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第43話

 全員がそろった後、夕食になった。

 「お?」

 直斗は夕食を一口食べた後、違和感が少し残った。

 「今日の夕食は、エクリアが作った?」

 「うん、そうだよ」

 「やっぱり、味付けが微妙に俺好みなんだよねえ。嬉しいなあ。マリアさんが作る時はやっぱりバーソロミュー好みの味付けなんだよ。ちょっと違うんだよね」

 たいして味なんて分からないくせに、味付けが自分好みと言うだけで嬉しくなる男であった。そしてその言葉を聞いて笑顔になるエクリアであった。その笑顔を見て、もっと自分好みの味付けを増やしてほしいと願う直斗であった。笑顔効果はどこにもなかった。

 「エクリアよ、たまにはワガハイ好みの味付けで料理を作ってほしいのだが……」

 「蜥蜴丸好みの味付けってどんな感じなのかな?」

 「超激辛」

 「却下」

 全員から却下された。

 「おかしい、ワガハイの中では超激辛ブームが来ているのに、ファーガイアでは来ていないというのだろうか?」

 「まるで蜥蜴丸の間ではいろんなブームが来てそうだねえ。前はどんなブームが来ていたの?」

 全員がユーフェミアめ、なんてことを聞くんだ、と思ったが口には出さなかった。

 「地球にいた頃のワガハイのマイブームは超激甘であった。ワガハイオリジナルの超激甘パフェをリリスが食べた後、トイレに直行したよ」

 物凄く甘かったのだろうな。甘いもの好きであったリリスがトイレに直行するとは……、リリスを知る数少ない人間である直斗は彼女の不幸を嘆いた。

 「メイドカフェの激甘サービスより甘いパフェであったことよ。ただ、メイドカフェにも色々あってな。ワガハイが一度連れていかれた店はメイドカフェを謳った冥土カフェであったよ、あそこで持ち金の大半を奪われたこともあった。必死こいてバイトして、ためた金が一瞬で消えたねえ」

 「どんなバイトしたの?」

 なんでユーフェミアはいちいちツッコミをいれるんだ、と全員が思ったがもちろん口には出さない。諦めの境地である。

 「十分千円で殴られ屋。もちろん、やるのはゲーサン。一発でも当てる事が出来れば一万円の返金。ゲーサンはかわすだけ。蜥蜴に一発も当てられずに泣いて逃げ帰る男のなんと多かったことよ」

 なんで蜥蜴丸は一滴の汗もかかないのだろうか?

 「最終的には評判を呼んでな。プロボクサーやプロの総合格闘家がお忍びで訪ねてきおった。もちろん、流石ゲーサン。一発もくらう事などなく、金を巻き上げ放題であったわ」

 皆がゲーサンを見つめた。

 何故か自信満々に胸を反らせるゲーサンがそこにいた。

 「最終的にはずいぶん通ってきたプロボクサーがいたな。とんとん拍子に試合を積んで、世界チャンピオンになっていたよ。試合後のインタビューで『師匠に比べれば、パンチがずいぶんと楽に当たるんです』なんて答えていたよ。リングサイドで見ていたワガハイら感動モノよ」

 ゲーサンがその言葉を聞いて感慨深げに頷いていた。きっと、思い出していたのだろう。というより、よくリングサイドに通してもらったな。蜥蜴が人語を喋っていた時点で不審に思わなかったのだろうか?

 「ボクシングって、何かな?」

 「後でボクシングの素晴らしさについて語った映画を見せてやろう。トダサンがそろそろ新作を送ってきているはずだ」

 新作? トダサンとは本当に何者なのだろうか?


