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第25話

 「ようやく、着いたな。古代遺跡の入口だ」

 直斗は古代遺跡の入口を見つめ、万感の思いで呟いた。ああ、ここまで辿り着くのにどれだけの時間がかかっただろうか?

 「感慨深そうに言ってもダメだからね。全部ナオト君と蜥蜴丸のせいだよ」

 ユーフェミアに窘められた。

 「おいおい、俺は何も悪くないぞ。全てはこの茶色の蜥蜴が悪いではないか」

 「クカカカ、ワガハイが悪い? 否、すべては直斗がリア充への道を歩き出そうとしているからいけないのだよ。直斗にはぼっちでいて貰いたいという、ワガハイの純粋にして切ない想いがそこにはある」

 見つめあう直斗と蜥蜴丸。

 また殴りあいが始まると思って、全員で止めに入った。


 


 「思えば長い旅路であったなあ」

 目の前に聳え立つ霊峰ゲノム。

 三千メートル級の山であった。しかし、本来はここからさらに五合目まで歩いていかなければならない。馬で登るのは無理というものだ。

 「やはり、ここはまず頂上まで登らねばなるまい」

 「……一応聞いておくけど、何で?」

 近頃、ツッコミ役と化しているユーフェミアである。エクリアやシルヴィアはまた直斗のボケが始まったと考えていたトカいないトカ。

 「そこに山があるからだ」

 何故かドヤ顔をする直斗。

 「そのネタがこの異世界で通じると思っている貴様の思考に乾杯、否、完敗。流石のワガハイでも、無理なネタは放り込まない。世界観ではなく、世界が違うと何故理解しない?」

 蜥蜴丸に否定されて、膝をつく直斗。余程のショックだったのであろう。

 直斗の肩を叩いてあげるエクリア。でも、直斗のネタは理解できなかった。


 時々襲い来るモンスターを倒しながら、五合目を目指し歩を進める一行。

 流石に冒険者をやっている人間たちである。全員が息切れをすることなく順調な旅であった。ただ一人を除いて。

 「フヒー、フヒー、ワガハイ心優しい科学の子。貴様らみたいな脳筋と同列に扱わないでもらおうか。何故ワガハイがこのように山登りなどに汗をかかなければならぬ? ワガハイのような頭脳労働者は直斗のような脳筋を、否、厨二病患者を指揮するべき立場にあるモノ、そして、上前をピンハネするモノ。そのようなポジションに、ワガハイ常についていたいものよ」

 そして、次第に直斗も息切れし始めた。

 「クカカカ、しょせん厨二病患者。脳筋にはなれなかったか。貴様の体力など、そこらへんのヲタ芸を極め、ライブ会場で踊る連中の足元にも及ばないことが判明したなあ」

 「さっきから、ゲーサンの背中にいる貴様には言われたくないな」

 既に自分の足で歩くことをやめていた蜥蜴丸。

 「クカカカ、今のワガハイなら、貴様を倒すことも出来よう。とうっ」

 いきなり直斗に飛び蹴りをお見舞いする蜥蜴丸。だが、直斗も少し冒険者としては経験を得ていた。その飛び蹴りをかわし、蜥蜴丸の尻尾をつかんで放り投げた。

 「あーーれーー」

 綺麗な放物線を描いて飛んでいく蜥蜴丸。

 皆の視界から暫く消えていた。

 「さあ、先に進もう」

 「いいの? 相方置いて行って?」

 ユーフェミアのツッコミにも反応することなく、直斗は歩を進めた。エクリアがそれについていく。仕方ないので、全員ついていくことにした。ゲーサンは暫く一人で蜥蜴丸が消えた方向を見つめていたが、諦めたのか、皆の後をついて歩き出した。

 

 もう少しで五合目という地点に辿り着いた時、蜥蜴丸が追いついてきた。

 「ワガハイを置いていくなんて非道な!! みんなが愛してくれたワガハイですぞ!?」

 「……生きていたかよ、完全に殺ったと思ったのに」

 「殺意丸出し? せっかく命がけの大冒険を繰り広げて戻ってきたというのにこの仕打ち? ワガハイ、優しさが欲しい。愛が欲しい。ところで、直斗の心にダムはあるのかい?」

