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第4話

 眠れない夜を過ごすのは幸せなのか、不幸せなのか、直斗は闇の中考えていた。明かりをつけていないのはベッドですやすやと眠るコリスを起こさないためである。

 ちなみにベッドで寝ているのはコリスであり、寝ようとしていた直斗をベッドから蹴り落としたのもコリスである。飼い主(?)であるはずの己を押しのけ眠る黒猫を見下ろし、彼は世の不条理を嘆いていた。

「なんでだろう?」

 なんとなく歌を歌いたくなったが、自制心で歌うのをやめた直斗であった。

 仕方ない、明かりをつけよう。

 彼は明かりをつけ、冒険者ギルドで手渡された書類に目を通すことにした。

 ゲームの説明書もソフトウェアの同意書も読まない彼にとって珍しいことであった。読書好きではない彼にとっては仕事のマニュアルを読むのも苦痛であったが、やはり異世界に来て何も説明を受けずに生きていく自信はなかった。


 以下は抜粋である。しかし直斗にとって都合のいい事しか書いていない。彼は自分にとって都合の悪いことはスルーする性格である。

 ①ギルドランクはF~Aまで。その上にSランクが存在する。

 ②それぞれの昇格は一定数の依頼をこなすか、試験を受けるか、ある程度のモンスター(魔物・怪獣でも可)を倒すことが出来るかなど、様々。

 ③依頼に失敗したら罰金をとられることもある。ペナルティーは様々。あまりにもひどいと、ランク降格、冒険者ギルドからの追放などもある。

 ④ギルドの依頼は薬草採取やモンスター退治、他の町へ向かう商人たちの護衛など様々。報酬も難易度によって変わる。

 ⑤モンスターを倒すことによって得られる魔石や素材は冒険者ギルドで換金できる。

 ⑥ギルドカードは個人の身分証明書にもなる。このカードで所持金の管理(銀行のようなものに預けたり引き出したり)、買い物もできる(キャッシュカードのような物だろうか?)。


 ……怪獣とはなんだろうか?

 直斗の頭を占めたのはそれであった。モンスター、魔物はいい。だが、怪獣はなんだ?

 しかし、直斗はそれを頭を振って追い払う。それを目の前にすれば分かる事だろう。気にしてはきっと負けなのだろう。そう思うことにした。

 

 それよりも武器の使い方でも読んでおくべきか。

 携帯に送られてきたメールを開いてみる。

 

『武器を使う時

 ①自分の使いたい武器を思い描く(想像力が大事じゃぞ!!)

 ②携帯に555を打ち込み、通話ボタンを押す。

 ③想像力が貧困すぎて上手く形にならない場合は「error」。上手く形になった場合のみ「complete」じゃ。


 武器を変更する時

 ①まず通話終了ボタンを押す。

 ②次に使いたい武器を思い描く。

 ③以下略。


 武器を変更する時は想像するだけでいいんじゃねとか思ったのじゃろう? それは罠じゃ。

 何故ならそんなスムーズに出来たら面白くないではないか

 あ、ついでに言っておくと555を打ち込むのは様式美じゃ。想像するだけで武器が簡単に使用出来たらつまらんからのう。

 913でもよかったのじゃがやはり主人公は555でなければな』


 913の方がよかったと思ったのは直斗だけの秘密である。彼は物語の主人公よりはライバルキャラの方に心惹かれることが多いのだ。もちろん、そのためには主人公も魅力的なキャラクターでなければならない。


 武器、か。あの巨大イノシシに襲われた時は彼が憧れた主人公がよく使う武器だったから上手く想像できたに過ぎなかったのかもしれない。

 とっさの判断で武器を変更する場合はしっかりと想像しなければならない。だが、敵と戦っている間にそんな暇はあるのだろうか?

