第31話
エクリアにネックレスをプレゼントしてから一夜が明けた。
その時のエクリアの笑顔に再度ハートを撃ち抜かれた直斗は、最後には給料三か月分の婚約指輪か何かをプレゼントしようと考えた。まだ付き合ってすらいないのに、気の早い男である。
だが、ここで一つの問題が発生した。この世界での給料三か月分が分からないのである。だいたい、まともな職に就いてすらいないのだから、当然と言えば当然だ。
そこに追い打ちをかけた男がいた。バーソロミューである。
「生活費をよこせ、だと……?」
「そうだ、家族でもない人間に無料で住まわせる程、俺は寛大な人間ではない」
いきなりである。まだ借金すら返していない人間に生活費までよこせと言うとは、なんと強欲であろうか。
「バカ野郎、当然だろ? だいたい、こっちの首がまわらなくなってきているんだよ、この大飯ぐらいが。最低でも、月に三万Gは払えよ」
「蜥蜴丸たちは払っているのか? 俺だけが払うなんて、納得できない」
しぶとく逃れようとするダメ人間がそこにいた。
「クカカカ、ワガハイ、バーソロミューの命の恩人、いやいや、恩蜥蜴だぞ。払う必要性などどこにもないね」
「だから、今までとってなかっただろうが。これからはとるからな」
「なんと?」
マ●オさんが驚いたポーズをしだす蜥蜴丸。
「ならばワガハイ、治療費を請求しよう」
「エクリアが氷漬けにしてくれる回数を増やしてくれるそうだ」
「仕方ないな、治療費はそれで手をうとう」
「げげ? げっげ、げげげ。げげ、げっげげげ、げげ、げげっげ、げげ」
「うるさいぞ、ゲーサン。ワガハイらももう、お金がないのだ。これからも、真っ当な食事にありつきたくないのか? それとも、味の向こう側にもう一度行きたいのか? ワガハイは嫌だ、健康的で文化的な最低限度の生活をしたい。ナ●ポは、御免こうむる。他人に後ろ指さされたくはない。老後豊かな年金生活を送るためにも、ここはバーソロミューに生活費を納めようではないか」
色々と聞きなれない単語が出てきたが、バーソロミューも蜥蜴丸の事を理解しだしたのか、ツッコミを入れない。そして、ツッコミ待ちをしている蜥蜴丸がつぶらな瞳で見てきたが、その場にいた全員が無視した。
「金額が高い素材や魔石がとれる場所を知りたい?」
いきなり冒険者ギルドに押しかけてきた直斗と蜥蜴丸、そしてゲーサンにいきなりそんな事を聞かれ戸惑うシンシア。
「依頼金額の高い仕事じゃダメなの?」
「バーソロミューのおっさんに生活費を納めるように言われました。定職に就くなんて考えられないのです。冒険者をやっている以上、一獲千金を狙いたいと思いまして。ならば、一狩り逝こうぜと、なった次第でございます」
なんとなく、字が違うんじゃないかな、と思ったシンシアであったが、ツッコミは入れないことにした。
「近場の砂漠では、たいして強いモンスターなどいないと聞きます。どこか、狩り場としていい場所ご存じではないでしょうか?」
未だにシンシアに対して敬語が抜けていない直斗である。何故だか、彼女に対しては、恐怖感が拭えないのだ。理由はもちろん分からない。
「おいおい、クソ餓鬼。何シンシアさんに馴れ馴れしく声かけちゃってんの? しかも微妙な敬語なんて使っちゃってよ? ちゃんと、国語を練習してきなよ。それとも、うちに帰って、ママのミルクでも飲んで来いよ!!」
直斗に声をかけてきたのは、この前エクリアをナンパしてきた元イケメンであった。あれから十日以上経つのに、未だに髪の毛一本生えてこないのは、“スグナオール”の副作用か何かであろうか?
「けっ、どうした、クソが……」
その後は、ダークサイドに堕ちた直斗の裏拳によって吹っ飛んだため、何も言えなかった。直斗は対イケメンの時だけ、ステータスが上がる事があるのだ。裏拳一発でイケメンを吹き飛ばすなど、簡単な事なのだ。
「てめえ、このクソ餓鬼ッ!!」
叫びながら、起き上がろうとした元イケメン(またも、何本か歯が抜けていた)に対して、何の容赦もなく眉間にコンバットバイソンを撃ちこむ直斗。
「直斗、貴様ぁ、何故撃った!?」
「まだ生きてたからさ」
何故か見つめあった後、ハイタッチをかわす直斗と蜥蜴丸。
その後、ギルドマスターの私室に連行された。
「君はなんで事ある毎に私の職場で問題を起こすのかな?」
この形は何度目だろう? まるでお決まりのパターンになったかのようだ。
「いやいや、あの元イケメンが悪いのです。俺に絡んできさえしなければ、あんな結果にならなかった。ご冥福をお祈りします」
勝手に元イケメンを亡き者にした直斗。もちろん、直斗が撃ちこんだのは、ペイント弾であるので、死んではいない。しかし、ショック死してくれないかな、などと不謹慎な事を考えるのをやめない。直斗はイケメンに対しては容赦を知らないのである。
「いやあ、君たちはホント、何度でも問題を起こすよね。君たちといると笑いが絶えないね!!」
のんきに笑顔を見せるユーフェミア。
「なんで貴女はそんなにのんきなの? ユーフェ?」
「しょうがないじゃん、私、お飾りだもん。だいたいさ、ギルドマスター引き受けたのも、問題が起こったら副ギルドマスター以下全職員で事にあたる、私は何もしなくていい、っていう条件があったからだもんね」
