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第1話

 目の前には大平原が広がっていた。否、平原という割にはあまり緑が見えない。砂漠という表現が正しいのかもしれない。

 青年、神代直斗は自分の目を疑った。

 近頃自分が通っていたバーは異次元への入り口か、四●元ポケ●トでもあったのだろうか?

 だが、彼はすぐに思い直した。これが異次元の風景だとしたら、まだ、戻れるはずだ。

 入ってきた筈のドアを振り返る。

 そこにはドアなど存在しなかった。

 もう、そこには自分が住んでいた街の風景などどこにも存在しなかった。

 何がどうなっている?

 いつものドアを開けたらそこは異世界でした、か?

 確かにそのような何かを開けたら別世界だったり、日付が変わればまったく違う物語が始まっていたり、トンネルを抜けたら雪国だったりする物語は知らないわけではない。

 だが、それは物語である。

 フィクションなのである。故に安心して物語の世界に浸れるのだ。

 そのような事が自分の身に降りかかるなど、誰が考える?

 叫びたくなった彼であったが、今はそんな事考える余裕などない。

 どうする? 今彼に考えられることは、この世界にひとりぼっちではないのかという不安だけであった。

 

 とりあえず人家のある方向に歩いてみよう、そう彼が結論付けたのは十分以上経ってからの事であった。

 それまでに彼は自分の所持品を確認していた。

 黒いロングコート、黒のスラックス、白のワイシャツ、ベルト、下着、肌着。着用品はこれくらいのものだ。肌着には使い捨てカイロを付けていたが、どうやらこの世界、少なくとも己のいる場所は季節は冬ではないようだ。寒くないことが物語っていた。

 他には財布、携帯電話。

 携帯電話は案の定圏外を示している。示している時刻は午後七時三十分。夜と言っていい時間だが、この世界でも正しい時刻かは分からない。だが、日は沈んでいて、月明かりと星明りだけが彼の視界を照らしていた。

 溜息をつきながらも彼は歩き出した。方向など決めていない。気の向くまま、風の向くままだ。

 神代直斗という人間は案外楽天的な人間であった。


 十数分ほど歩いただろうか?

 先ほどからどうにも後ろの方から変な息遣いが聞こえてくる。少なくとも己の息遣いではありえない。

 おそるおそる直斗は後ろを振り返った。

 彼の視界には巨大なイノシシが映った。冬ではなさそうなのに、イノシシの吐く息は白く、直斗を獲物と見定めたかのような目をしていた。

 直斗は死を覚悟した。

 それと同時にこのようなところで終われない、そんな思いも湧き上がってきた。

 コートの内側に入れておいた携帯電話が鳴った。

 電話かメールでも来たのだろうか?

 直斗はイノシシを前にして携帯電話を取り出した。

 通話が入っていた。圏外なのに何故? と思う前に通話ボタンを押し、耳に押し当てていた。

「間に合ったようじゃな」

 少し年寄りくさい感じのする女性の声が聞こえた気がした瞬間には直斗はイノシシにはね飛ばされていた。

 携帯電話を耳に押し当てたまま直斗は数メートル吹き飛んだ。

 叩き付けられたところが砂漠だったことが幸いしたのだろうか、痛みはほとんど感じない。

 痛みを感じない? 巨大なイノシシに腹部を突き上げられ、数メートルも吹き飛ばされたというのに、何故痛みを感じないのだろうか?

「おおい、ナオト、電話は通じるか?」

 まだ自分が携帯電話を耳に付けていたことにも驚いた。

「ああ、通じてる」

「何か激しい音がしたのじゃが、いったいどうした?」

「よく分からんが、巨大なイノシシみたいなやつにはね飛ばされた」

「そこは日本か?」

「分からん。東京にいた筈なのに、今いるのは砂漠らしい場所だ」

「ふむ、やはり異世界にでも飛ばされたか」

「おい、リリス、自分一人で納得しないで説明をしてくれ」

 この通話中、直斗はイノシシから逃げ回っていたが、結局はイノシシにまた突き上げられ、数メートルはじき飛ばされた。

「おお、ナオト、はじきとばされるとはなさけない」

 通話先のリリスはふざけた会話を続けているし、今回も痛みを感じなかった。まだ携帯電話を耳に押し付けている自分を褒めてやりたかった。

 砂漠を転がりながら、直斗はリリスとの出会いを思いかえしていた。


  