 

 ギルドカードを取り出し、見つめてみる。

 これを持ち意識すると己のステータスが浮かび上がって来るそうだ。


 ナオト・カミシロ

 性別:男 

 レベル:1 NEXT 5/100

 体力:120 精神力:50

 攻撃力:25

 防御力:18

 魔力:30

 魔法抵抗力:20

 反応値:25

 命中率:28

 回避率:16

 運:最悪→普通

 使い魔:コリス(黒猫)

 装備品:なし

 称号:なし

 所持金:0G

 ギルドランク:F


 泣きたくなるようなステータスがそこには表示されていた。

 装備品がなしになっているのは、おそらくこの世界に来てから購入した物(鎧などの類)を身に着けていないからだろう。

 所持金はギルドカードに入れていないためまだ0Gだ。仕方あるまい。総所持金は49500Gだが、これは借金なので所持金と言えるかどうか、怪しいところだ。ついでに言っておくと、股ずれの治療のために買った痛み止めの軟膏だが、あれは見かねたエクリアが買ってくれたものであるため、直斗の所持金は減っていない。痛み止めの軟膏すら年下の少女に買ってもらうあたり、まだまだ情けない男であった。

「レベル1だと……?」

 おかしい、近頃のRPGはほとんどレベル1から始まる物語はないはずだ。それなのに俺のレベルは1だと? もしかしたらこのレベルではスライムすら倒せないのではないか? せめて5くらいから始まるのが常道ではないだろうか? そして上限はなんだ? 99か?

 疑問符ばかりが頭に浮かぶ直斗であった。

 しかし、面倒くさくなった直斗はレベルを考えることを放棄した。レベル1でもその気になれば最強武器を使えるのだ。装備品を整えることなく無双すればいいだけの話ではないか。無駄なところで楽天的である。


 窓を開け、夜の王都を見下ろす。街灯などほとんどないため真っ暗だ。それでも翌日(実はもう日付は変わっていた)から始まる冒険に心躍らせていた。

ようやく眠気が襲ってきたため、彼はベッドに潜り込むことにした。

「お休み」

 返事が返ってこないことなど承知でそう声を出した。コリスには少しベッドの端に寄ってもらった。彼はどちらかというと都会で過ごしてきた男である。ベッドで眠れないのは御免であった。


 翌日、彼は冷たい床の感触で目が覚めた。

 いったいいつからそうしていたのだろうか?

 痛みを感じなかったのはもしかしたら防御システムでも働いたのかもしれない。

 ベッドの真ん中ではまだコリスが寝息を立てている。どうやら自分は飼い猫にベッドから突き落とされたようだと寝ぼけ眼のまま理解した。


 コリスを伴い食堂へと降りる。

 コリスはまだ寝ぼけているのか、目をしばしばさせている。

 朝食は別料金だ。朝早くから冒険者は出ることも多く、朝食付きの料金だと泊ってくれる冒険者はあまりいないらしい。

 軽く朝食を頂き、今日の分の宿泊費まで前払いで支払いを済ませておく。

 宿屋の人間は猫がテーブルの上で食事をとっているのを見ても特に何も言ってこなかった。まあ、使い魔がいる世界だ。猫だけでなく他の生き物がテーブルの上で食事をとっていたとしても何の不思議もない。


