表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/55

七章 魂の因果律 二

 咳込みながら、何事かと朔が見上げた時、

「おおおぉぉ……おおぉ……」

 視線の先には、血の涙を流し、慟哭どうこくする鬼の貌が在った。

「なぜだ……なぜ……お前が……お前だ……お前が……」

 再び伸びる鬼の腕。

 だが、不意に鬼の動きが緩慢かんまんになる。

 次第に動きを止める鬼。

「臨、兵、闘、者、皆、陣……」

 再び、見えない索が鬼の身体を呪縛する。鬼の背後では、真仁が九字を切っていた。

「……セハヤ……」

 鬼の口から零れ、耳に届いた言葉。

 その言葉が、瞬く間に朔の心に憎悪を満たす。

「……兄様……」

 胸の内に吹き出すのは、憎悪。

「まだ、その名を……」

 胸の内にわだかまるのは、慕情。

「口にするのですか……」

 朔は周囲に散らばった符を拾うと、そのまま立ち上がる。朔の瞳には、目の前の鬼と同質の、鬼気が灯っていた。

「忘れて下さい……」

 朔は微笑み、手の中の符を剣に変えた。

「朔! やれ!」

 真仁の声が飛んだ。

 しかし、その声が耳に届く前に、

「……兄……様……」

 朔は、鬼の首をねていた。

 それでもなお、倒れずにいる鬼の身体。

 どす黒い血が、頭を失った鬼の身体から噴出ふきだしていた。

 どさり、と、重苦しく音を立てて、鬼の首が地に落ちる。

「……おの……れ……いつ……か……か、なら……ず……」

 より強く増した鬼気に乗って、怨嗟が朔の耳に届く。

 刹那、鬼の首は沈黙した。

「兄……様ぁ……」

 光を失った、朔の虚ろな瞳。彼女は崩れるように、その場に座り込んだ。純白の浄衣が、鬼の血を吸ってどす赤く染まっていく。

 紐の切れた勾玉が、血溜まりの中に落ちていた。

「早々に封じるぞ、朔」

 兄の呼びかけに頷くと、少女は勾玉を拾い上げた。

「……それでは……これを、使いましょう……」

 呟くようにそう言った妹の顔を見て、真仁は息をんだ。

 妹が、どこか嬉しそうに微笑っていたからだ。

 そして少女は、鬼の血にまみれた勾玉で、その小さな唇に朱を引いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