第五話 逃亡④
森の朝は、夜よりも静かだった。
鳥の声も虫の声もなく、ただ冷たい空気だけが漂っている。
俺は木の根元に座り込み、ぼんやりと空を見上げた。
(……寝れなかった……)
あの黒猫に置いて行かれてからというもの
目を閉じるたびに、
どこかで枝が折れる音、風の揺れる気配、遠くの足音――
そのたびに身体が勝手に跳ねて、逃げようとする。
(これ……本当に過労死するやつだ……)
よく分からない森の中に置いて行かれて……
訳の分からない体質になって……
まともに休むこともできない。
頭が重い。
視界が揺れる。
胸の奥ではまだ“逃げろ”がうずいている。
そんな時だった。
「君、まだこんなとこにいたのかにゃ」
木の上から、黒猫がひょいっと顔を出した。
「お前!!! どこいってたんだよ!」
怒鳴ると、黒猫は耳を伏せて尻尾をぱたぱた揺らした。
「どこだっていいじゃにゃいか。君に関係ないだろう」
「関係あるわ! この状況の半分はお前のせいでもあるんだからな!」
「はいはい。怒鳴らなくても聞こえてるにゃ。
全く。朝からうるさい人間だにゃ…」
黒猫はあくびをしながら毛繕いを始める。
「そんなことより。君、これからどうするつもりなのかにゃ?」
「どうするって……とりあえず、その変な“縁”っていうのを絶たないと……
このままじゃまともに休めなくて過労死するぞ……」
「かろうし……? ちょっと何言ってるかわかんにゃいな」
黒猫は半笑いで返してくる。
「とにかく!このままじゃ俺まともに休めなくて死にそうなんだよ!」
「あ~わかったわかった。うるさいなぁ」
「うるさいって……お前……!」
黒猫はくるりと背を向け、尻尾をゆらゆら揺らした。
「でもまぁ……君の縁、さっきよりもっとひどく絡まってるにゃ。
このまま放っておくと、本当に壊れるよ?」
「壊れるって……どうすればいいんだよ……」
黒猫はちらりとこちらを見て、にやりと笑った。
「簡単にゃ、“縁を切れる人”のところへ行けばいい」
「縁を……切れる人?」
「そう。君の縁を切れるのは、“あの人”だけだにゃ」
黒猫は木から飛び降り、軽やかに森の奥へ歩き出す。
「ついてくるにゃ。
面白いもの見せてくれたお礼に、ちょっとだけ案内してあげるにゃ」
「……面白いからって……」
「文句言うなら置いてくにゃ」
黒猫は振り返らずに言った。
胸の奥の“逃げろ”が、なぜかその方向へ引っ張られるように疼く。
(……行くしか、ないのか)
俺はふらつく足で立ち上がり、黒猫の後を追った。
ある程度エピソードは書き溜めているので
今後しばらくは毎朝7時に投稿します。
初めての作品なので読みづらいところとかあったら
教えていただけるとありがたいです……




