子供の名前を呼べないなんて、なんて可哀相な男だろうか。
直斗は怒りすら覚えた。
「はい、かみしろ恐怖の魔王蜥蜴丸です!!」
「恐怖の魔王蜥蜴丸……ですか」
あきれてモノが言えない担任教師である。
「はい、恐怖の魔王が、ミドルネームです。蜥蜴丸が名前になります」
元気に答える我が息子。うむ、いいな。しかし、何故だろう。先ほどまで普通の名前だった気がするが、急に名前が変わったな。あんな名前をしていなかった筈だが。
「役所の人は、その名前でいいって、言っていたのかな?」
「はい、父がどうしても、ミドルネームを付けたいと言うので、こんな名前になりました。最後はゴリ押しだったそうです」
なんと、ハキハキと答える息子であろうか。あんなスラスラと言葉が出てくる小学一年生など会ったこともない。
先ほどから、周りの保護者が我が息子を見て悲鳴をあげている。どういう事だ。名前を聞いてくすくす笑われるならまだしも、見て悲鳴をあげるのは流石に失礼だろうが。
「お父さん、何故こんな名前を付けたのですか? 見てみなさい、おかげでこんな変な子供になってしまったではないですか!!」
何故この教師はいきなりキレだしたのだろう?
そして、自分を振り向く我が息子。
「やあ、お父さん、お父さんが変な名前を付けたから、僕はこんな姿になってしまったよ」
笑いながら振り向いたその姿は、かつての戦友、蜥蜴丸を小学一年生サイズに変えただけのモノであった。
「日本と言う国には言霊思想がある。こんな名前を付けたから、異世界よりワガハイの魂が乗り移り、ついには子供の体をのっとったのだよ。分かるかね? これがDQNネームの呪いなのだよ!! 貴様には今まで、どう考えてもこの名前がおかしく感じない呪いをかけていたのだよ。もちろん、エクリアにも、周囲の人間にもなぁ!! クカカカ、貴様が幸せの絶頂にいる頃、絶望に叩き落とすことにより、ワガハイの呪いが完成するのだよ……!!」
直斗も、隣にいたエクリアも絶望の淵に叩き落とされた。
「クカカカ、ワガハイの科学力の勝利よ!! 貴様はこれから、どうやって生きていくのかな!?」
蜥蜴丸の嘲笑だけが世界に響き渡ったのであった。
恐怖に駆られ、恐怖の魔王アンゴルモアが爆発したところを探す直斗。なんだ、今の悪夢は? これが、蜥蜴丸の科学力がもたらす呪いだとでもいうのか……ッ!!
必死で探すが、完膚なきまでに爆発四散したそこに、蜥蜴丸はどこにいなかった。
やがて、直斗とゲーサンを除いたパーティーメンバー全員が、異空間から出てきた。
立ち尽くす直斗を見て、何をやっているんだろう、そう思いながら声をかける事をしないメンバー達。
「我が友、戦友蜥蜴丸の英霊に、敬礼!!」
まるで、そこに蜥蜴丸の霊がいるかの如く、天を向き、敬礼をしだす直斗。
そこに、ノリと勢いだけで加わるユーフェミアとゲーサン。何故か今回はシルヴィアも加わった。一度、ノリと勢いだけで加わってみたかったのだろう。
「蜥蜴丸ゥゥーーーーッ!! フォーエヴァーーーーッッ!!」
何故か涙を流す直斗とゲーサン。その横でユーフェミアは笑いをこらえている。
「ナオト、いったい何をしてるの?」
「そうだぞ、ナオトよ、お前は何を考えている?」
冷静に声をかけてくるエクリアとディアナ。近付いてきたエクリアから、コリスが直斗の肩に飛び乗った。
「え、いや、蜥蜴丸が死んだから、さ。せめてもの供養をしようと思って死体のかけらでも探そうと思ったんだけど、何処にも見当たらないんだ。俺は、戦友を殺してしまったよ……」
ノリと勢いで蜥蜴丸を弾丸にしたくせに、何を言っているのだろう? エクリアとディアナの視線はそう語っていた。
ディアナがあっちを見ろ、と言わんばかりに左手の親指である方向を指さす。そちらに視線を向けた直斗が見たモノは……。
「フム、見よ、この魔石を。これだけの黒、なかなかないぞ。これだけの魔石なら、おそらくは100万Gは下るまい。クカカカ、今回はワガハイが全部頂こう。直斗のヤツがワガハイが死んだと思っている今こそ好機よ」
「何を言っているんですか、蜥蜴丸。今回は私も結構頑張りましたからね。分け前を頂きますよ。そうですね、ナオトさんたちに黙っていてあげる分、私が7、蜥蜴丸が3でどうですか?」
「貴様、ほとんどエルフ耳やゲーサンを弄っていただけではないか。そんな取り分は認められんな」
「では、私が8、蜥蜴丸が2ですね」
「何故、貴様の取り分が増えているのだ? どう考えても、ワガハイが9、貴様が1だろうが。ワガハイ、大活躍したのだぞ!!」
その足元にめり込む一発の弾丸。
言い争いを中断して、直斗たちの方向を向く蜥蜴丸とシルヴィア。
「どういう……事かな?」
「お前、泣いている芝居に酔っていただけじゃなかったの?」
そう、先ほど、直斗とゲーサン以外のパーティーメンバー全員が、異空間から出てきたのである。そこには、当然蜥蜴丸も含まれる。その時、直斗はしっかり見た筈なのであるが、悪夢を見た影響で、蜥蜴丸は死んだモノ、そこにいたのは己が作り出した幻だと思ってしまったのだ。
「何故、生きている……?」
一番の疑問は、そこだ。
「クカカカ、貴様が考えそうなことなどお見通しよ。貴様があのバズーカモドキを出した時、ワガハイ、ピンと来たね。こいつ、ワガハイを弾丸にするつもりだ、とね」
蜥蜴丸は自信たっぷりに語りだした。
「故に、ワガハイはクローンを飛び出させたのだよ。まだ、稼働前のクローンは、何体かあるからねえ。記憶も言動もワガハイとほぼ同じ。故に、貴様が勘違いしたのは仕方がない。気付かなかったかね? 異様に抵抗が少なかったであろう。稼働直後だったからなのだよ」
そう言われれば、蹴り上げたのに簡単に浮き上がった気がしないでもない。
「もちろん、言動もワガハイと同じだからねえ。クローンで騙された自分を恥じる事はないよ、うん」
「じゃあ、DQNネームの呪いは……?」
「お前、何言ってんの? そんな呪い、科学的にかけられるわけないだろうが。バカなの?」
追っかけっこを始めた直斗と蜥蜴丸を見ながら、広げたブルーシートの上でお茶をしだす女性陣。
「平和だねえ」
「ユーフェは、あそこで何で敬礼したの?」
「ノリと勢いで、つい」
「私も、お前たちのノリと勢いに加われるように努力しないといけないかもしれないな」
「ディアナまで、向こう側に行かないでね、お願いだから」
「何故だ?」
「止める人が欲しいよ、一人じゃ無理だもん」
「そうか」
「今度は、クーちゃんを描いているんですか」
「げげ」
先ほど途中だったので、クーちゃんをモデルに絵を描いているゲーサン。
「クー……」
クーちゃんは、みんなと一緒にお菓子を食べたいだけであった。動くとゲーサンが怒るので動けないのである。
「平和だねえ」
ユーフェミアの呟きが空間中に木魂した。