どうやら、このアークティカ王都の冒険者ギルドもなかなかおかしい人間の集まりのようだ。かわいい女の子を一番上に据えておけば下のモノが頑張るのではないか、というくだらない理由でユーフェミアをギルドマスターにしたに違いない。
「いやあ、しかし、何故今回はまったく問題を起こしていないのに、何故ワガハイまで正座させられているのかな? 今回、ワガハイはいい狩り場の情報を求めて冒険者ギルドに顔を出したに過ぎないのに……」
「ナオトとハイタッチしていたでしょうが」
「ハイタッチしただけで罪になると言うのかッ!?」
「大げさに言ったって意味ないよ。あんたとナオトが組むと、1や2で済むところを10や20に拡大するんだから」
「俺を蜥蜴丸とコンビみたいに言わないでください」
「ワガハイと直斗のコンビは最高だトカ。仕方ないな、やはりファーガイアお笑いグランプリに出るしかあるまい。そして情報操作をして、全然笑いがとれなくても、優勝しちまうぜ。もちろん、賞金はワガハイのモノ。なんだ、これで生活費の心配ないじゃない。よし、逝くぞ直斗。まずは情報収集だ。なあに、有力候補を闇討ちするだけよ。それだけで優勝の確立はグングン上昇、倍率ドン、更に倍」
「盛り上がっているところ悪いけど、ファーガイアにお笑いグランプリなんてないわよ」
「ナント!?」
正座をした状態から飛び上がり、マ●オさんが驚いた状態のポーズをとりだす蜥蜴丸。器用であった。
「王手」
「げげ? げっげげ」
「待ったはなし、だよ、ゲーサン」
何故か話を途中から聞いていなかったユーフェミアはゲーサンと一緒に将棋をしていた。あっさり異文化を受け入れているあたり、このエルフの女性は大物であるのかもしれない。そして、ゲーサンは将棋が下手だった。
混沌がその場を支配していた。
「私じゃこいつらを制御するなんて出来そうにないわね」
「シンシアクラスじゃないと、無理だと思うよ!!」
ユーフェミアが微笑みながらシンシアに声をかける。並大抵の男なら、その笑みにグラッと来るだろうが、シンシアの怒りに火を注いだだけであった。
「いい加減にしなさい!!」
シンシアはこの場にエクリアがいない事を嘆いた。エクリアがいればこいつら全員を氷漬けに出来たであろうに。
「やれやれだね!!」
何故かギルドマスターの私室を追い出され、直斗たちと行動を共にすることになったユーフェミア。未だに笑顔が絶えないのは、やはり只者ではないのだろう。
「仕方ないな、とりあえず一狩り行くか」
「何処に行くの?」
「何処かいい場所を聞きに来たのに、あの糞イケメンのせいだな」
「クカカカ、とりあえず責任転嫁をしようとする貴様のその姿勢、ワガハイ感服するよ。たまには罪を数えてみたまえ」
「多すぎて数えきれんな」
とりあえずその場にいたメンバーで一狩り行くことになった。
「ナオト君達のしっかりとした実力を見たいから、とりあえず近場の砂漠に行こうか。それで、次、どうするか考えよう」
陽気に笑うユーフェミア。
「おいおい、ちゃんと古代遺跡攻略で実力は見せただろう? 俺はとりあえず出来るだけ早く金を貯めたいのだよ。金の貯まらない近場で狩りをしても意味がない」
「どちらにしろ、今日は帰らないといけないんでしょう? だったら、近場で済ませるしかないじゃない」
「げげげ、げっげ、げげ」
「料理をもっと上手に出来るようにしたい?」
マリアは久しぶりの休みだというのに、朝からエクリアに頼まれて料理を教えていた。
「うん、ナオトがね、やっぱり女の子の手料理が嬉しいって言うからね」
「ふうん、ナオトがねえ」
「だけど、ナオト、料理結構できるんだ。だから、私はナオトより料理が出来るようにならなくっちゃ」
「だからって、私に習うのかい?」
「……私にとって一番料理の上手な身近にいる存在は母さんだもん」
「ま、そう思ってくれるのは嬉しいけどね。ところで、シルヴィアちゃんも私に料理習いたいのかい?」
「はい、近頃どうにも、出番がない気がしまして」
出番? 何を言っているのだろうか、この娘は。
「私も男性をゲットするには、胃袋をゲットするのが一番だという話を聞きまして」
「誰から?」
「蜥蜴丸です」
この娘は、色々と心配だね。
こうして、ティンダロス邸では、女性陣によるお料理教室が開かれた。
バーソロミューは嘆いていた。
久しぶりに夫婦そろって休みがとれたというのに、妻は娘たちにとられた。
彼はこれも家族サービスの一種だと思って諦めることにした。
居間で寝転がり、コリスとでも遊ぼうかと思ったが、あの猫は女性陣には懐くが、彼にはまだ懐いていなかった。
彼には寂しい休日となった。
唯一の救いは、娘たちが作ってくれた料理を真っ先に食べられた事くらいであろうか。エクリアの料理は食べ慣れていたし、まったく料理をしないわけではないので、なかなか美味しい料理であった。
残念ながら、シルヴィアが作った料理は不味かった。
バーソロミューの表情を見て、シルヴィアは己の料理の才能のなさを呪った。これからは、剣に生きよう、そう思ったトカ。
コリスがそんなシルヴィアを見て、慰めるように彼女の肩を叩いた。




