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『追放された毒使いの薬師は、辺境で最強の薬草園を作る ~パーティを追い出されましたが、僕の毒がないと皆さん死にますよ?~』  作者: 月代


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第1話 追放


「――お前はもう要らない」


 ギルド酒場の一角で、パーティリーダーのガルドが腕を組みながら言った。


 俺――レン・アシュフォードは、その言葉を聞いても、さほど驚かなかった。

 ここ数週間、パーティ内の空気が変わっていたのは気づいていた。


「理由を聞いてもいいか?」


「お前に回復魔法が使えないからだ。今度、聖女のセラフィーナが加入する。神殿お墨付きの正規回復役だ。お前みたいに薬をちまちま調合してるのとは格が違う」


 ガルドの隣に座る剣士のベリクが、にやにやと笑っている。その向こうでは魔法使いのミレーヌが目を逸らしていた。唯一、盾役のドルクだけが苦い顔をしていたが、何も言わない。


「……そうか」


「それだけか? 泣きつくかと思ったぜ」


「泣きつく理由がない。俺はお前たちの回復役として雇われたわけじゃないからな」


 ガルドの眉がぴくりと動いた。


「あ?」


「俺は薬師だ。薬を作り、毒を操り、戦場の環境そのものをコントロールするのが仕事だった。回復はあくまでその一部だ」


「だからなんだ。結果的にやってることは回復だろうが。しかも魔法より遅い、量も少ない。聖女がいりゃ全部解決する話だ」


 ベリクが口を挟む。


「つーかさ、レン。お前のやってることって地味なんだよ。毒がどうの、薬草がこうの――冒険者にそんな知識いらねえだろ。剣と魔法があれば迷宮なんて攻略できる」


 ……ああ、そうだろうな。

 そう思っているなら、何を言っても無駄だ。


 俺が【白銀の剣】に加入して三年。

 Bランクから始まったこのパーティをSランクにまで押し上げた自負はある。


 迷宮内の瘴気を中和する解毒薬を調合したのは俺だ。

 魔物が嫌がる忌避剤を撒いて、不利な遭遇戦を何度も回避したのは俺だ。

 ガルドが《呪毒蠍》の毒に侵されたとき、回復魔法では治らない複合毒を分解して命を救ったのも俺だ。


 でも、そういう仕事は「見えにくい」。

 派手な剣技や魔法と比べれば、誰の目にも留まらない。


「……わかった。パーティを抜ける」


「物分かりがいいじゃねえか」


 ガルドが机の上に革袋を放った。中を見ると、金貨が五十枚。


「手切れ金だ。三年の付き合いに免じて、それくらいはやる」


 Sランクパーティの三年分。本来なら、共有資産の分配だけでこの十倍はあるはずだ。

 だが、ここで揉めるつもりはない。


「ありがたく受け取る」


 俺は革袋をポーチにしまい、立ち上がった。


「じゃあな。元気でやれよ」


「おう。まあお前も適当なDランクパーティでも見つけて、ちまちま薬草採りでもしてろ」


 ベリクの嘲笑を背中に受けながら、酒場を出た。


 王都の空は、妙に澄んでいた。

 三年間背負っていた目に見えない重荷が、すとんと落ちたような気分だ。


「…………さて」


 行くあてはない。

 いや、正確にはひとつだけあった。


 師匠が昔、言っていたことがある。


『レンよ。お前が本当に薬師として生きたいなら、いつか辺境に行け。東の果て、ヴェルダン領の奥に"毒の森"と呼ばれる場所がある。あそこには、普通の人間が近づけないからこそ、手つかずのまま残された薬草がごまんとある』


 毒の森。

 あらゆる植物が毒性を持ち、空気すら瘴気に侵された禁域。

 冒険者も魔物もほとんど立ち入らない、忘れられた土地。


 普通の人間なら死ぬ。

 だが――俺は薬師だ。


 毒と薬は表裏一体。

 その境界線の上を歩くことこそ、薬師の本懐。


「……行くか」


 俺は王都の門をくぐり、東へ続く街道に足を向けた。


 ◇


 それから五日後。

 【白銀の剣】のことなど頭の片隅からも消えた頃、俺は辺境ヴェルダン領の端にある小さな村――ルーゲン村に辿り着いた。


 人口は百人もいないだろう。石造りの家が二十軒ほど、なだらかな丘の上に寄り添うように建っている。


 村の入り口に立つと、すぐに一人の少女が駆け寄ってきた。


「あの――旅の方ですか?」


 歳は十四、五くらいか。赤い髪をひとつに結んだ、元気そうな少女だ。だが、その頬はやつれ、目の下に隈がある。


「ああ。薬師のレンだ。しばらくこの辺りに滞在しようと思っている」


「薬師……!」


 少女の目が、ぱっと見開かれた。


「あの、薬師さん! お願いがあります!」


「どうした?」


「村のみんなが――病気なんです。もう三週間も、熱が下がらなくて。村に医者はいないし、領都に助けを求めたけど、こんな辺境の村のことなんか誰も相手にしてくれなくて――」


 少女の声が震えている。

 詳しく聞くと、症状は高熱、全身の倦怠感、そして皮膚に青黒い斑点が出るという。


「……それは薬草熱だな」


「薬草熱?」


「正確には《瘴気性風土病》。この辺りは毒の森が近いから、微量の瘴気が風に乗って流れてくる。普段は問題ないが、季節の変わり目に瘴気の濃度が上がると、体力のない者から順に発症する」


 少女が目を丸くしている。


「す、すごい……一瞬で分かるんですね」


「薬師だからな。――治せるぞ」


「本当ですか!?」


「ああ。必要な薬草は三種類。甘露草、銀葉草、それから……蛇舌花。この辺りに生えているはずだ」


「甘露草と銀葉草なら村の裏山にあります! でも蛇舌花は……毒の森にしか生えないって聞いたことが」


「問題ない。採ってくる」


「えっ!? 毒の森に入るんですか!? 死にますよ!?」


「大丈夫だ。毒の専門家だからな」


 少女――名をフィーネと言った――は、信じられないという顔をしていた。


 だが、俺は嘘をつかない。

 毒の森は確かに常人には致命的だ。しかし、俺は長年の薬師修行で百以上の毒への耐性を体内に作り上げている。


 師匠直伝の《毒身慣らし》。

 微量の毒を日常的に摂取し続けることで、体そのものを毒に適応させる古式の薬師術。

 おかげで俺の体は、並の瘴気程度では揺るがない。


「――行ってくる。夕方までには戻る」


「あ、あの! お名前は――」


「レンだ。レン・アシュフォード。……ただの薬師だよ」


 俺は村の東に広がる暗い森へ、一人で足を踏み入れた。


 第二の人生は、どうやらここから始まるらしい。


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