「おい、そこの青年」

 振り返った先にいたのは白を基調としたゴシックロリータの服を着た金髪の少女。ツリ目がちな目が勝ち気そうな性格を表しているように見える。

 声をかけられたのが自分かどうか分からず、直斗は自分を指さしてしまった。

「うむ、お主じゃ。今この近辺で暇そうにしているのはお主しかおらんではないか」

 言われた通り、せっかくショッピングモールに来たのに彼は独りであった。やることもなかったので、このショッピングモールにあるシネコンで何か映画でも見ようかと思い立ち、やって来たのであった。

「連れとはぐれてしもうてのう。すまぬが、探すのを手伝ってくれぬか?」

 映画もこれといってみたいのがあるわけではない。暇つぶしになるかもしれないな、などと考えたのが甘かったのかもしれない。

 たっぷり二時間は連れまわされた。連れとやらを探そうという気配はない。色々な店を歩き回り、気に入った服やらお菓子やらを買い込んでいた。

「お、おったおった」

 そう言って彼女が近寄ったのは男女二人組であった。

 黒のロングコートを着た少年と、モデルのようなすらっとした和服姿(侍の格好をした男装した)の金髪の女性の二人だった。

 どうやら彼らもリリスと名乗った少女を探しながら買い物を楽しんでいたらしい。

 合流したリリスはシェリーと名乗った女性に怒られていた。

 軽く挨拶を済ませた後、お別れとなった。

「おい直斗、少し屈め」

 そう言われて素直に身を屈めた直斗の額にリリスは額を付けて何事かを呟いていた。

「な、何を……」

 少し赤面していたのは否めない。

「お主、何か近いうちに事件に巻き込まれそうな気がする。故におまじないをかけておいた。何かあった時に役立つじゃろう」

 事件に巻き込まれると言われていい気がする人間はいないだろう。

 その場はそれで別れたのだが数日後、リリスから電話がかかってきた。

 番号など教えていない筈だし、携帯電話には触らせてもいない。

 しかし、ディスプレイには「リリス」と文字が浮かんでいた。

 その後は時々電話やメールをする間柄になった。




「ゲホッ、ゴホ」

 吹き飛ばされて何故か痛みを感じていないのは別にかまわない。痛いのが好きだなんてただのドMでしかないだろう。

 だが、叩き付けられた砂漠で砂を口に入れてしまった。

 むせる。

「無事か?」

「なんとか」

 何故痛みを感じないのか? そこだけが疑問だ。

「いやはや、お主が何らかの事件に巻き込まれるとは思っておったが、まさか異世界に行くとは思いもよらなんだ」

 他の事なら考えていたと言わんばかりだな、とは口に出せなかった。

 だいたい、何で圏外なのにこんなにクリアな音質で会話が出来ているのだろうか?

「まあ、説明する時間はそれほどなさそうじゃ。いいか、お主の持っている携帯電話にはいくつか我輩がプログラムを入れておいた。その一つがお主の衣服を並大抵の衝撃ではダメージを食らわないようにするシステムじゃ。帽子などかぶっていなくても、頭部も一切の衝撃を受けないようにプログラミングされておる」

