最悪な世の中
石破首相は、開票速報を見て笑った。
負け方が、完璧だったからだ。
比例も落とす。
地方も死ぬ。
テレビは「歴史的大敗」を連呼。
――ここまで来たら、やれることは一つしかない。
翌日の会見で、石破は国民を見なかった。
原稿も読まなかった。
ただ、こう言った。
「国民の理解は、必ずしも必要ではありません」
その瞬間、SNSが爆発した。
「何様だ」
「独裁者か」
「史上最悪」
石破は、内心でチェックを入れた。
――よし、効いてる。
次は政策だ。
・増税は「検討」ではなく「前提」
・給付は「甘え」
・地方は「効率が悪い」
・若者は「努力不足」
・高齢者は「コスト」
言葉を選ばない。
むしろ、刺しにいく。
街頭演説では、わざとマイクから距離を取った。
聞こえにくい声で、こう言った。
「嫌なら、選挙で落とせばいい」
罵声が飛ぶ。
物が投げられる。
警備が慌てる。
石破は満足だった。
――国民の最大の敵。
――これ以上、分かりやすい役はない。
支持率は一桁に落ちた。
ワイドショーは毎日、人格批判。
専門家は「政治的自殺」と断じた。
党内も騒然。
「もう辞めさせろ」
「顔を見るだけで票が逃げる」
その空気の中で、石破は総裁選の日程を発表した。
「この党には、新しい顔が必要です」
候補者たちは一斉に距離を取った。
「私は国民の敵ではありません」
「説明責任を果たします」
「対話を重視します」
会場は拍手に包まれた。
――やっと、普通がありがたくなった。
総裁選は無事に終わった。
新総裁誕生。
記者が最後に聞いた。
「首相、今回の一連の行動は計算だったのですか?」
石破は、少し考えてから答えた。
「計算できるほど、
国民は賢くないと思っていました」
翌日、その発言が切り取られ、炎上した。
だがもう、どうでもよかった。
石破は官邸を去る前、
壁に貼られた支持率グラフを眺めた。
急落した線が、
どこか美しく見えた。
――嫌われ役は、誰かがやらなきゃならない。
――英雄より、必要な役だ。
その夜、ネットにはこう書かれた。
「最悪だった。
でも、あれ以上の“地獄”は想像できない」
石破はそれを読み、鼻で笑った。
最大公害は、
処理されて、役目を終えた。




