第十話 休息②
パタンという静かに扉が閉まる音がして目が覚めた。
どれくらい眠っていたのだろう。
目を開けると、部屋の机の上に湯気の立つスープと柔らかいパンが置かれていた。
(……食事、持ってきてくれたのか)
さっきの扉の音。
おそらく俺が寝ている間にネロが置いていったのだろう。
紡はゆっくりと体を起こし、席に座る。
ふわっと優しい塩気を含んだスープの香りが漂い、ぐう、とお腹が鳴った。
銀色の匙を手に取り、スープを口に運ぶ。
温かさが喉を通り、胃に落ちていく。
それだけで、少しだけ生き返った気がした。
しばらく夢中で食事をとっていると、ふと気配を感じて振り返る。
「へぇ。少しはいい顔色になったんじゃにゃいの?」
黒猫がベッドの足元に座り、にやっと笑って尻尾をゆったり揺らしていた。
「またお前か。ほんと重要な時にいないよな」
「やだなぁ。ちゃんと居たさ。
あんな面白いもの、見逃すわけないだろ?」
ご機嫌そうな声だった。
紡は匙を机に置き、黒猫を見つめる。
「まぁ……おかげで助かったよ。ありがとう」
黒猫の金色の瞳がぱちりと瞬き、
次の瞬間、尻尾が嬉しそうにふわっと揺れた。
「……ふーん。
まぁ、もう十分楽しめたし、僕はもう行くにゃ」
「おい…ちょっと待て。俺は天野紡。
お前の名前を教えてくれないか」
黒猫は少し驚いたように目を見開き、
すぐに目を細めてフッと笑った。
「教えない」
それだけ言うと、影のように姿を消した。
「……可愛げのないやつだな」
少し苛立ちながらも、どこか寂しさが残る。
食事を終え、紡は空になった器をぼんやりと見つめた。
体の奥にじんわりと温かさが広がり、
さっきまで張りつめていた緊張がゆっくりとほどけていく。
ベッドに戻り、ふかりと身を沈める。
柔らかな布団が体を包む
(……今日は、本当にいろんなことがあったな……)
瞼が重くなる。
頭の中で、これまでの出来事が浮かんでは消えていく。
(……明日か……
やっと、何が起きてるのか……分かるのか……)
胸の奥に、ほんの少しだけ灯った“希望”の火が、
ゆらりと揺れながら温かく残る。
その温もりに包まれたまま、
紡の意識はゆっくりと沈んでいった。
静かな部屋に、穏やかな寝息だけが残った。
10話まで書くことができました。
各話が短いのでそこまでのことじゃないかもですが……
引き続き頑張ってみます
お付き合いいただければ幸いです。




