第49話
「まあ、腹が減っては何とやらだ」
そう言って女性陣と一緒になってブルーシートでお茶とシュークリームを頂くことにした直斗たち。このシュークリームも、先ほど使った爆弾もすべて直斗が元いた世界から直斗の異空間に送られたものである。
「さっきの爆弾もだけど、このシュークリームも誰が送ってきてるの?」
「リリスとアヤメさん」
おそらくは、実験であろう。いわゆる、趣味と実益をかねてってやつだろう。
もちろん、先ほど使った爆弾など、正規の手段で手に入れたモノではない。何処から入手したかは怖くて聞けるモノではない。
「クカカカ、流石のワガハイも簡単に異世界転送など出来ぬよ。そこらへんはあの猫娘に乾杯、否、完敗。認めざるを得ないよ」
「お前はまた、活字でしか分からないボケをかますなよ」
とりあえず一休みした一行。
またも、祭壇を調べる事にした。
□□□□Y□□M
そして、その横に赤と青の○ボタン。
「さて、蜥蜴丸よ、この装置を見てどう思う?」
「考えるのは、おそらく貴様と一緒よ。だが、どの数字をうちこむかが問題だな」
□のマスに、数字をうちこむ、というよりは、数字を当てはめる、と言ったところか。
数字の刻まれている回転するバーみたいなものを、数字を当てはめながら、6か所の正解を導き出さなければならない。
簡単に言うならば、1234Y56Mといった具合にだ。
「そして、赤がキャンセル、青がOKボタンであろうよ」
とりあえず、全員の意見を聞こう。
「みんな、古代遺跡を歩いてくる中で、何かヒントみたいなものを見なかったか?」
ゲームなどでも、町の人間との会話でヒントを見つけたり、ダンジョン内でヒントを見つけるのは、当然のことである。だからこそ、直斗は他のメンバーがヒントを見つけたのではないか、と淡い期待を抱いたのである。
全員が首を横に振った。もちろん、直斗も見つけていない。
「どうする? これを無視して帰る、という手もある。もちろん、手当たり次第に数字を当てはめてみて、出てくる魔物をとりあえず倒すという手もある」
直斗としては、帰りたいところではあった。ただ単にめんどくさいのである。
「いやいや、ここまで来て、貴様何を言う? ワガハイとしては、ここで正解を当てて、お宝をゲットしない限り、帰れぬよ。貴様も、変態のネックレスを手に入れただけでは、家賃も食費も払えんぞ。だいたい、あの手の男は支払いを渋る傾向にある」
「蜥蜴丸よ、お前みたいにか? インテリとか知性派ぶってるヤツはだいたいそうだって言いたいんだな?」
全員が蜥蜴丸を見る。疑いの視線が蜥蜴丸に突き刺さった。
「直斗、貴様には失望したぞ、ワガハイをそんな目で見ていたのか? 相方たるワガハイを!!」
「そんな目で見ていたよ。でも、お前は相方じゃないぞ!!」
今度は、全員の視線が直斗に突き刺さる。その視線は、相方じゃないか、お前たちはお笑い芸人ではないか、そう語っている気が直斗にはした。
もちろん、認めるわけにはいかなかった。無駄な抵抗かもしれないが、それでも認めるわけにはいかなかった。
結局、直斗が蜥蜴丸に押し切られる形になった。
「どうする?」
「ワガハイとしては、候補が二つある。直斗よ、貴様は?」
「俺も二つだな」
とりあえず他のメンバーの意見を聞こうとしたら、二人に任せると言われたので、二人で決める事にしたのである。
「どちらにする?」
「俺としては、とりあえず若い方を選択するがな」
「ほう、そう来たか。まあいい、とりあえず、数字をそろえてみよ。鬼が出るか、蛇が出るか。どちらにしろ、正解を知らんのだから、何の問題もあるまいよ」
「いいだろう、後悔するなよ?」
そして、直斗のそろえた数字は……
1999Y07M
「俺はこいつを選択するぜ!!」
「貴様、本当にそれを選ぶか? まあ、ワガハイもそれともう一つしか考えていなかったが……!!」
「賽は投げられたのだよ!!」
なんとなくかっこいいセリフを言いながら、青のボタンに拳を叩き付ける直斗であった。
そして、棺は開いた。
開け放たれた棺から立ち昇るは、圧倒的な気配。
巨大な、黒い存在がそこにいた。
高さは、10メートル近くであろうか?
邪悪、この存在を一言で言い表すならば、それが一番妥当であろう。
まるで、巨人が黒い、邪悪な甲冑を着ているようなフォルムをしていた。
「我ヲ、数多ノ眠リカラ目覚メサセタモノハ、何モノゾ……?」
そして、その背中から伸びるは、七つの尾、それとも触手か?
