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一章 鬼塚 七

    ◆ ◆ ◆


 外に出ると、雨脚はだいぶ弱まっていた。

 風も一頃よりは随分と弱まっている。

 水那人と月子はビニール製のレインコートに身を包み、ぬかるむ裏山へと足を向けた。

 山とは言っても、緩やかな傾斜の続く、丘の続きである。歩くのに、そう苦労は要らない。何より、目指す場所へは一本の小径こみちが続いているのだ。迷う事もない。

 しかし、杉の巨木に囲まれた頂の広場に辿たどり着いた時、二人はその光景を目の当たりにした。

 懐中電灯の光が、塚の様子を朧気おぼろげに照らし出す。

「何しに来た! 戻れ!」

 闇の中から、伯父の叱咤しったが飛んだ。

「な……」

 水那人は絶句した。

 傍らに立つ月子も同様であるのか、一言も声を発しない。塚の周囲には、禍々(まがまが)しい空気が満ちていた。

 封印の要と言われていた、塚の上の石。在るべき場所にそれは無く、代わりに強風によってぎ倒された杉の巨木が、塚の上に倒れていた。

 水那人は懐中電灯の光を向ける。

 光の環の中に現れたのは、伯父と従兄の姿だった。塚を挟み、両手に剣印けんいんを結んで前方へと突き出している二人の姿。彼らは必死に、塚の上に在る何かへと念を送っていた。

 そんな光景に、水那人の全身が粟立あわだった。

「うそ……だろ……ただの、伝説じゃなかったの……?」

 水那人がそんな事を呟いた刹那、

「……ぉ……ぉぉ……ぉ……ぉぉぉ……」

 地の底から湧き上がる様な、不気味な音が聞こえた。或いは、それは声と言うべき何かであるのか。

「逃げろ! 逃げろ水那人! 月子!」

 再び、伯父の叫びが耳に届いた。

 だが、その時には既に、水那人はそれに魅入られていた。塚の上に浮かぶ、その存在に。

 どうしてだろうか。

 どうしてそれが判るのだろうか。闇の中、闇よりも深くくらいその存在に。

 それは、漆黒の勾玉まがたまだった。

――真仁まひとの裔か……丁度良い……お前が合いそうだ――

 ふと、そんな声が、水那人の中に流れ込んだ様な気がした。

 そして、それをったその時、伯父と和征の身体が弾け飛んだ。

 と同時に、勾玉が飛翔し、

「がっ、ふっ……」

 水那人の胸を穿うがっていた。

「水那人!」

 月子の叫びが聞こえた。

――何が……起こったんだ……?――

 それだけを思うのが、精一杯だった。

 赤く焼けた鉄棒を突きこまれたかの様な感覚。

 穿たれた、胸の穴から吹き出す鮮血。

 霞む視界にそんなものを捉えながら、水那人の意識は薄らいでいく。

 意識が途切れる寸前、

「ついに……始まりましたわね……兄様……」

 そんな声が聞こえた様な気がした。

 それは、少女の様に瑞々(みずみず)しい女の声。

 それは、初めて耳にする声。

 そのはずなのに、しかし――

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