 「……トカゲの為にためている水はないな」

 「けっ、これだからハーレム思考は。ありとあらゆる種族を愛してこその主人公だと、何故分からぬ?」

 「いい加減にしなさい!!」

 蜥蜴の氷像が誕生した。




 話はようやく冒頭に戻る。

 古代遺跡に足を踏み入れる一行。

 何故山の中腹にこのような古代遺跡が出来ているかは不明だが、この霊峰ゲノム、現在は休火山であるという事だ。

 「つまりは、近場に温泉街を作ることが可能かッ!? ウホッ、温泉を掘り当てて、一獲千金を狙うのもまた一興。掘り続けましょう、湧くまではッ」

 「一人でやれよ」

 「すべては直斗の借金でやろう。こうすれば、例え失敗しても、ワガハイ何一つ失うものはない。クカカカ、なんという恐ろしい計画を思いついてしまったのかッ!?」

 「思いついたことが全部口から出てるよ、蜥蜴丸。ナオトはまだ借金抱えているんだから、そんな事をさせるわけにはいかないな」

 「フム、思っていたことが思わず口から出るとはワガハイ、お茶目な一面を見せてしまった。これぞ、ギャップ萌え?」

 「……何言っているの?」

 「エクリアはワガハイの必死のボケをあっさりスルーするトカ? やはり、ワガハイの相方は直斗しかおらぬか?」

 「ユーフェでどうだ?」

 「私? 私じゃつとまらないよ。シルヴィアでどう?」

 「私も無理です。謹んで辞退させていただきます」

 全員に拒否されていた。


 「おかしいな、モンスターがいない」

 暫く進むが、一体もモンスターが出てこない。

 「モンスターが元々いないということは考えられないのか?」

 ユーフェミアがモンスターが出てこない事に疑問を抱いたが、直斗はこれほど整った古代遺跡ならば、元々モンスターなどいないのではないか、と考えた。

 明かりが灯っている。まるで魔法でもかけられたみたいに。

 通路も綺麗な状態だ。何故にこれほど石が敷き詰められた通路を作っているかは分からないが。

 「ナオト、この明かり、最近つけられたものだよ。私たちがこの遺跡に足を踏み入れたから自動的についたってものじゃない。それに、近場の町を拠点にしている冒険者たちが最近この古代遺跡に入ったっていう話も聞かないし」

