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第42話

 ユーフェミアの引っ越しも一段落したため、直斗と蜥蜴丸は王都の冒険者ギルドへと向かっていた。

 ナーガラルの魔石を換金するためである。

 「約束したように、俺が8、お前が2な」

 「おいおい、ぼったくる気かな? ワガハイが貴様に取り分の7割も譲ってやろうというのに、さらに1上乗せしてくるとは」

 「ち、騙されなかったか」

 何とも殺伐とした会話である。両方が両方とも己の取り分を少しでも多くしようという考えしかないのだ。

 「しかし、近頃パーティーメンバーで行動していたからか、何とも色気がないな」

 「貴様はワガハイの素晴らしい魅力が分からんと、そう言うのかね? 見たまえ、先ほどからすれ違う異国情緒あふれる通行人がワガハイを見て何度も振り返り、壁やら人やらぶつかっていくではないかね。おお、流石のワガハイ。異国情緒あふれる旅人すら魅了してしまう。なんとも人たらし、罪作り」

 実際、他国からの商人や冒険者と思われる人間が蜥蜴丸とすれ違う時、驚いた表情をして振り返りつつもそのまま歩を進めるものだから、他の通行人や家や店の壁にぶつかったりしていた。

 王都の住民たちは既に驚かなくなっている。もはや二足歩行の蜥蜴が流暢に人語を喋っているのは、このアークティカ王都では日常の光景なのだ。

 そう言えば、このアークティカでも暫くの間は蜥蜴丸とゲーサンを見て驚いた人間も結構いたな。だが、レムリア王都ではこいつら、あまりにもあっさり受け入れられていたな、何故だろう?

 そんな疑問が頭に浮かんだが、直斗は考えないことにした。考えるだけ無駄である。きっと、「リザード星の科学力は宇宙イチィィッ」とかいう返答が返って来るに違いない。

 実は蜥蜴丸自体も分かっていないのではないだろうか?

 聞いてみたい気もするが、聞いたらよく分からない言葉の羅列を延々聞かされる危険性もある。君子危うきに近寄らずだ。

 「いやいや、危ない香りに引き寄せられる女性もいるというぞ? どうよ、チョイ悪冒険者、目指してみるかね? ワガハイと共に」

 どうやら、途中から考えていることが口から出ていたようである。蜥蜴丸がそんな誘惑をしてきた。

 「クカカカ、友達がいないからと言って、ひとり言を言うのはどうかと思うなあ」

 直斗の黒歴史が、また一つ。


 「ほう、貴方がナオト・カミシロ、そして蜥蜴丸ですか」

 ようやく、直斗と蜥蜴丸が冒険者ギルドに辿り着いた時、二人を出迎えたのは、片眼鏡モノクルの長身の男であった。銀髪でオールバックにしてある。おそらく、年齢は30になってはいないだろう。そして、いかにも怪しい服装をしていた。見た感じ、軍服のようなモノを肩の上から羽織っているだけである。袖を通してはいない。筋肉隆々な冒険者には見えない。

冒険者ギルドの職員と言っても初見では信用できないだろう。どちらかといえばインテリヤ●ザにしか見えない。だが、見た目だけで判断するのはいけないと思わせる男であった。その笑みは怪しい笑みであった。だが、そんな事を気にする直斗と蜥蜴丸ではない。

