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第13話

 どうやら鰐野郎は何処かへと帰って行ったらしい。時間を気にしていたようだ。鰐君、初めてのお使いといったところだったのだろう。

 無理やりそう結論付けた直斗は、エクリア達の元へ向かった。鰐退治の途中にバーソロミューは持ち直したような雰囲気であったが、どうだろうか?

 「エクリア、バーソロミューのおっさんは大丈夫か?」

 「え、うん、大丈夫だったよ。今は落ち着いてる。治療院に運んで念のため何日か休ませてもらおうかな、と思ってるんだけど。ただ、何故かまだ目が覚めないんだよね」

 見下ろしたバーソロミューは誰がどう見ても無傷に見える。おかしい、峠を越したとかいう問題ではない。誰がどう見ても先ほどは生死の境を彷徨っていた筈だ。回復魔法とか、回復薬の類でどうにかなりそうなレベルではなかったはずだが……?

 「回復魔法とは、そんなに凄いものなのか?」

 率直な疑問が口を出たとしても何の問題もあるまい。

 「ううん、科学の力。宇宙ナノマシン“スグナオール”だって」

 直斗の頭では理解不可能だった。

 「貴様ぁぁ、いったい何をしているんだ!?」

 「邪魔をするな、鼻垂れ小僧ども、ワガハイが無償で治療してやろうと言っておるのに。よいか、ワガハイほどの科学者が本来無償で治療行為をするなど、ありえぬことよ。だが、今のワガハイは気分がいい。人生において、いや、蜥蜴生において最高にハイな状態にいるトカいないトカ。重症患者を全員治療すればエクリアからの氷漬けが待っているのだ。あの快感を得るために貴様らは犠牲になればいいのだ、なあに、数時間から数日悪夢を見るだけよ。肉体的には何の後遺症も残らん。精神的にはどうにかなるかもしれんが、そこは人間の愛とか希望とかそういった類のものでどうにかしたまえ。科学者は肉体だけを治すのが商売だ。あ、それ、ブスッとな」

 「やめろ、そんな毒々しい緑色の液体なんかでどうにかなるわけないだろうが!!」

 「フゥーハハハ、リザード星の科学力は宇宙イチィィィィーーーーーッッッッ!!」

 「やめろ、やめてくれ、アッーーーーー!!」

 道端のあちこちで恐ろしいやりとりが行われているようだった。直斗はそのやりとりを聞かなかったことにした。触らぬ蜥蜴になんとやら、だ。

 とりあえず直斗はバーソロミューを治療院に運ぶことにした。いい年こいたおっさんを背負うなんて本当はしたくない。どうせ背負うなら可愛い女の子がいい、なんて阿呆な事を考えながら。