 「さて、変態からの依頼を受けるかどうかを皆に聞きたい」

 夕食が終わり、マリアとバーソロミュー以外のパーティーメンバーとシンシアが揃っているところで、直斗が口を開いた。

 「変態とは、誰だ?」

 ディアナの疑問はもっともだろう。

 「副ギルドマスター」

 ユーフェミアとシンシアの声がハモッた。

 直斗が変態扱いするのは頷ける部分はある。ユーフェミアからそう聞かされていたからだ。しかし、アークティカ王都に来てからそこまで日が経っていないシンシアにまでそう思われるとは、副ギルドマスター恐るべしである。

 「副ギルドマスターを変態扱いするとは、皆さん恐ろしい精神をお持ちですね。ナオトさんや蜥蜴丸なら分かりますが、シンシアさんまで……」

 「なんで、私は抜けられているのかな? この頃、私の扱いが悪くないかな、シルヴィアは?」

 「ユーフェミアさんは付き合いが長いでしょう? ならば、副ギルドマスターの性分など分かっているはずですから」

 そっかー、と納得するユーフェミア。皆が単純だなぁ、と思ったトカ。

 「それで、ナオト、副ギルドマスターの依頼って、何かな?」

 エクリアが話題を修正しようと思ったのだろう。このままでは、変態論議になりかねない。気が付けば直斗と蜥蜴丸、ユーフェミアの三人で盛り上がっていくだろう。この頃化けてきたと評判のシルヴィアも加わるかもしれない。

 「ああ、彼が以前攻略できなかった古代遺跡をクリアして欲しい、という依頼だったな」

 「そう言えば、レナードは昔凄腕の冒険者だったね」

 「待て、レナードとは誰だ?」

 ディアナが口を挟んできた。そう言えば先ほどから副ギルドマスターとか、変態とかでしか呼んでいないので、名前をいきなり出されても分からないだろう。

 「変態の別名」

 「なんだ、そうか、どっちかで統一してくれ」

 直斗の説明も超が付くほど簡単であったが、それをあっさり受け入れるディアナであった。

 「じゃあ、変態で統一しよう」

 「異議なし」

 こうして、直斗たちパーティーメンバーの中では、副ギルドマスターの呼称は変態に統一されたのであった。


 「で、目的地はどこにあるんだ?」

 「レムリア王国との国境付近にある砂漠の中の古代遺跡、通称“走る丘”だ」

 「“走る丘”? 山が走るとでも言うのか?」

 ディアナの疑問はもっともだろう。丘が走るなんて、通常では考えられないからだ。

 「ああ。変態の言うところによると、地中を巨大生物が通っているらしい。その巨大生物がいつの頃からか山を背負って動いているらしいんだ」

 だからこそ、“走る丘”と呼ばれることになったのだとか。

 「その山にはどうやって入るんだ?」

 「そこの遺跡に入るには、近くの住民の力を借りるらしい。“風の民”とか自称している空を飛ぶのが好きな連中に金をつかませるらしい」

 大丈夫か? そんな連中? 誰もがそう思ったが、ツッコミを入れたら負けだとでも思ったのか、全員口を挟まなかった。

 「遺跡の中では、どんなカラクリなのか知らないが、砂漠の砂が入ってくることもないし、巨大生物が動くことによる揺れもないらしい。遺跡に入るまでが勝負らしいぞ」

 遺跡に入るまでが勝負?

 「待て、変態は凄腕の冒険者だったのだろう? 何故入るまでが勝負の遺跡を攻略できなかったのだ?」

 「当時付き合っていた恋人ともう一人の男とパーティーメンバーを組んで攻略に当たったらしい。だが、遺跡の最深部で恐ろしい目に会い、命からがら逃げ帰ったらしい。変態ともう一人の男は」

 「……恋人は?」

 意図的に除かれた恋人の存在があった。

 「二人を逃がすために、犠牲になったらしい。いや、正確には分からないそうだ。最深部で変態は左目が二度と見えなくなるほどの傷を負ったらしい。それを誤魔化すために左目だけ片眼鏡モノクルを付けているらしいぞ」

 あの片眼鏡モノクルには、それだけのバックボーンがあったのである。だが、それを知ってもなお、態度を変えなかった直斗と蜥蜴丸はいったいどういう存在なのだろうか?