その眼が、直斗たちを見下ろしてきた。
「貴様ラ、我トカツテ死闘ヲ演ジシ、勇者ドモノ子孫カ、ソレトモ、単ナル愚物カ?」
そこに立つのが普通の人間であれば、一睨みされただけで、気を失うか、命すら失くすであろう。それほど、圧倒的な存在であった。
「単ナル愚物デアレバ、ココデ命ヲ絶ツガヨイ……!!」
「あれは、マズイよ、S級ランク冒険者が束になってかからないといけない存在だよ、アレは……」
ユーフェミアがガタガタ震えている。お飾りとは言え、ギルドマスターになった冒険者だ。相手の強さを見抜く目は持っている。
「あれほどの存在、私が仕えた魔王以上、か……?」
かつて魔王配下四天王であったディアナが、現魔王よりも、上だと感じる程の強さ。
コリスとクーちゃんは、エクリアとシルヴィアに抱きついて震えていた。エクリアもシルヴィアも、口には出さないが、その圧倒的な存在を目にして、震えが止まらない。
だが、それでも平常運転の存在がいた。
直斗と蜥蜴丸、そしてゲーサンである。
「なんだ、この程度か、大したことないな」
「もっと、意表をついたモノが出てくると期待していたのだがなあ。この程度なら、リリスの本気を知るワガハイには通じぬよ」
何故か、彼らの横で木製バットを持ってスイング練習をしているゲーサン。何か目標でもあるのだろうか? きっと、彼はいつかファーガイアに野球を広めたいのであろう。広まるとはとても思えないが。
「ホウ、貴様ラ、我ヲ恐レヌト申スカ……、ナラバ、ソノ死ヲモッテ知ルガ良イ」
そして、構えをとる邪悪なる巨人。
「我ガ名、あんごるもあノ名ヲ魂二刻ンデ、死ネ!!」
そして、その背から生える尾から放たれる七つの衝撃。
「我ガ“七彩月蝕”ニテ、死ヲ思エ!!」
黒コートを脱ぎ、縦にして構える直斗。その直斗の後ろに屈みこむエクリア、ユーフェミア、ディアナ。
異空間にさっさと逃げ込む蜥蜴丸。その後を追って安全地帯に逃げ込むコリスとクーちゃん。
ゲーサンも逃げようとしたが、彼の後ろにシルヴィアが逃げ込んだため、ゲーサンは逃げる事が出来なかった。
「げげ?」
しかし、ゲーサンは慌てることなく、ボクシンググローブをはめ、次々と襲い来る七つの尾から放たれる衝撃を弾き飛ばした。
「ほほう、“七彩月蝕”かよ」
直斗の右側に浮かぶ空中ディスプレイ。そこには、蜥蜴丸が映し出され、その後ろでは、コリスとクーちゃんがお菓子を食べていた。
「知っているのか、蜥蜴丸?」
「説明しよう、“七彩月蝕”とは、奴の尾から放たれる衝撃にして、その七つは七大元素なのだよ」
ドヤ顔をする蜥蜴丸。だが、直斗にはそれが単なる蜥蜴丸の推測にしか思えないのである。
「七大元素か」
「七大元素よ」
「では、その七大元素とは、何かな? 教えてくれよ、極めて科学的に」
からかうような直斗の声。黒コートには間断なく衝撃が襲い来るが、直斗が手に持っているだけで、直斗やその後ろにいる女性陣にはいっさいダメージが通らない。
「教えてやってもいいが……大丈夫なのかね?」
少し心配そうな蜥蜴丸の声であった。だが、何のことか分からない直斗。
「大丈夫だ、問題ない」
「そうか、問題だらけにしか見えんが、まあ、いいだろう。極めて科学的に教えてやろうではないか」
「ほう」
「教えてやろう、七大元素とは……」
「七大元素とは……?」
直斗と蜥蜴丸のやりとりを固唾をのんで見守る女性陣。一人シルヴィアだけはゲーサンの後ろでお茶を飲んでいた。
「愛・希望・勇気・熱血・根性・正義・その他だ」
「ブフゥーーーーッッ!!」
ゲーサンの後ろで優雅にお茶を飲んでいたシルヴィアが吹き出し、直斗の後ろに屈みこんでいた女性陣もお腹を抑えだした。
直斗も笑いをこらえるのに必死だった。どこにも、元素の名前が出ていないではないか。こんな場面でネタを放り込んでくるとは、蜥蜴丸恐るべし。平常時に聞くとまったく面白くないのに、何故か今は笑えた。しかも、最後の1個はその他かよ。
ゲーサンは遂に、興奮しだしたのか、いつの間にかデンプシー・ロールを繰り出していた。そして、そのゲーサンの拳で軌道を変えられた“七彩月蝕”は、直斗の右側に何発も、何十発もぶち当たっていた。普通の人間なら、数十回は死んでいたであろう。何故か、直斗の後ろにいる女性陣には一発も当たっていなかった。
