表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『追放された毒使いの薬師は、辺境で最強の薬草園を作る ~パーティを追い出されましたが、僕の毒がないと皆さん死にますよ?~』  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/8

第7話 影の薬師


 村に戻って数日。

 平穏な日々が戻った――と思っていた。


「レンさん! 薬草園に誰かが入った跡があります!」


 朝の見回りに出たフィーネが、息を切らして戻ってきた。


 現場に行くと、確かに柵の一部が壊され、足跡が残っていた。

 そして――蛇舌花の区画だけが、根こそぎ引き抜かれていた。


「…………蛇舌花だけを狙っている」


「誰がこんなことを?」


「蛇舌花は毒の原料にもなる。薬草として使えるだけでなく、純度を上げれば致死性の神経毒を精製できる」


 フィーネの顔が青ざめた。


「まさか……」


「マルクスが言っていた怪しい薬師。関係あるかもしれない」


 足跡を追ってみた。森の方へ続いているが、途中で消えている。

 ただの野盗ではない。痕跡を消す術を心得ている。


「フィーネ。しばらく薬草園の夜間見張りを交代でやるぞ」


「はい!」


 ◇


 その夜。

 俺は薬草園の近くの木陰に身を隠し、気配を殺して待った。


 月が高く昇った頃。


 音もなく、一つの影が柵を越えた。


 黒いローブを纏った細身の人影。

 慣れた手つきで薬草に近づき――今度は青星草の区画に手を伸ばした。


「そこまでだ」


 俺が声を発した瞬間、影が跳びのいた。

 その反応速度は、ただ者ではない。


「……薬草園に不法侵入して、何を盗もうとしている?」


 月明かりの下、フードの奥にかすかに顔が見えた。

 三十代くらいの、鋭い目つきの男。指先が薬品焼けで変色している。


 薬師の手だ。


「……バレたか。まさかこんな辺境に、まともな薬師がいるとは思わなかったよ」


 男が低く笑った。


「名乗れ」


「名前なんか意味がないさ。――だが、同業者への礼儀として教えてやろう。俺はかつて王都薬学院に籍を置いていた者だ」


「王都薬学院……追放されたか」


「ご明察。禁忌の研究に手を出したとかなんとか。くだらない倫理観で俺の研究を潰しやがった」


「禁忌の研究。……毒の兵器利用か」


 男の目が細くなった。


「話が早いな。ああ、そうだ。毒は本来、最も効率的な兵器になる。剣で斬るより、魔法で焼くより、一滴の毒の方が確実に人を殺せる。……なのに、薬学院のお偉方は『薬師は人を救うためにある』なんて綺麗事を抜かす」


「それは綺麗事じゃない。薬師の本分だ」


「本分? 笑わせるな。お前だって知っているはずだ。毒と薬は表裏一体。薬を作れる者は、最も効率的に毒を作れる。その力を人を救うためだけに使うなんて、才能の無駄遣いだ」


「…………」


「聞いたぞ。お前、Sランクパーティから追放された薬師だろう? 回復魔法が使えないから捨てられた。お前の技術は正当に評価されていない。俺たちは似た者同士だ」


「似ていない」


 俺はきっぱりと言った。


「お前はヴェルダン伯爵の娘に毒を盛った張本人だな」


 一瞬の沈黙。

 そして、男が笑った。


「証拠は?」


「深淵蠍の毒による紫石病。ヴェルダン領に深淵蠍は生息していない。つまり、外部から毒を持ち込んだ者がいる。そして今、お前はこの辺境で蛇舌花と青星草を盗もうとしている。蛇舌花の毒を濃縮し、青星草で自分用の解毒剤を作るつもりだったんだろう」


 男の笑みが消えた。


「……やるな。腕のいい薬師は分析力も一流か」


「忠告する。今すぐこの土地から出ていけ。次に来たら、俺が止める」


「止める? どうやって。お前は薬師だろう。戦闘なんかできるのか?」


「戦闘は必要ない」


 俺はポーチから小瓶を取り出し、地面に叩きつけた。


 白い煙が瞬時に広がる。


「がっ……! な、何だこれは……!」


「痺れ煙。蛇舌花の毒を気化させたものだ。吸えば全身が痺れて動けなくなる。致死性はないが、半日は指一本動かせない」


 俺は事前に解毒剤を飲んでいる。煙の中でも平然と立っていられる。


「お前に毒の使い方を教えてやる。毒は人を殺すためじゃない。こうやって、守るために使うんだ」


 男は地面に崩れ落ちた。

 だが、その目だけは俺を睨んでいる。


「……覚えてろ。俺は必ず戻ってくる。お前のその薬草園も、あの森の薬草も、全部いただく」


「好きにしろ。何度来ても、同じ結果だ」


 翌朝、縛り上げた男をマルクスに引き渡した。

 だが、男の言葉が頭にこびりついていた。


 あいつは一人で動いているのか?

 それとも、背後に誰かいるのか?


 ……嫌な予感がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