 「チェンジで」

 「チェンジだな」

 直斗と蜥蜴丸が同様のセリフを吐いた。

 「いきなり何を言いだすのですか?」

 「チェンジで」

 「チェンジだな」

 「話を聞いてますか?」

 「チェンジで」

 「チェンジだな」

 「……今日は何のご用でしょうか?」

 片眼鏡モノクルの男は諦めたようだ。この二人が息ピッタリの時に理詰めで問い詰めても無駄だと判断したのかもしれない。

 だが、直斗と蜥蜴丸はしつこかった。

 「チェンジで」

 「チェンジだな」

 「流石の私も、いい加減にしないと、キレますよ?」

 「チェンジで」

 「チェンジだな」

 「貴方達はクレーマーですか?」

 「チェンジで」

 「チェンジだな」

 「いい加減にしろよ、てめぇら。俺は美少女か美女以外の下につくつもりはねえ。てめぇらのいう事なんか聞く耳持たんね」

 副ギルドマスターの口調が変わった。少しキレたのであろう。が、もちろんその程度で動じる直斗と蜥蜴丸ではない。

 「チェンジで」

 「チェンジだな」

 その後、しばらくしてギルドマスター室に連行された。


 「あんたたちは副ギルドマスター相手に何やっているの?」

 どうやら、この片眼鏡モノクル、副ギルドマスターだったようだ。

 「どうせ相手してもらうなら、美女か美少女がよかったので」

 「インテリっぽいキャラはワガハイだけで十分なんだよねえ。インテリヤ●ザの時代はもう終わったのよ。これからは、マッドサイエンティストの時代よ」

 どうやら、それぞれの理由で副ギルドマスターに相手をしてほしくなかったようだ。

 「なんで冒険者ギルドまで歩いてきて、こんなメガネに相手をしてもらわなきゃならんのです? 相手してもらうならシンシアさんの方が何百倍もいいに決まっている」

 「クカカカ、ワガハイ、キャラが少しでもかぶりそうなヤツが出てきたら、とりあえず潰すことにしている。こやつとは相方になれそうにない。ワガハイがファーガイアのお茶の間のアイドルになるのに、こやつは不要。直斗かエルフ耳、もしくはその二人で十分。インテリ同士で手を組んでも、最後にはつぶし合い。ならば、最初から手を組まなければイイだけじゃない。ウホゥ、ワガハイ、アッタマいいぃぃッッ!!」

 初対面の人間がその場にいても、どうでもいい事ならあっさりと己の心の内をさらけ出せる、社会人失格の人間と蜥蜴がそこにいた。もっとも、こんなにあっさり己の心の内をさらけ出すようになったのは、少なくとも直斗はファーガイアに来てからである。

 「君たちは私を怒らせる天才のようですね」

 厭味ったらしく言う副ギルドマスター、レナード。

 「バカ野郎、シンシアさんとの楽しい語らいを初っぱなから邪魔しておいて、貴様何を言う。てめぇ、さっさと出ていけ。シンシアさんと語りあうんだ、俺は」

 「おいおい、そんなにさっさと潰してほしいのかね? キミは。まったく、ワガハイ、いくらでも相手になるよ? しかし、今日のワガハイは結構紳士的。さっさと換金を済ませて帰りたいのだがねえ」

 言いたい放題である。何せこの二人、それこそ冒険者ギルド全体を敵にまわしても何とも思わない。この王都で敵にまわしたくない人間はエクリア達くらいだろう。

 「貴様ら……」

 よくレナードがキレなかったものだ、とシンシアは変なところで感心していた。

 「まあまあ、換金をさっさと済ませましょう。例のナーガラルの魔石ね?」

 既に直斗や蜥蜴丸のあしらい方に慣れているシンシアである。強引に話題を変えた。

 返事と同時に黒コートの内ポケットから魔石をとりだす直斗。しかし、彼の右手がつかんだのは、魔石ではなく、寝ぼけ眼のコリスであった。

 「あれ?」

 「にゃあうううう」

 どうやら、内ポケットに入った状態で寝ていたらしい。起こされて不機嫌なようだ。

 コリスに散々引っ掻かれたあと、コリスをテーブルに置いて、もう一度内ポケットに手を突っ込み、魔石をとりだした。コリスはテーブルに置かれた後、シンシアの膝の上に飛び乗り、その場で眠りだした。魔石になど興味はないのだろう。コリスとポジションを代わりたいと思ったのは、直斗の秘密である。