「ヌゥゥ、貴様ラ、何故死ナヌ? 貴様ラコソ、我ト雌雄ヲ決スル勇者ノ子孫トデモ言ウノカ……!!」
“七彩月蝕”を放つのをやめたアンゴルモア。
「勇者とか、アンゴルモアとか、凄いなコイツ、厨二病が進行しすぎだぜ」
自らをアンゴルモアと名乗る存在を前にして、厨二病扱いする直斗。しかし、直斗の右半身は、ゲーサンによって弾かれた“七彩月蝕”によって、真っ黒に染まっていた。
「愚物ガ!! 我ヲ愚弄スルカ……!!」
怒り狂ったのか、“七彩月蝕”を一つの束にして打ち出してきたアンゴルモア。
直斗の目の前に立ち、木製バットを構えるゲーサン。真芯で捉えられた束になった暗黒の衝撃を軽々と跳ね返した。
跳ね返された衝撃により、たたらを踏むアンゴルモア。
その隙に直斗は携帯電話をとりだし、ある武器をイメージして555を入力。「complete」の電子音声とともに現れたその武器は……。
「まるで戦隊モノヒーローが巨大ロボに乗る前に出すバズーカみたいなやつではないか」
蜥蜴丸がそう声をかけた。
「蜥蜴丸よ、いつまでそんな平穏なポジションにいるつもりだ?」
「何?」
「貴様はいつからそんな平和な場所で仲間が勝利を勝ち取るところを見るだけの虚しい存在になったのだ?」
「貴様、ワガハイを愚弄するかよ……!!」
「ならば、出てこい。俺たちの必殺技を放つぞ!!」
「クカカカ、合点承知よ!!」
そして異空間から飛び出して来る蜥蜴丸。入れ替わりで女性陣を異空間に放り込む直斗。
「さて、ワガハイはどのポジションに立てばよいかね? やはり、副主人公格だから、右側?」
「お前はここだ、蜥蜴丸」
蜥蜴丸を蹴り上げ、キャッチしたゲーサンと一緒に巨大な砲口に押し込む直斗。
「おい、貴様ら、何をするのかな? もしかして、みんなが愛してやまないワガハイを弾丸代わりにして、モアちゃんに発射しようトカ、そんな事考えていないかな? いい加減、蜥蜴虐待で訴えるぞ!! もしくは、貴様に子供が生まれた時DQNネーム(別名キラキラネーム)しかつけられなくなる呪いをかけるぞ。いいのか? 将来巨大掲示板で叩かれまくるぞ、病院でフルネームで呼ばれた時に周りからクスクス笑われる呪いをかけてやるぞ。子供に『こんな名前を付けやがって、低能が』って将来言われるようにしてやるぞ!!」
「ええい、五月蝿い!! やるぞ、ゲーサン!!」
「げっげげ!!」
右側にゲーサン、左側に直斗が片膝立ちで立ち、巨大なバズーカらしきモノを構える。
「ところで蜥蜴丸、やっぱり、何かカッコイイ必殺技の方がいいよな?」
カッコイイ必殺技の名前を大声で叫んでぶっ放そうとか考えている直斗がそこにいた。直斗の厨二病も結構進行していた。
「何言っているの? お前何言っちゃってるの?」
蜥蜴丸が何事かをわめいているが、気にする直斗ではない。
直斗の脳裏に浮かぶは、エクリアの眩しいまでの笑顔。アンゴルモアが恐怖の魔王であるならば、俺にとってエクリアは太陽よ。
「決めたぜ、行くぞ、俺たちの必殺技!!」
「やめてとめてやめてとめてヤメテトメテ」
何とか脱出を試みる蜥蜴丸であったが、遅かった。
「“栄華なる幻想”、発射!!」
「げげ、げっげ!!」
引鉄を躊躇なく引く直斗。そして、ゲーサン。
「おお、ワガハイの魂が重力という束縛から解き放たれようとしている。今、ワガハイの心は科学を超えた何かに辿り着こうとしている。しかし、そんなモノ、何処にもないと誰もが知るだろう。科学は決して万能ではない。それでも、ヒトは科学に頼るのだ。ニンゲンは何処から来て、そして何処へ行こうというのか。ニンゲンは幸せになってもいいのか? いいだろう。だが、直斗だけは幸せになる事は許さんよ。子供にDQNネームしかつけられなくなる呪いをかけてやるぞ、七代先までDQNネームしかつけられなくしてやるからな!!」
発射される蜥蜴丸。対抗して放たれた束になった“七彩月蝕”の暗黒を突き破り、アンゴルモアに突き刺さる太陽のような色を放つ蜥蜴丸。発射されてからアンゴルモアに突き刺さるまでの一秒間に何故あれだけ喋れて、しかもしっかり聞き取れたかは謎である。
そして、恐怖の魔王アンゴルモアは大爆発を起こしたのであった。