「だから、砂漠に叩き付けられても、いっさいの痛みを感じないのか」

「そういう事じゃ。あと、その世界の言語、文字修得じゃ。例えそこがどのような異世界であろうと、言葉や文字には不自由しないじゃろう」

「ほんとか?」

「おそらく、たぶん、きっと、メイビー」

 ふざけているのだろうか? 直斗にはしかし、現在のところリリス以外に縋れる相手がいないのもまた事実。多少ふざけていても彼女に頼るしかないのだ。

「あと、武器じゃ」

「武器?」

「お主が思い浮かべる武器を考えろ。それも最強の武器を」

 そう言われて直斗が思い浮かべた武器は拳銃であった。彼が好きな漫画の主人公がよく使っているコンバットバイソン。

「それでよいのか? まあ、変更はいつでも可能じゃから、気にするな」

「変更が可能ならわざわざ急かすなよ」

 いまだイノシシは直斗が立ち上がってきたのを不審に思っているのだろうか? 彼の周りをグルグルと回っているだけだ。

「まあいい、変更時には自らの使いたいと思う武器を考え、携帯電話に555と打ち込め。基本、我輩もこれからお主のサポートは出来ぬ。代わりのサポート役は送るが」

「送る? 今すぐは来ないのか?」

「すぐには無理じゃ。携帯電話はいつもは使えんが、電池だけは絶対に切れないように我輩プログラミングしておいてあるから、武器だけは何度でも使用可能、変更可能じゃ。もちろん、現地の武器を使っても何の問題もない。装備品もお主が装備しさえすれば、それは例え腰布一つでも全身を覆う最強の防御力を持つ装備品に変わる。見た目は腰布一つのままじゃがな」

 嫌な最強防御力だな、とは思ったが突っ込みは入れないことにした。触らぬ神になんとやら、だ。

「まあいい、あとはお主次第じゃ。流石にその世界の通貨などは我輩も準備してやることは出来ぬ。食い扶持は自分で稼いでくれ」

「了解。分かったよ。武器はいつになったら出せるんだ?」

「通話終了後じゃ。では、その世界での健闘を祈る」

「生き延びてやるさ」

「ああ、じゃが最後に一つ忠告をしておいてやるかのう。武器防具は最高級品になるのじゃが、お主自体はカスじゃ。言うなればレベル1。雑魚も雑魚じゃ。あまり張り切りすぎるなよ」

 そこで通話はきれた。

 あいつ最後にとんでもない爆弾を置いていきやがった。

「もしもし、もしもーし」

 何度か通話の切れた携帯電話に向かって話しかけたが、返答はなかった。

 

 まだ、イノシシは己の周りをグルグルと回っている。攻撃のタイミングを計っているのだろうか?

 仕方なく直斗は携帯に555を打ち込んだ。

 途中で変な電子音が鳴り響いた。おそらくはリリスの趣味だろう。彼女はオタク趣味を持つ少女であった。

 最後に通話ボタンを押したら「complete」なんて電子音声が鳴り響いた。

 自らの手に現れるコンバットバイソン。

 銃器類の使い方なんて詳しいことは分からないが、何故かその時の直斗には自らの右手に現れたコンバットバイソンの扱い方が簡単に分かった。

 弾丸は入っている。MBマインド・バレット。自分の精神力に作用される弾丸。どのような種類になるかは己の考え方次第。

 この窮地を脱するには、どちらにしろ、このイノシシを撃退するしかない。

 銃口をイノシシに向けた。イノシシはイノシシで直斗を始末するために走り出したところであった。

 躊躇わず引鉄を引いた。

 イノシシの眉間に吸い込まれた弾丸は頭部を貫通し、イノシシの命を奪ったのだった。

 その場でイノシシは牙と宝石のようなものに変化した。

 なんだろうか? 直斗は考えると同時におそらくこれはRPGにおける敵撃破時のドロップアイテムと報酬金額のようなものだろうと理解することにした。なので、ありがたく頂戴することにした。

 携帯を見ると、いくつかの文字列が並んでいた。

 

「我輩よりいくつかプレゼントじゃ。

 異空間:いくらでも物を入れられる空間じゃ。お主の思うままに物を入れられるぞ。

 お主のサポート役:暫くしたら着くじゃろ。仲良くな。

 お主専用の異空間に食料品と飲み物などをいくらか放り込んでおいた。補充はないので、大事に使えよ。

 では、元気でな」


 最後の最後までおせっかいだな、と直斗が思ったかどうか。

 イノシシの牙と宝石を異空間に放り込み、直斗はまた歩き出した。

 どこかに人家はないだろうか? 食料品や飲み物は補充がされないと書いてあったので、手を出すのはやめることにした。

 

 夜が明けそうなとき、直斗はキャンプのようなものを発見したが、彼はその時脱水症状で砂漠に倒れこんだのだった。


ゲストキャラに拙作のリリスさん。今後はほとんど出る予定はなし。


ナオト・カミシロ

性別:男

レベル:1 NEXT 5/100

体力:120 精神力:35

攻撃力:25

防御力:18

魔力:30

魔法抵抗力:20

反応値:25

命中率:28

回避率:16

運:最悪

装備品:黒いコート 黒いズボン 怪しい携帯電話

称号:なし

所持金:0G

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