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私と義弟の安全は確保できたので、ゆっくり恋人を探そうと思います。  作者: 織子


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1/6

①ー戻された六年、私の誓い

前世で処刑された大公家の令嬢が、6年前に戻って運命を変えようとする物語です。

家族を救い、自分の「本当の願い」を見つけるまでの6年間を描きます。

後悔したってしきれない。

大公家の長女として産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていたけれど、本当はずっと羨ましかった。

お茶会やパーティーで花が咲く、令嬢達の会話。恋をしてピンク色に染まる微笑み。


18歳の若さで死ぬと分かっていたら、たった1度の人生ですもの。もっと自由に、花のある人生を送りたかった。


18歳で、反逆の罪を着せられ、散る運命だと分かっていたならーーーーーーー










「ーー姉上?寝てるのですか?」

聞き慣れた声より、ずっと高い声。


セレノア・グレイスは飛び起きた。


「ルシアン!」

覗き込んでいた義弟を、泣きながら抱きしめた。


「姉上、どうされました?怖い夢でも見たのですか?」

ルシアンは慌てて姉を引き剥がそうとしたが、セレノアも必死だった。温かく、生きている弟を確かめたかった。


ルシアンは引き剥がすのを諦め、セレノアの背中をぽんぽんと撫でた。

(生きている。ルシアンも、私も)


落ち着いたセレノアはルシアンを解放した。心配そうに見つめる弟に、セレノアは呟いた。

「小さい····」


ルシアンは真っ赤になって怒った。

「な?!姉上と少ししか変わりませんっ」


セレノアは慌てて弁明した。

「あっ、違うのよ。そういう意味じゃないの。ルシアンは今年で7歳だったかしら?」


ルシアンは真っ赤な顔から一気に青ざめ、冷ややかな表情になった。

「今年で10歳ですが。何ですか?7歳に見えるとでも言いたいのですか?」


セレノアは何を言っても失言になりそうで話題を変えた。

「お父様とお母様は?」


ルシアンはため息を吐き、立ち上がった。

「ホールでお待ちです。今から出発なさるそうですよ。お見送りに行きましょう」

そう言って手を差し出した。


セレノアが掴むと、ヒョイと引き起こしてくれた。

そのまま手を離さないセレノアに、少し照れて呟くのが聞こえた。


「どうしたんですか?今日は···」


セレノアはにっこり笑ってごまかした。











ルシアンが10歳と言うことは、セレノアは12歳。

グレイス大公家が反逆の罪で処刑されるのが18歳。6年前に戻って来たのだ。


(女神様が、私の切実な願いを叶えてくれたのかしら)


では、願いを叶えるためにまずしないといけないことがある。

 

処刑される未来を変えなければ。私たちの安全を確保しなければならない。ーー6年で。


そのあとに、本当の願いを叶えるのだ。







「お父様、お母様」


ホールに行くと、父と母が笑顔で出迎えてくれた。


「どこにいたんだ?セレノア」

「庭で寝ていました」

ルシアンが報告した。


「ふふ。出掛ける前に会えて良かったわ。王宮へ行ってくるわね」


父と母に抱きつき、いつもより長く抱擁した。離れないセレノアに、2人とも顔を見合わせた。


「どうしたんだい?元気がないようだ」

「ええ。起きてからこんな感じで···怖い夢を見ていたようです」

ルシアンもまた心配そうな顔をしている。


セレノアは笑顔で言った。

「大丈夫です。ちょっと淋しくなってしまいました。今日はどのような要件でお城へ行かれるのですか?」


父と母は、また心配そうな顔をした。

「朝に言っただろう?忘れたのかい?セレノアの婚約の件だよ」


「やっぱり心配ね。あなた、1人で登城していただける?私は子供たちと残ろうかしら」


セレノアはハッとした。

(婚約?あの性悪王太子との)


グレイス大公家が仕えるレグナント王家は衰退していた。現国王は政治を軽んじ、家臣に任せ、国を弱体化させている。人心も離れつつある傾国だ。王太子も然り。未来の望めない国だ。


「お父様、私は王太子殿下と婚約したくありません」

セレノアはきっぱり言った。


「何だって?昨日は喜んでいたが、本心か?」


父は動揺している。それもそうだろう。王太子殿下は顔だけは良い。以前のセレノアは、特に何も考えず麗しの王子様との婚約を喜んでいた。


だが、前の人生での婚約期間の酷い扱いを思い出すと、今はあの顔を視界に入れたくもない。



「あなた···」

「ああ。セレノアが嫌なら断ろう。私も王太子殿下との婚約は賛成とは言えない」

「ではやはり私も行かなければ」


一見、厳格な大公とおっとりしている大公夫人に見えるが、意見を曲げないことと、物事をハッキリ言うのは大公夫人である母だった。現国王の妹と言うこともあり、断るなら母も同行した方が良いだろう。






両親を見送り、セレノアは自室に戻ってベッドに突っ伏した。喜びをバタバタと足で表現する。

「ーーやった」


叫びたいところだが、ドアの外に使用人がいるので小声で噛み締めた。


(今回は王太子の相手をしなくてすむ!嬉しい!嬉しい!)


12歳で婚約して6年。顔を合わせるたびに嫌な顔をされ、他の令嬢に入れ込み、時には暴力も振るわれた。今生ではなるべく関わりたくない。



「お嬢様、ルシアン様がお越しです」


メイドの言葉に、突っ伏して喜んでいたセレノアは飛び起きて、ぐしゃぐしゃになった髪を押さえつけた。



「どうぞ」


ドアが少し開き、黒髪とくりくりの紫色の目が見えた。ー我が弟はどうしてこんなに可愛いのか。


何か聞きたい事があるのだろう。養子ということもあり、普段から大人びた弟だが、聞きづらいことを聞く時は我知らず可愛い態度になっている。


「ルシアン、どうしたの?」


「えっと、姉上····あの、王太子殿下と結婚しないのですか?」


「しないわ!絶対したくない。死んでもしたくないわ」

強めに言った。


ルシアンは勢いに驚いたようだが、満面の笑みを見せた。

「そうですか」


「ん?聞きたかったのはそれだけ?」


「はい。聞けて良かった」


ルシアンは珍しく頭を預けて来た。セレノアは嬉しくてゆっくり撫でた。


(私の可愛い弟、ルシアン。貴方も絶対に死なせないわ)

読んでいただきありがとうございます。

運命を変える物語、ここから始まります。

次話も読んでいただけたら嬉しいです。

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