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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第一章 再編の針
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第八話 縁切

部屋の奥から、落ち着いた雰囲気の青年がゆっくりと姿を現した。


「よく来てくれたね」


柔らかい声だった。

だがその存在感は、部屋の空気を一瞬で静かに変える。


青年は黒いサングラスをかけ、白と黒を基調とした整った服装をしている。

髪は銀灰色で、背中の中ほどまで伸びた髪を後ろでひとつに束ね、細かく三つ編みにしている。

その長い三つ編みは歩くたびに静かに揺れ、光を受けて淡く輝いた。

その姿はどこか人間離れした、整いすぎた美しさをまとっていた。


「僕はグウェン・スクルディガー。ここ”再編の針(リ・ウィーヴ)”の代表をしている者だよ」


そう言って微笑む。

その笑みは優しいのに、どこか底が見えない。


「君の名前を聞いてもいいかな?」


紡は息を呑んだ。

「俺は……天野紡…といいます」

そう言い、視線を合わせようとした瞬間――


サングラスの奥で、何かが光った気がした。

次の瞬間、胸の奥が爆発したように苦しくなる。


―逃げろ逃げろ逃げロ逃ゲろにげろにげろニゲロ


(……っ、にげ……にげなきゃ……!!)


今までの比じゃない。


“逃げろ”が叫び声のように頭の中で響き、

足が勝手に後ずさろうとする。


まるで目の前に底知れない化け物と対面しているような、

足元からせり上がってくる恐怖に息が上がり、全身から冷や汗が出る。


「大丈夫。怖がらなくていいよ」

グウェンは一歩近づき、紡を観察するように静かに言った。


「……なるほど。君は異世界から来たんだね」

「っ……え……?」

「そして、召喚主に“中途半端な縁”を結ばれてしまった。

そのせいで、縁が複雑に絡み合って……君の身体が暴走している」


グウェンの声は淡々としているのに、

紡の胸の痛みだけがどんどん強くなる。


「可哀想に……今、楽にしてあげよう」


グウェンが紡の胸にそっと手を伸ばす。


その瞬間――

部屋に優しい光が広がった。


紡は息を呑む。

光は空気の粒子を震わせるように揺れ、

グウェンの指先から淡い糸のように伸びていく。


紡の胸のあたりがじんわりと温かくなり――

そこから、細い“糸”がするりと引き出された。


「……これ……なんだ……?」

胸から伸びる糸は二種類あった。


ひとつは淡く光る白い糸。

もうひとつは、黒く濁った不気味な糸。


二本はぐちゃぐちゃに絡まり、

まるで紡の心臓を締めつけるようにねじれていた。


「おや……驚いた。君にはこれが見えているんだね……」

そう言って、グウェンは光る糸をやさしく手に取る


「これが君の“縁”だよ。白いのは君本来の縁。

黒いのは……召喚主が無理やり結んだ命令の縁だ」


グウェンは絡まった糸を丁寧にほどき、

黒い糸だけを指先でつまむ。


「もう大丈夫。痛くしないからね」

そう優しい声で語りかけながら、

グウェンは自身の胸元から金色に輝くアンティーク調の鋏を取り出すと、黒い糸を静かに断ち切った。


その瞬間――

胸を締めつけていた痛みが、嘘のように消えた。


(……あれ……? 逃げたい……って気持ちが……)


さっきまで暴れていた“逃げろ”が、

まるで最初から存在しなかったかのようにぱたりと消え、

不自然なほどの静けさだけが残った。


「これでもう大丈夫」

グウェンは微笑んだ。

その笑顔は、どこか救いのようで――


どこか、現実から浮いたような冷たさを宿していた。




閲覧いただきありがとうございます。

よろしければ明日も読んでいただければ幸いです。


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