 直径1メートルにもなろうかという魔石。とてもあんな大型モンスターが落としたとは思えない程青々とした綺麗な魔石であった。

 どうして、そんな巨大なモノが直斗の黒コートの内ポケットから出てきたかというと、異空間をそこにつなげていたからである。

 「へぇ、これがナーガラルの魔石ねえ。かなり大きいわね。うーん、私だけで鑑定するわけにはいかない、かな。流石にこれは」

 「フム……。70万Gでどうでしょうか? もちろん、伯爵などに持っていけば、もしかしたらもう少し色をつけてもらえるかもしれませんし、逆に低くなるかもしれません。伯爵の好みによって値段は変わるらしいですし。ですが、冒険者ギルドで換金する、と言うのなら70万Gまでしか出せません。如何いたしますか?」

 値段を決めたのはレナードである。流石はこの年齢で副ギルドマスターまで上り詰めた男である。もちろん、直斗はレナードの年齢を知らないので、適当にそう考えただけであった。

 「おいおい、ワガハイらが魔石の価値を知らないからといって適当に決めたのじゃないだろうな? もし適当に決めたのなら、ワガハイのスペース光線銃で貴様の髪の毛を焼いちゃうよ?」

 蜥蜴丸の脅しが効いたのだろうか、顔を真っ青にするレナード。だが、彼としても、頭髪は守りたいのだろう。

 「申し訳ありませんが、これが冒険者ギルドとしては出せる最大限の値段です。これ以上だすというのなら、職員への給料が払えなくなるおそれがありますので」

 至極真剣に直斗と蜥蜴丸に向き合う。

 「ふむ、仕方あるまい。それで手をうとうではないか。まあ、頭髪をそんなに真剣に思う気持ちはワガハイには理解出来んがな」

 それは蜥蜴には分からんであろうよ、そう直斗は思ったが、口にすることはやめた。面倒くさかったのである。

 

 換金を終え、さて帰ろうとした時である。

 コリスはシンシアに預けておくことにして、直斗と蜥蜴丸は席を立とうとした。

 「待ってください」

 そう直斗と蜥蜴丸に声をかけたのは、このアークティカ王国冒険者ギルドの副ギルドマスター、レナードである。

 「何かな?」

 真剣な表情を感じとり、直斗は真剣に向き合わねばならんかな、と考えていた。

 「……ユーフェミアは、元気にしていますか?」

 住んでいるところを引き払い、ティンダロス邸に身を寄せたユーフェミアの事を心配しているのだろうか?

 「心配なら、ティンダロス邸を訪ねるがいいさ。変な要件でないならば、誰も拒みはしないだろうよ。ユーフェに危害を加えるというなら、俺も黙ってはいないがな」

 直斗は念のため釘をさしておくことにした。いくらなんでも、ユーフェミアやシンシアから聞いている副ギルドマスター像がどうにもアレだからである。

 「いいえ、そんなつもりはありません。元気にしているのなら、それでいいのです。今のは社交辞令的なモノですよ」

 本当に社交辞令的なモノで言ったのかもしれないが、直斗や蜥蜴丸には通じないのである。

 「実は貴方方に個人的に依頼したいことがありましてね」

 「だが断る」

 即答である。

 「どうせ、そのメガネのもう片方を探してきて欲しいトカ言うんだろう? 自分で見つけるんだな。何処かで紛失したんだろう?」

 実は片眼鏡モノクルを見て、ずっと、片方だけになってしまった眼鏡なんだろう、可哀相だな、なんてバカなことを考えていたのである。

 「これは、こういうファッションなんですよ」

 冷静に答えるレナード。どうやら本当らしい。

 「実は依頼したいというのはですね……」




 依頼された内容を受けるかどうかはパーティーメンバー全員で決めることになった。

 「そのメガネ、片方だけで見辛くないのか?」

 「これは度無しなんですよ、ファッションでつけているんです」

 「やめれば?」

 「インテリヤク●ザめ、知的さを演出しようとしても、ワガハイの域には到底辿り着けんぞ? それでもつけ続けるのかね?」

 全てを台無しにする直斗と蜥蜴丸であった。

 


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