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再編の針と失われた縁  作者: 神田長十郎
第一章 再編の針
4/9

第三話 逃亡③

暗闇の底に落ちたはずなのに、

地面は意外なほど柔らかかった。


苔のような、草のような……

湿った匂いが鼻をくすぐる。


「……っ、はぁ……はぁ……」


呼吸が荒い。

心臓がまだ“逃げろ”と叫んでいるみたいに脈打っている。


しばらく動けなかった。

頭の中がぐちゃぐちゃで、

何が起きているのか整理する余裕もない。


そんな俺の前に、黒猫がひょいっと降りてきた。


「あ〜おもしろかった! 最後のあの二人の顔! にゃはは」


金色の瞳が、暗闇の中で光る。


「……ここ、どこだよ……」


声が震えていた。

自分でも驚くほど弱々しい声だった。


「ここは“森の影の中”だにゃ。

普通の人間は入れない場所。

だから、追ってこれない」


黒猫は尻尾をゆらゆら揺らしながら言う。


「森の……影? なんだよそれ……」

酸素が足りてないのか、頭がぼーっとして思考がまとまらない。


「というか……お前、猫なのになんでしゃべるんだ」


「ん? 君、もしかして何も知らずについてきたのかい?

にゃはは。変な人間!」


「……いいから説明してくれないかな。

ここに来てから誰もまともに説明してくれないんだ。

何もわからないのは当たり前だろう」


息が整ってきたせいか、今までの出来事を思い出して腹が立ってきた。


「にゃははは! 可哀想! 呼び出されて、変な“縁”つけられて……

にゃふふ……君って本当に面白い!」


――質問に対して全然答えが返ってこない。

なんかわからないけど、こいつが俺を馬鹿にしているのはわかる。


「さっきも言ってたけど、縁……? なんだよそれ……」


問いかけた瞬間、

胸の奥がズキッと痛んだ。

まるで、誰かに心臓を握られたみたいに。


「う……っ……!」


思わず胸を押さえる。


「また反応してるにゃ。

きっとあいつらがお前を探しているからだにゃ」


黒猫が俺の胸元をじっと見つめる。

「君の縁は今、ぐちゃぐちゃに絡まってる。

あの老人の言葉が、君の中で“命令”になってるにゃ」


「命令……?」

「そう。君は今、“逃げろ”って縁に縛られてる」


縛られてる――

その言葉が、妙にしっくりきた。


止まりたいのに止まれなかった。

説明しようとしても身体が勝手に動いた。


全部、あの言葉のせいだったのか。

「……どうすれば……いいんだよ……」


情けない声が漏れた。

黒猫は、ふっと目を細める。


「簡単にゃ。その縁を切ればいい」


「切る……?」


「そう。一番簡単なのは、その縁を結んだ相手を殺すことにゃ」


「ころす……?」


――ころすって。あの老人を殺せと。そう言っているのか。


「そんなこと……できるわけないだろ!?」


「なんだ、君は優しいんだね。

じゃあほかの方法を考えれば?」


「考えれば……って。ほかの方法は教えてくれないのかよ」


「なんで僕がそこまでお世話してあげなきゃいけないんだにゃ?

君を助けたのは、そのほうが面白そうだったってだけにゃ。

何を勘違いしているんだにゃ」


黒猫はそう言うと毛繕いを始めた。


「あーもう飽きちゃったから、僕帰ろうかな」


――ん? 今“飽きた”って言ったかこいつ。


「おい、待て」


その瞬間――

視界が揺れ、森の奥から、ひんやりした風が吹き抜けた。


俺はいつの間にか、普通の森の中に戻っていた。


「ここ……森の中か……?

ちょっと待て。さっき“まだあいつらが探してる”って……」


そう言って黒猫のいたほうに顔を向けたが、

気づいた時には、黒猫の気配すら消えていた。

本当に、跡形もなく。


「おい! 黒猫! どこだ!」


あたりを見渡すも、黒猫の姿はどこにもない。

というか暗すぎて何も見えない。


「嘘だろう……」


俺の声だけが、森に吸い込まれていった。



予約投稿で試しに投稿してみました。

できていれば毎日投稿いける……!多分!きっと!


引き続き妄想にお付き合いください

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