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プロローグ

これは、Detective Catの続編です。ネタバレなどが含まれている恐れがありますので、なるべく、そちらを先に読んでください。

「終わった――!」

 誰かが発したその言葉。

 うん、終わった。確かに終わった。……色んな意味で。

司狼しろうー、どうだったよ?」

「バッチリバッチリ。完璧にヤマが外れた」

 僕は南田にそう答えると、机に突っ伏した。

 ――定期テスト、終了。

「とか言って、こないだのテスト満点だったじゃねーかよ」

「あれはヤマが当たったんだよ。今回はダメだった」

 ヤマかけは、当たるとすごいが、外れると逆の意味ですごいことになる。

 それじゃあ、ヤマなんて張らずに、まんべんなく勉強すればいいんだが、当たるか、外れるか? というスリルが中々楽しい。当たるとすごく気持ちいいし。

 ……なんか、将来競馬かなんかで大コケしそうな予感……。

「今回も全教科100点いるのかな」

 さあな、と僕は答える。

 全教科100点。そいつはもう、学校の七不思議の一つと言ってもいいかもしれない。別に、全教科満点を取ることが不思議だというんじゃない。取ったのが誰かが、わからないのだ。

 聞くところによると、入学当初からずっと満点を取り続けているらしい。

 しかし、うちの学校は、順位が明確にされないし、廊下に上位の名前が張り出されたりもしないから、名前はもちろん、男か女かさえわからない。全教科満点なんて、相当に目立つだろうし、席の近い人間が見ていそうなものだが、目撃情報はまだない。

 まあ、僕にはそんなに関係ないんだけども。

 ――それに、頭の良い奴なら、すでに知っている。

 ヴァイオリンの音色が未だ耳に残る、あの事件を警察より早く解決してみせた、同い年の天才少女。『黒猫』と呼ばれたあいつに比べたら、全教科100点なんて、全然どうってことない。

「テストも終わったし、さっさと帰るとするか」

「だな」

 僕は鞄を掴んで、立ち上がった。そうだ、帰ったあと、久しぶりにあいつの家に行ってみるかな。

「ん?」

 玄関から出て行く人間が二人、遠くに見えた。後姿だけれど、どうも見覚えがある。

 まだ若そうな女性と、コートの下から、まだ新しそうな制服のスカートが覗く、少しウェーブがかった髪をポニーテールに結わえた、小柄な女の子。

 女性の方はなんだか、小織こおりさんに似てるな……。なら、横にいる女の子は、クロ?

 そこまで考えて、思わず笑いかけた。

 クロは引きこもり娘で、外出するのは、事件やその他特別な用事くらいだ。ありえない、ありえない。

 でも、見れば見るほど似てる気がする。まさか……ね?


 *


 『氷鉋ひがの』という表札の掛かった家のインターホンを押す。いや、『家』というより、どう見ても豪邸だよな。

 ここにはあれから何回も来ているが、相変わらずの大きさには、まだ慣れていない。けれど、こんなに巨大な家でも、中にいるのは常に二人だけで、多い時でも三人くらいだ。

「はい」スピーカーから、小織さんの声が返って来た。

「あ、立森です」

「わかりました、今お開けしますね」

 直後、カチャン、と音がしたかと思うと、自動で門が開く。

「いらっしゃいませ、立森さん」

 家の中に入ると、小織さんが笑顔で挨拶してくれた。

 小織さんは氷鉋家の住み込みメイドをしていて、ヴァイオリンの名手だ。左手の爪は、今も右手より少し短いまま。きっと、仕事が一段落したあとに時々、ヴァイオリンを弾いているのだろう。おそらく、若き天才ヴァイオリニスト、夕希さんとあの事件を思い出しながら。

「おじゃまします」

 そうして僕は、いつもの様にそのまま階段を上がる。目的は、階段を上がって直ぐの、黒猫のプレートがかかった部屋……クロの部屋だ。

 コンコン、と部屋の扉を軽くノックする。わかってはいたけれど、返事はやっぱり無かった。それでも、あいつは必ず部屋の中にいる。答えは単純、クロは引きこもりで、家から出るのは、何か特別な事情か、事件の時くらいだから。

「入るぞー」

 部屋に入ると、ソファーで寝転んでいた氷鉋黒羽ひがの・くれはが、ゆっくりと起き上がるところだった。

 ソファーの隣に置かれた机には、読み終わった本の山と、これから読む本の山がある。

「久しぶり、クロ」

「……遅くまでコツコツ勉強するタイプ?」

「え?」

 いきなりなんだ? テストのことか?

 確かに、昨日は遅くまで勉強してて、本番うっかり寝ちまったけど……。なんで知ってる?

「手に、鉛筆と赤ペンのインクがついてる」

 あ、なるほど。まったく、こいつはホントになんでもお見通しなんだな……。

「? お前こそ、今日外出かなんかした?」

 クロは怪訝な顔をした。

「いつもより読み終わった本が少ないからさ。どっか行ってたのかなーって」

「……まあね」

「へえ。お前が外出なんて珍しいな。事件か?」

「ううん、ちょっとね。小織さんとか、誰か親しい人が一緒にいてくれれば、少しは平気」

 ふうん、そうだったのか。

「そうそう、小織さんといえば、今日小織さんとクロにそっくりな人を見たんだ」

「どこで?」

「学校」

 誰か親しい人がいてくれれば外出が可能と言っても、参観日でもないのに、教室までついてくるのは難しいだろう。現に、クロは今日も来なかったし。

 ところが、クロの答えは意外なものだった。

「ああ、多分それ私よ」

「え!?」

 な……ホントに?

「さすがに定期テストは受けておかないとまずいのよ……」

「……」

 うわあ、なんか今、すっごいリアルな世界を垣間見た気がする。

「でも、教室には来なかったよな?」

「特別教室って知らない? 体調が悪い人とかがいるんだけど。そこで受けてた。割と退屈だったわ」

 ――それなら……。

「それなら、普通に学校に来ればいいのに」

「え……」

「少なくとも、学校じゃ退屈することはないぞ?」

 いやがりつつも、クロは揺れている様だった。そもそも、どうしてこいつは引きこもりなんかやってるんだ?

 なんだか、どっちかというと――学校に行きたがっているようにさえ見えるのに――。

「一日だけ、ちょっと行ってみないか? 辛かったら早退していいから」

 クロからの返事はない。やっぱり、難しかったか?

「……シロは、」

「?」

「シロは私を、見捨てない……?」

 僕には、その質問の意味がわからなかった。わからなかったけれど、

「当たり前だろ」

 クロは小さく、頷いた。



 結局、このときの選択が正しかったのかどうかはわからない。

 けれど、学校にいる間は、僕だって普通の子と変わりないんじゃないか、という錯覚を抱いていた。

 事件召喚体質ならびに、事件邂逅体質。

 そんな呪わしい能力を、すっかり忘れていた。

第一弾からずいぶん経ってしまいました……わざわざメッセージを下さった方、どうもありがとうございます。

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