 冒険者ギルドで依頼を見つけることが出来ればいいな、などと考えながら、直斗は石畳の上を歩いていた。コリスは直斗の頭の上である。

 石造りを基本とした王都の設計のようであった。

 外縁部には工業区画、それから内側に向かって商業区や一般区画、そして中心部に王宮がある。

 王宮を中心として円形に近い形がこのレムリア王都を上から見た形と言えよう。

 そこまで朝早い時間とはもう言えない時間だが、王都というだけあって外に出ている人の数はそこそこ多い。

 やはり衣服などを見れば中世ヨーロッパのような感じがするなあ、などと直斗は考えていたが、実は彼は中世ヨーロッパに詳しくないので完全な当てずっぽうである。


 ドアを開けて冒険者ギルドへ入った。

 朝そこまで早くはなかったが、そこそこの冒険者がいた。

 やはり冒険者というだけあって、奇抜な格好をしている者も多い。直斗の黒コートもそこまで目立たないのは何という僥倖であろうか。

 受付がちょうど空いていたので少しばかり質問をさせてもらうことにした。

「これの買い取りってできます?」

 巨大イノシシを倒した時に残された牙と宝石のようなものを渡す。この宝石のようなものがおそらくは魔石なのだろう。

「イノシシモドキの魔石と牙ですね。これなら30Gでの買い取りになります」

 直斗は受付のお姉さんの言葉にがっくりときた。

「30G?」

「ええ、イノシシモドキはEランクのモンスターですし、魔石や素材の数もありふれています。よって、買い取り額もその程度にしかなりません」

 30G、借金返済には程遠い額であったが、ここでごねても買い取り拒否されるだけになるだろう。そう思って直斗は買い取りをお願いした。

 ついでに借金総額のうち30000Gをギルドカードに入金してもらう。

「お待たせしました。今日、何か依頼は受けられるのですか?」

「できれば受けたいとは思うのですが」

 昨日彼女の後ろに不動明王のようなオーラを見た直斗はまだ彼女に対して敬語が抜けきらない。もう直斗の中ではバーソロミューより彼女の方が位置づけ的に上にランクされていたのだ。

「では、壁の方に依頼書を張り付けてあります。ナオトさんは現在ランクがFなので、Eランクまでは受けられますよ」

 受付のお姉さんに礼を言い、壁に向かう。

 直斗はその時になってまだ彼女の名前すら聞き出していないことに気付いた。これでは連絡先すら聞き出せないではないか。

 異性に対しては結構ヘタレな直斗であった。


 頭の上にコリスを乗せたまま依頼書を見ていく直斗。

 困ったことに彼には土地勘がない。よって、どこどこでどんなモンスターを倒してほしい、とかどこどこで群生している薬草を採取してきて欲しいという依頼を受けることが出来ない。

 彼は暫くこの王都を拠点にして生活を行おうと思っていたのであった。

 そんな時、彼の左肩を叩いた者がいた。

「どうしたの、ナオト?」

 エクリアが少し微笑みながら声をかけてくれた。その時の直斗にはエクリアが救いの女神に見えた。

「な、なんで泣きそうな顔してるの?」

 若干身を引いたエクリアであった。

 直斗は正直に答えた。どんな依頼を受けてみればいいかわからない、と。

「ああ、記憶がないんだったっけ?」

 エクリアも自分が言いだしっぺだった記憶喪失のことを忘れていた。

「ふうん」

 直斗と並んで依頼書を眺めていくエクリア。

「簡単に受けられる依頼はなさそう。日帰りで帰ってこれそうなのは特にないね」

 最初の時点で直斗の思い描く青写真は崩壊したのであった。

「最初はレベルアップを兼ねて、王都近辺の砂漠でモンスターハンティングしてみたらどうかな?」

「モンスターハンティング?」

 心惹かれるな、一狩り行きたくなってきた。

「ギルドの高ランクの依頼を受けるためにはレベルも必要になってくる場合もあるからね」

 レベル1の直斗にとっては死刑宣告に等しかった。

「何日かは私暇だから、砂漠でのモンスターハンティング付き合ってあげてもいいけど、どうする?」

 心からお願いすることにした。直斗はいい娘と知り合いになれたことに感謝した。今日はなんかいいことがありそうだ。


エクリア・ティンダロス

性別:女

レベル:23 NEXT 24/2400

体力:1450/1450 精神力:320/320

攻撃力:140

防御力:82

魔力:270

魔法抵抗力:180

反応値:230

命中率:58

回避率:80

運:良好

装備品:連接剣 軽装鎧

称号:不明

所持金:270000G

ギルドランク:C


※パラメータに関して

まだ暫定です。今後変わるかもしれません。

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