表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/55

六章 鬼女が哭く刻 一

    ◆ ◆ ◆


――暗い――

――寒い――

――俺は……死んじまったのか――

 そこは、ただ闇の中。

 そんな中に、春路は『在』った。

『春にー』

 ふと、声が聞こえた。二つに重なった、聞き馴染んだ声。春路が持つ、二つの大切なもの。だが、どういう訳かその姿を見る事が出来ない。その気配も感じられない。なのに声だけが聞こえてくる。

――お前ら……ええと……あれ、俺、どうしたんだっけ? お前らも、どうなったんだっけ?――

「そんな事は、今はいいよ。今回は、春にーボケちゃってるみたいだから」

 そう言ったのは、たぶん桜。

――いや、俺的には良くねーんだけどなぁ――

「それよりも、いま大変なんだようっ!」

 そう言ったのは、たぶん楓。

――何言ってんだか分かんねーよ――

「だからそれよりもっ!」

「真己さまを助けてっ!」

――はぁ? マナキ? 誰だよそれ?――

「あとねっ!」

瀬速媛せはやひめさまも助けてっ!」

――だから誰だよっ?――

「桜ちゃんの中のすみれちゃんがそう言ってるんだよっ!」

「違うよ! 楓ちゃんの中のひしちゃんが言ってるのっ!」

――分かった分かった。で、俺にどうしろっつーんだよ、お前らは?――

 本当は理解不能なのだが、取り敢えず切羽詰っている様子なので、春路はひとまずそう言ってみた。

「あのね、ちょっとの間だけ、春にーにはそのまま死んでて欲しいの」

――って、おい――

「大丈夫だよ、別な春にーが出てきて、傷も治っちゃうから」

――別な、って、何だよそれっ?――

「ずーっと昔の春にーだよ」

「えっと、その時の名前はねぇ……」

『そう、タケミカヅチっ!』

 その声が聞こえた瞬間、春路の中から湧き出てくるイメージがあった。


『秘術』を施された者に、必ず訪れる末路。

 全身を肉のこぶに蝕まれ、苦しみのたうつ死の床で、傍に立つ、頬に傷のある美しい青年の姿がある。

 彼に願ったのは、次の世にも、この鬼神の力を伝える方法はないものかと。


 青年は言った。それならば、貴方あなたの血筋、貴方の息子達の血の中に、その力を封じましょう、と。そして、唯一神の御力みちからで再び人の生を繰り返す貴方は、重い傷を負ったその時にだけ、その力が解放される事になるでしょう、と。

 偉大なる唯一神ヤーハヴァー。その御名みなにおいて、貴方の力――生命の樹(セフィロト)の中で、肉体を司る<イェソド>を、貴方の息子達の中へ――と。


 そして、傍らにはもう一人。永く憎悪を向けていた敵がいる。妹・セハヤを惨たらしく殺した者達の中より、自分の命も顧みずに一人訪ねてきた者。それは、傷の青年と同じ年頃の男。

 彼は、妹の夫となった者の身内だ。敵の国で起こった出来事――妹の最期、そしてその夫のなれの果て。それらにまつわる全てを、彼は隠さず話してくれた。その上で、詫びの言葉と共に紡がれた、一つの願いがある。

 それを聞いたからこそ、今こうして願うのだ。訪ねて来た青年の意思を手伝う為に。それはただ、儚く散った、妹の魂を救うため。


 それからの、幾度もの生まれ変わり。

 それを経た今生こんじょう

 そして、重い傷を負った今だけに許される、力と記憶の復活。

 きっと事が済めば、力と共にこの記憶は消えてしまう事だろう。だが、それでも構わない。生まれ変わった妹が、健やかに人としての幸せを手に入れられるのならば。


――そう、我は唯一神・アラハバキが十支族じゅっしぞくの長が一人。最強の武を持つ者――


――タケミカヅチなり!

あ~、今日は節分ですねぇ。

鬼モノ連載してて節分とは、なかなかに趣深いものがあります。

帰ったら恵方巻たべよーっとw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