 バーソロミューを治療院に運んだあと、十分に動ける冒険者はかき集められ、目を覚まさない無傷の冒険者たちを治療院に運ぶという全然ありがたくない役目を押し付けられた。

 結果、建物の破壊などは少なからず行われたが、魔族の侵攻を受けて、死者数ゼロという被害状況となったのであった。

 軽傷の冒険者よりも無傷で目を覚まさない冒険者の数の方が多かったのは何故なのか、茶色の蜥蜴の暗躍があったトカなかったトカ。


 だいぶ落ち着いた頃、バーソロミューの病室に顔を出した。

 エクリアがベッド横の椅子に座り、肩を震わせていた。まさか、バーソロミューに何かあったのだろうか? 直斗は不安を抱きながらエクリアに声をかけた。

 「どうした、エクリア、バーソロミューのおっさん、何かあったのか?」

 エクリアの膝の上ではコリスが丸くなっていたが、直斗が声をかけたときに目を開け、にゃあうと鳴いた。その鳴き声が笑いを含んでいたように直斗には聞こえた。

 「あ、ナオト……」

 エクリアのその表情を見て先ほどまでとは違う不安に襲われる直斗。

 「ぶふぅっ、ごめん、ナオト、耐えきれない、ふふふ、ふふ、ゲホッ」

 笑いをこらえきれなかったようだ。最後にはむせだしてしまった。しかも、その笑いの原因は直斗にあるようだ。

 しかし、思い当たる節のない直斗。何故エクリアに笑われるのか、見当もつかない。

 エクリアが差し出したタブレットPCを見てその理由が分かった。

 浮かび上がる再生マークをおそるおそる押す直斗。


 『俺の名は神代直斗、神に代わって直に闘う男だ!!』

 『へえ、神に代わって、ねえ。なあ、何の神に代わって闘うんだ? 教えてくれよ』

 『笑いの神だ!!』

 『てめえを今すぐ倒してクロコ●イル・ダンディーを名乗ってやる!!』

 『ほざくなよお!!』

 『お前、そんなバズーカなんて出して、どうするの? ベッドの上で「僕のバズーカはもっと凄いんだぞ」なんてかわいこちゃんに自慢しちゃうの?』

 『てめえ、いったい何者だ?』

 『どうも、セクシーオ●シタです』

 『ダンディータ●ヤマ』

 『発射』

 『てめえ、いったい、何を……?』

 『チィッ、時間だ。今日は退いてやる。だが、テメエの事は忘れねえぞ、セクシーオオ●タ!! 今度会う時は絶対に殺してやる!!』


 そこには先ほどのアルハザードとの対決が一部編集された形でおさめられていた。

 アルハザードとの戦いの時には恥ずかしさのあまり記憶が吹き飛んでいた直斗であったが、直接見せつけられるともう駄目であった。

 ラストには「撮影:ゲーサン、編集:リリス」と丁寧に字幕までついている有様であった。

 「ゲーサン、リリスゥゥゥゥーーーーッッッッ!! 俺をはめやがったなぁぁぁぁッッ!!」

 己の厨二病姿を見せつけられて恥ずかしさのあまり叫び声をあげる直斗。

 「お願い、エクリア、これ、誰にも見せないで!! 心からお願い!! 絶対にばら撒かないで!! なんでもするから、エクリアの願い事なら出来る限り叶えてみせるから。俺の全力でなんでもやるからさぁ!!」

 土下座を決め込む直斗。形振り構っていられないッ!! 両手で拝むようにエクリアの柔らかい手を握るが感触を確かめる余裕なんかない。

 「ホント!? 絶対だからね、約束だからね!!」

 なんだか、エクリアの声が嬉しそうだ。これなら大丈夫かもしれない。

 「ああ、信じてくれ!!」

 エクリアの笑顔に安請け合いをしてしまう直斗。なんだか凄い事を口走ってしまったような気もするが、そんな事は気にしない。考える余裕なんかない。

 エクリアが凄く嬉しそうな表情をするため安堵する直斗。大丈夫、これで俺の厨二病姿は最低限の人間しか知らない筈だ。

 「あ、でも……」

 「え?」

 背筋が凍る思いがする直斗。

 「さっき、その映像を見た蜥蜴丸が『これは素晴らしい、この王都を救った英雄の存在を皆に伝えようではないか。ゲーサン、チビッ子どもを広場に集めよ!! 全員で鑑賞会をしようではないか』って叫びながらゲーサンと一緒に出ていったよ」

 直斗を絶望が包み込んだ。


 王都の広場には大勢の子供たちがいた。怪我の比較的少ない冒険者もいた。さっそく復興作業にとりかかろうとしていた王国の騎士たちも何人かいた。

 その全員が一点を凝視していた。

 『俺の名は神代直斗。神に代わって直に闘う男だ!!』

 その瞬間、広場に設置されていた巨大スクリーンが破壊された。

 「蜥蜴丸ゥゥッッ!! 出てこいやぁぁ!!」

 激昂する直斗に対するは黒マントに赤マフラーを靡かせた蜥蜴丸。

 「ククク、直斗よ、まだ序盤でスクリーンを破壊したことに安心してはいないかね?」

 「なん……だと……」

 「既に連続再生で六回目よ!! 見よ、お前という遅れてきた厨二病ヒーローを見つめるチビッ子たちの熱のこもった視線を!! これからのお前は街に出るたび、チビッ子とすれ違うたびに決めポーズをせがまれ、決め台詞を言わされるだろうよ!! 厨二病に感染したのも遅かったが、ここに来たのも遅かったのだよ!! クカカカカ!!」

 直斗を真の絶望が襲ったのであった。

 もしかしたら、真に恐るべき存在は蜥蜴丸ではなく、ゲーサンだったのかもしれない。

 チビッ子に囲まれ、その邪気のない視線にさらされ、直斗はその場を脱兎の如く逃げ出したのであった。

 

 バーソロミューの病室に逃げ込み、塞ぎこむ直斗。

 現実を直視する自信がなかった。

 椅子の上に体育座りをし「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……」と繰り返す。現実逃避のためのセリフも厨二病精神に溢れていた。

