第四話 逃亡者
紡を追っていた人物の視点になります。
森の奥へと続く足跡は、常識では考えられないほど乱れていた。
転びかけた跡、急に方向を変えた跡、木の根を踏み台にしたような跳躍跡――
どれも普通の人間ができる動きではない。
「……やっぱりおかしいよ、あの動き」
エイラが眉をひそめ、弓を握り直す。
「禁術の影響か、あるいは……」
カティアは槍の先に炎を灯し、足跡を照らした。
赤い光が揺れ、森の影が不気味に伸びる。
「さっきの人……やっぱり禁術の協力者なのかな……」
「少なくとも、無関係ではないだろうな。
あいつがまとっていた甘ったるい匂い……あれは“高濃度マナ薬”の匂いだ。
あの場でも漂っていた。あそこから逃げた奴で間違いないだろう」
カティアの声は低く、警戒に満ちていた。
エイラは木々の間を見渡しながら、息を整える。
「カティア……一度戻ってレオンに報告したほうが……」
「そうだな。どのみちこの暗さでは、私たちだけでは見つけるのは困難だろう。それに……」
その瞬間、遠くから笛の音が聞こえた。
集合の合図だ。
「エイラ。集合がかかった。戻ろう」
「うん……」
―――
――
―
二人が森の入口へ戻ると、腕を組んだ青年―レオンが待っていた。
「やっと戻ってきたな、二人とも。逃げた奴はどうした?」
カティアが姿勢を正す。
「……逃げられました。動きが異常で、普通の人間とは思えませんでした」
エイラも悔しそうに唇を噛む。
レオンは少し目を細めた。
「逃げられた? お前たち二人がかりでもか?」
「申し訳ございません……」
二人は同時に頭を下げた。
レオンはため息をついたが、責めるような口調ではなかった。
「まぁいい。あの場にいた三人はすでに捕縛している。
グウェン様に視てもらえれば、逃げた一人もすぐに見つかるさ」
その言葉に、カティアとエイラは顔を上げた。
(……そうだ。“あの方”なら、縁の痕跡を辿ってすぐにでも見つけられる)
「よし、みんな。撤退だ」
レオンの合図でそれぞれ撤退の準備をする。
カティアは振り返り逃げた男がいた森を見つめる。
森の奥から、冷たい風が吹いた。
明日も7時くらいに投稿予定しています。
至らぬ点があると思いますが、よろしければまた見てください。




