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私と義弟の安全は確保できたので、ゆっくり恋人を探そうと思います。  作者: 織子


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最終話ー戴冠式


死に戻り、目が覚めて5年。やっと目的の半分を達成したのだ。ルシアンのおかげで。


「あ、でもお父さま、爵位をルシアンに譲っては駄目よ。私に譲ってちょうだい。ルシアンは皇帝になるのだから」


ルシアンは目をぱちくりさせた。

「え?皇帝は姉上がなるんじゃないの?」


「どうしてよ。王家の血を引いているのだから、当然ルシアンが皇帝よ。貴方なら確実に一国を治めていけるわ」


ルシアンはあごに手をあてて少し思案した。

「そう···それは良いけど、じゃあ姉上はどうするの?」


エレノアはパッと顔を上げて、よくぞ聞いてくれました!とばかりに話し始めた。


「私はこれから恋愛をするわ。結婚相手を探すの」


「ーーーーーえっ」

ルシアンは聞いたことのない間の抜けた声で、目を見開いた。ものすごく呆気にとられ、衝撃を受けている。


「恋愛····?結婚·····?誰と?」


エレノアは義弟の様子のおかしさに気付かず続けた。

「それは今から探すのよ。大公の爵位はとりあえず私が引き継ぐけど、傍系のディオンがもう少し大きくなったら譲ろうと思うの。それからゆっくり相手を探すわ」


父と母は、ルシアンが不憫で顔を背けた。

エレノアは少女のように微笑んで言った。

「私、普通の令嬢たちのように、きらきらした恋愛をするのが夢だったの」 



ビシリ。

確実に室内の温度が下がった。



「·····そう」 

ルシアンは顔も上げず、呟いた。


そこで初めてルシアンの様子のおかしさに気づいたエレノアは、首をかしげた。

「ルシアン?どうしたの?」


「僕は後処理があるから、もう行くよ。あとは任せて、姉上は休んでて」

そう言うとふらふらと部屋を出ていった。



「後処理って、ルシアンだけじゃ大変じゃないかしら?私も行った方が」

エレノアがベッドから降りようとすると、父が止めた。

「大丈夫だ。ルシアンには有能な部下が既にたくさんいるようだから。任せておけ」


(そうね。これからルシアンが国を治めるのだし、任せた方がいいかもしれない)


エレノアは布団に戻り、静かに目を閉じた。












ーーーーーーーーーーーーー


翌日、エレノアは王宮でルシアンのサポートをした。目を通す書類がたくさんあり、エレノアもいくつかサインした。

その翌日には大公邸の処理する書類も持ち込み、2人で手分けして目を通した。ある程度目は通したが、忙し過ぎてエレノアのサインをルシアンがすることもあった。


王宮の人事も総入れ替えし、ルシアンは貴族院を1年早く卒業もした。

革命から1ヶ月、城に泊まりきりで書類や人と会い、なんとか戴冠式まで執り行う所まできた。


「ようやく戴冠式に移れるわね。明日は衣装屋を呼んだから、時間を見つけて教えてくれる?」

「うん。姉上の衣装も一緒に頼もう。隣にいてくれるだろう?」


エレノアより背が高いのに、わざわざ屈んで上目遣いで言ってくる。若干のあざとさを感じるが、可愛い弟には逆らえない。


「わかったわ。貴方の戴冠式を隣で見れるなんて嬉しいわ」


ルシアンはにこっと笑った。


エレノアはルシアンの自然な笑顔を数えるくらいしか見たことがない。革命から1ヶ月、頻繁に見れるようになったこの笑顔が愛おしかった。






次の日も滞りなく終わった。衣装の合わせはすんだし、あとは戴冠式を待つだけだった。




戴冠式、前日。

今日は珍しく寝る前にルシアンが部屋に来て、「よく眠れるように」と香を焚いてくれた。エレノアの好きな花の香りだった。


(ようやく戴冠式まで来たわ。これからどうやって恋をしようかしら。あ、ルシアンにも良い人を見つけたいわ)


エレノアは、自分が選んだ深紅の外套を身に纏い、王冠を授かるルシアンの姿を夢見て眠った。












ーーーーーーーーーーーーー


(ーおかしいわ)

エレノアは夢であってほしいと心から思った。


何故、何故ルシアンの頭上にあるはずの王冠が、自分の頭上に掲げられているのか。



重たい王冠をズシリと感じ、エレノアが振り返ると、民衆が大きく歓喜の声を上げた。

「エレノア女王陛下!万歳!」

「エレノア皇帝陛下!万歳!」


エレノアは状況が飲み込めず、かろうじて動く首でルシアンを探した。

少し離れた場所で膝を付き、臣下の如く頭を下げているルシアンと目が合った。


ルシアンはにやりと笑って、また頭を下げた。


(ルシアン、あなた、あなた、一服盛ったわね····?)


歓喜の声を上げる民衆と、自分の頭上に置かれた王冠を見て、エレノアはもう引き返せないと悟った。


観念して神官から受け取った宝杖も掲げてみせた。


半ばヤケで笑顔を振りまいていると、ルシアンがゆっくりと近付いて来た。

エレノアは前を向いたまま言った。


「ルシアン。なんて事してくれたの。弁明があるなら聞くわよ」


大きな歓声で、2人の会話は2人にしか聞こえない。


「勝手なことをして申し訳ありません。ですが、亡国の血を色濃く継ぐ私より、やはり姉上が皇帝になるべきかと」

「·······」

至極当然な意見なため、反論は出来ない。とりあえずルシアンを睨む。


「あ、ご安心ください。姉上に盛った薬は、人体に悪い影響はないものですので」 


だからと言って、姉を傀儡のように動かす薬など盛らないでほしかった。

エレノアはため息を付いた。

「また、忙しくなるじゃない?」


「ええ。そうですね姉上。知らない相手と恋愛などしてる暇はありませんね」


エレノアの、もう一つの目的が遠のいていく。

「そんな···私の夢が」


「ですが姉上、ご安心ください。姉上の望む、きらきらした恋愛は僕がなんとかしますので」


誰か良い相手を見繕ってくれるのだろうか?エレノアは期待せずに言った。

「じゃあまかせるわ」


ルシアンの紫の眼が、獲物を捕らえたように熱を帯びて光る。

「言いましたね?」


その眼に一瞬どきりとして、エレノアは眼を反らした。そしてそのまま空を見た。


(私のもう一つの目的が叶うのは、いつになるかしら)


とりあえず、今は皇帝業を頑張ろう。安全は確保出来て、時間はたっぷりあるのだから。







ーーーーーーーー


完結です。ここまで読んでいただき、ありがとうごさいました。

短編で載せるか連載か迷ったのですが、連載にしました。また2人の続きを書きたいなと思ったら、書くことがあるかもしれません。


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