 エクリアはそんな直斗を少し不気味に思っていたが、可哀相であった為、無言を貫いていた。

 おそらく今、直斗にどのような声をかけても平静は取り戻せないだろう。直斗の目は絶望に染まっている。そっとしておいてあげるのがきっと、優しさというものなのだろう。

 蜥蜴丸とゲーサンは今どこをうろついているのか、はっきりしない。

 バーソロミューもいつ目覚めるか分からない眠りの中だ。母親は今違う用件で王都とは違う町に出向いているが、もうすぐ戻ってくるはずだ。

 その時は色々話をしよう。近頃あった面白い話とか、つい最近あった異世界から来たなんて言う青年の話とか、変な事ばっかり言う蜥蜴の話とか、話したいことは沢山ある。でも、それを全て笑い話に出来るかどうかは全部父親が目を覚ましてからの話だ。

 蜥蜴丸は傷は治るが悪夢を見ると言った。その結果おかしな行動をとる人間もいると。父はどのような悪夢を見るのだろうか? その結果おかしな行動をとったりはしないだろうか? 少し不安だ。

 その時、規則正しい寝息を立てていたバーソロミューの口が開いた。

 「う、うう、うわあああああああ!!」

 「うわあああああああ!!」

 バーソロミューの叫び声で現実に引き戻される直斗。つられて叫び声をあげ、なおかつ椅子から転げ落ちてしまった。

 「父さん、どうしたの!?」

 エクリアの声を聞き、その方向へ顔を向けるバーソロミューであったが、娘の顔を見てまたも叫び声をあげた。

 「うわああああああ!!」

 ベッドの中で思い切りエクリアと反対側の方へと行こうとするバーソロミュー。

 「父さん、私だよ、エクリアだよ」

 「エ、エクリア……?」

 「そう、エクリア」

 ホッと、安堵の息を吐くバーソロミュー。

 しかめっ面で立ち上がる直斗。

 「何があったんだ、いきなり叫びやがって。驚いてこちらも叫んでしまったじゃないか」

 「なんだナオトか」

 直斗には普通に接したバーソロミューを見て、少し納得のいかないエクリア。バーソロミューが叫び声をあげた時にコリスは驚き、先ほどまでエクリアの膝の上で寝ていたが、今は直斗の頭の上に移動している。

 「いや、恐ろしい夢を見ていたんだ。自分がどこにいるかは分からなかったんだがな、何処へ行こうと、膝の下まである黒髪の女がじっと見つめてくるんだ。髪の隙間から血走った片目を覗かせて。ある時は鏡に映って。ある時は気配を感じたら、クローゼットの中にいたんだ。そして、何を言うでもなく、何処へ行っても、姿は見えなくても、気配は感じるんだ。いつしか気づけば、その女の傍に小太りの男が現れて、変な、妙に耳に残る音楽とともにその男が「来るゥ~~ッ」とか、「きっと、来るゥ~~ッ」とか、変なポーズをとりながら、喋っていたんだ。その男からは、特に悪意を感じなかったんだが、気が付けば、その男の声がどんどんでかくなっていったんだ。そして、ふと気づくと、男との距離だけがどんどん近くなってくるんだ。女との距離はずっと変わらないままだった。なんだか気味が悪くなってきてな、どうにかしようとは思ったんだ。そして、ついさっき耳元で、耳に息がかかる感じで、その男が言ったんだ。『やあ、来たよ』って。俺は恐ろしくなって、必死で走ったんだ。しばらく走ったら、急に光が見えたんだ。俺は必死に手を伸ばしたよ。そしたら、目の前に髪の長い女がいるじゃないか。逃げられずに、またあの恐怖を感じてしまうのかと、恐ろしくなったんだ」

 



 必死の思いで逃げだしたと思ったら、逃げだした先でも、恐怖の対象が待ち受けていたと思ってしまったのだろう。

 それは怖かっただろう。だが、父親バーソロミューの無事を願っていたエクリアを見て叫び声をあげたのはいただけないな。

 バーソロミューをポカポカ殴るエクリアを見ながら、こっちの方は大丈夫だろうと考える直斗。

 だが、彼の厨二病ヒーロー地獄はまだ始まったばかりであった。


ナオト・カミシロ

性別:男 

レベル:13 NEXT 170/1400

体力:880/880 精神力:210/210

攻撃力:88

防御力:50

魔力:60

魔法抵抗力:40

反応値:73

命中率:40

回避率:30

運:良好

使い魔:コリス(黒猫)

装備品:黒いコート 黒いズボン 怪しい携帯電話

称号:遅れてきた厨二病ヒーロー

所持金:48000G(借金)

ギルドランク:F(最低ランク)

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