 「ということは、つまり、最近、しかも俺たちが入る直前くらいにこの古代遺跡に入ったものがいる、そして、まだ中にいるかもしれないって事?」

 「可能性はあるね」

 「なるほど、その場合、問題はその私たちより先に入ったという人物が敵か味方か、という事ですね」

 「敵じゃないといいよね。最近はトレジャーハンティングを生業にしている連中だってこの遺跡を攻略するのはいないって話なんだけどな」


 「魔石が落ちている?」

 通路の真ん中に、これ見よがしに黒い魔石が落ちている。

 「ウホッ、この魔石はワガハイのモノ。直斗になんぞ渡してやらんぞ」

 蜥蜴丸が魔石に飛びついた瞬間、通路の上から、鐘が落ちてきた。すっぽりとその中に蜥蜴丸を入れながら。

 鐘の中から、ドンドン叩く音がする。耳を澄ませば悲鳴まで聞こえてきそうだ。

 「さあ、先を急ぐぞ」

 「にゃう」

 コリスは賛成のようだ。

 「えー、ここで見捨てると後味悪いよ、せめて助けるふりをしようよ」

 エクリアは少なくとも積極的に助ける気はないようだ。

 「いくらなんでも、旅の仲間を見捨てる気にはなれません」

 シルヴィアは助けたいようだ。しかし、どう考えても、剣で斬れそうな代物ではない。

 「助けるべきか、助けないべきか、それが問題だね」

 明るく言うユーフェミア。この状況を楽しんでいるようにしか見えない。

 轟音が響いた。ゲーサンがどこからかとりだした金属バットで鐘を叩いていた。

 何が気に入らなかったのか、今度は木製バットをとりだし、それで鐘を叩いた。

 これも違う、と言わんばかりに木製バットを放り投げ、今度はハンマーをとり出して、鐘を叩いた。

 どうやら、これも違うらしい。

 「除夜の鐘を叩くような丸太でどうだ?」

 直斗はアドバイスをしてやることにした。

 今度は丸太が出てきた。丸太の下についている紐をつかんで、前後に揺らしだす。何故か天井まで丸太の両端から紐が伸びている。どこで天井に結び付けているのかは分からない。

 丸太を鐘に叩き付けるゲーサン。轟音が響いた。

 何故か首を上下に振り、納得したような表情を浮かべる。

 「げげげ、げっげ」

 丸太の下についている紐を直斗に渡す。

 「ふむ、今度は俺にやれと」

 直斗は紐をつかみ、丸太を前後に動かし、勢いをつけて丸太を鐘に叩き付けた。

 なんとなくいい音が響いた気がした。

 とりあえず気が済んだので、歩き出そうとする直斗の肩をつかんで、まだ行ってはいけないと言わんばかしに首を横に振るゲーサン。

 「まだ、行ってはダメ?」

 首を縦に振られた。

 「置いて行ってはいけない?」

 今度は首を横に振られた。置いていくのは別にかまわないようだ。

 「じゃあ、なんだ?」

 丸太を前後に振るようにジェスチャーをするゲーサン。

 「まだ、叩けというのか?」

 首を縦に振った。

 「仕方ないな」

 何度か丸太を鐘に叩き付けた。もう気が済んだかと思ったが、ゲーサンはまだ気が済まないみたいだ。

 最終的に、全員で百八つ、鐘を丸太で叩いた。

 途中から、直斗とユーフェミアは鐘を叩くのが楽しくて仕方なくなった。二人の頭の中には、蜥蜴丸の事は消え失せ、ただひたすら叩くことに集中した。

 会社の独り者連中と除夜の鐘をついた事はあるが、女の子と一緒に除夜の鐘をついたことがなかった直斗は、エクリアと何度か一緒に鐘を叩き、ちょっと、その時を想像して悦に浸っていた。


 「さあ、行こうか」

 「え? 流石にここまでしたら、助けようよ」

 「ずいぶん時間かかったね。一時間以上鐘を叩いただけだったよ」

 「何故あれほど鐘を叩くのに熱中したのですか? 見ていて不気味でした」

 女性陣から袋叩きにあう直斗。

 渋々蜥蜴丸を助けることにした。しかし、簡単には鐘は動かなかった。

 「よし、先に行こう」

 「いい加減に助けなよ」

 エクリアも流石にここまでやって見捨てるというのはダメらしい。

 仕方なく、携帯電話をとりだし、武器を想像して555を入力。「complete」の電子音声とともに、己の右手に宿る感覚。

 手刀一閃。

 鐘が一刀両断された。

 中にいた蜥蜴丸も一刀両断された。

 「勝手にワガハイを殺さないでくれんかね? 大体なんだね、あんなにバカスカ叩きやがって。真夜中に百八つ鐘を叩けば煩悩が退散されると思っているのか? 大みそかにやれば許されると思っているのか? 単なる近所迷惑だという完全なる真理に何故お前らは気付かない?」

 斬りおとされたのはシッポだけであったようだ。ガクガク震えているのは、斬られた瞬間を想像しているのではなく、きっと、轟音に晒され続けたからだろう。

 「さて、これで全員そろったな。さあ、先を急ごう」

 「ウホッ、何事もなかったかのように物語を進めようとする直斗にワガハイ痺れる憧れるゥ!! 殺したくなるほどに素敵!!」

 古代遺跡攻略は続く。直斗と蜥蜴丸の喧嘩も続く。


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