 「ああ、そう言えば言ってたね。私の左目はもう二度とみる事は出来ませんって」

 ユーフェミアがしみじみと呟いた。

 「蜥蜴丸にあの液体をぶち込んでもらえばいいだけの話ではないのか?」

 ディアナが言っているのは、宇宙ナノマシン“スグナオール”であろう。

 「クカカカ、ワガハイの“スグナオール”をもってすれば、治す事はおそらく可能であろうよ。だが、あの男はそれを受け入れぬであろう。それはおそらく昔の事を忘れぬための枷のようなモノ。己の過ちを忘れぬようにするためのモノ。そしてその結果インテリヤ●ザで数年通してきたモノだから、もう引っ込みがつかぬのであろうよ」

 途中まで、なんとなくいい話であったのに、途中から必ずと言っていいほどぶち壊す男、それが蜥蜴丸であった。

 「まあ、その結果変態は冒険者を引退し、冒険者ギルドの職員になったそうだ」

 「ランクに合わない高ランクの依頼を受けようとしたり、無茶な冒険を繰り返していると、彼の説教が待っているよ。普段の言動からは考えられない程、理路整然と繰り返すものだから、誰も彼の話に口をはさめず、気が付けば彼は副ギルドマスターになっていたんだ。そして、その彼に『やっぱ、トップに立つのは美女か美少女の方がいい』なんて言われて担ぎ上げられたのが私なんだよね」

 ユーフェミアの話も途中までは物凄くよかったのに、最後が恐ろしい変貌を遂げていた。だからこそ、彼が変態なんて呼ばれる所以なのかもしれなかった。


 「あれ、でも、もう一人の男はどこに行ったのかな?」

 しばらく黙って話を聞いていたエクリアが口を挟んできた。

 「もう一人の男?」

 「変態さんとパーティーを組んでいたもう一人」

 ああ、とユーフェミアが手を打った。

 「もう一人もね、その時に重傷を負って冒険者は引退したよ」

 「今はとある地方で財を成したらしい。例の“走る丘”で何かを手に入れたからとも言われているそうだよ」

 もちろん、すべては変態からの情報である。

 

 「まあ、依頼内容は、古代遺跡の攻略、そして出来る事なら、その遺跡で彼女ゆかりのモノを手に入れてほしい、そうだ」

 「彼女ゆかりのモノ、とは?」

 「変態が、この古代遺跡を攻略したら結婚しよう、トカ言って手渡したネックレスがあるそうだ」

 「死亡フラグを立てていたとは、な。流石は変態。今はインテリヤ●ザにジョブチェンジしたか。その時の罪が忘れられないのだな」

 安定の蜥蜴丸がそこにはいた。

 「どうする、受けるかい?」

 「ナオトが決めろよ、私たちのパーティーリーダーはナオトだろう? ナオトが決めたことには従うさ。よっぽど変なら断るがな」

 ディアナがそんな事を言ってきた。

 「え? 俺がリーダーなの?」

 「え? 違うのか?」

 「ああ、そう言えば決めてなかったね。気が付けば人数はここまで膨れ上がったしね」

 ユーフェミアが今気付いたと言わんばかりに声を出した。

 「リーダーを決めようか。みんなの意見は?」

 「私はナオトがいいなあ」

 「私もナオトさんでいいです」

 「私もナオト君で賛成」

 「ナオト以外に従うつもりはないぞ」

 「クカカカ、直斗をリーダーにして、ワガハイがブレーン。直斗をいいように操っちゃうよ。そして修羅場を楽しもう。ワガハイ、どうあっても楽しめる」

 「げっげ、げげっげげ」

 特に反対意見はなく、直斗の意見は黙殺され、パーティーのリーダーは直斗に決定した。直斗は蜥蜴丸の意見は聞かないことにした。

 「じゃあ、とりあえず、依頼を受けることにする、それでいいな?」

 「異議なし」

 全員の声がハモッた。




 その日、全員で徹夜して映画を観たため、出発は一日後になった。

 「貴方方はいったい何を考えているのですか?」

 断りの連絡を入れに冒険者ギルドへ向かった直斗と蜥蜴丸を非難する目で変態レナードは見下してきた。

 「苦しい事、辛い事は後回し」

 「楽しい事は先にする。それがワガハイらのクオリティー」

 ダメ人間が……そう呟く変態レナードの溜息が冒険者ギルド中に響き渡ったそうだ。

 シンシアが窓口で物凄く眠たそうにしていた。


本日の映画

「ロ●キー」シリーズ全作。

エイド●アーン!!

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