悪人
気乗りしない合コン。
…いや、正確には相手が現れるまではノリノリだった。
さゆりの話だと『結構イケてる二人組』って事だったんだけど…
確かに一人は、長髪長身のなかなかの二枚目だけど…もう一人はおデブちゃん。
男女二対二。
企画したさゆりには当然権利がある訳で。
さゆりの狙いは二枚目の方だから、私の相手はおデブちゃん。
いやぁ、これはないわぁ…。
顎が二重だし、汗がスゴい。眼鏡が曇ってる。
汗で貼り付いたワイシャツも凄く嫌なんだけど、そのポケットに入ってるアニメの女の子の絵の付いた煙草ケースって…
私の最も苦手とするタイプだわ。
私は極力正面を見ない様にしてた。あーあ。来るんじゃ無かった…。
さゆりの相手は格好いいなぁと思ってチラチラ見ていた。
食事もお酒も二人だけで盛り上がってた会話も落ち着いた頃、
「なぁ、心霊スポットに行かないか?」
いきなり二枚目が言った。
…意味解んない。
「行ってもいい…」
おい、デブちゃん、お前もかよ。
「あー、あたしも行きたいなって思ってたの」
さゆり…あんたまで!
三対一では適わない。
結局行く事になった。
てか、二枚目がアルコールを飲まなかったのも計算づくだったのか。
イヤだなぁ。
時間も遅いし、もう解散したらいいのに…
気の弱い私が言えるはずもなく、店を出て陽一郎の車に乗り込む。
…どうせ私はデブちゃんと後ろの席でしょ!
車が大きいから密着はしないけどデブちゃんの熱気は解る。やだなぁ…
「ねぇ、どこ行くの?やっぱりMトンネルとか?」
さゆりが陽一郎に聞く
「隣の県のY村だよ。その村に出るって有名な家があるんだよ。」
「あ、私それ聞いた事あるー。なんか一族がみんな自殺したとか」
「いや、何でも錯乱した当主が一家を惨殺して最後に自殺したらしいよ。」
二枚目はにこやかに言った。
「ねぇクミコ、聞いた事ある?」
「無いわよ。そんな所に行って大丈夫なの?」
「大丈夫よ」
あっさりと言うさゆり。
何の根拠があるのやら…
「二人は行かない方がいいんだけどな…」
デブちゃんが小声でそう言った。
「何で?」
挨拶以来二回目の会話だ。
独り言だったらしく私がそう言うとビクッとして
「…うん。ちょっとね…」
と言った。
なんじゃそりゃ
車は山道に入っていく。
距離的には車で一時間位だと思う。
適当に酔いも回っていたのかうつらうつらしていた。
「なぁ、これ飲みなよ。」
陽一郎が運転しながら小瓶をキャップを器用に外して渡してくれた。
「ウコン?」
さゆりがラベルを見て笑いながら言う。
「ああ。飲んどくと後が楽だよ。」私の手元にも回ってきた。
よく売ってる品だ。
コンビニでもスーパーでも良く見かける商品だ。
「キャップが堅いから開けといたよ。クミコちゃんも飲んでおきなよ」
そう言って前を見たままキャップの開けてあるウコンの小瓶を渡してくれた。
飲もうと思ったら車は急カーブの連続した所に入った。
左右に体が動いて飲めたもんじゃない
大きな左カーブの時、短い太った指がサッと伸びてきて私の持ってたウコンの小瓶をひったくると開けた窓から外に投げ捨てた。
「ちょっ…!」
私が抗議しようとすると短い指で静かにするように私にゼスチャーした。
眼鏡の奥の小さな目が何も言わせない様に光ったので何も言わずにおいた。
まぁ飲みたかった訳じゃないからいいけど。
デブちゃんの違った面を見た。怖い…
陽一郎は運転に一生懸命でこっちには気付いていないみたいだった。
車はしばらく蛇行する道を登っていくと、小さな集落に着いた。
全部でも十軒程しかない小さな集落だ。
車のヘッドライトに照らされる建物は、どれも荒れている様に見える。
窓の落ちた壁は骸骨の目の部分のようだ。
陽一郎は集落手前の立ち入り禁止のフェンス前に車を停めた。
「来月にはここはダムの底に沈むんだよ」車を降りた陽一郎はそう言うと懐中電灯を手にさっさとフェンスの隙間を抜けて集落の中へ進んでいく。
さゆりも後を追う。
私もデブちゃんも仕方なく歩き始める。
集落を抜けて行くと広場の様な所があって真ん中に井戸があった。
厚いコンクリートの蓋がしてある。
その広場の先に背の高い壁がある家が建っていた。
ぐるりと海鼠壁が取り囲んではいるがあちこち崩れている。
陽一郎は知ってる家の様に塀を回り込み裏側の崩れた所から中に入った。
中は草が生い茂り、木は好き放題に枝を伸ばしていて、ちょっとしたジャングルみたいになっている。
陽一郎はその中にうっすらと残った道を歩いて進んでいく。
「ここだ」
陽一郎が立ち止まって見上げた先には壁の向こうから見えていた、大きな屋根の屋敷が建っていた。
私は全身に鳥肌が立った。
何か嫌な空気が周りに充満してる気がする。
さゆりも黙って建物を見上げている。
4人共何も話さない。
声を出したらこの嫌な空気が体に入って来そうな感じがした。
玄関には大きな南京錠と鎖で鍵がしてある。
ここからは入れない。
てか、もういいし。
こんな薄気味悪いとこ早く帰ろうよ。私はそう思ってた。
他の窓の部分にはベニヤ板が打ち付けてある。
陽一郎は建物を右に回り込む様に進む。
崩れた縁側のある窓の所に行く。
ここもベニヤ板が打ち付けてあり、とても中に入り込める様な状態ではない。
しかし、陽一郎はそのベニヤ板の下に手を掛けると少し持ち上げて手前に引いた。
ガコッという音がしてベニヤの壁が手前に開いた。
「前来た時に見つけたんだよ。」
陽一郎が押さえてる間にイヤだけど順番に隙間から中に入り込む。
ひんやりとした空気が一段と濃い気がする。
暗闇が実体を持った様にそこにある。
最後に陽一郎が潜り込んで来て、ガタリとベニヤの壁を戻す。
懐中電灯の灯りは外ではあんなに頼りなかったのに室内だととても明るく見えた。
照らし出された部屋は放置されてたという割には案外埃も少なかった。
部屋には畳以外何も無かった。
奥には障子が見える。
「…あたし頭痛い」
さゆりがこめかみを抑えている
「ちょっと、さゆり大丈夫?」
「…うん」
具合が悪そうだ。
帰った方が良くないかなぁ
こんな空気吸ったからだよ
なのに陽一郎は奥に入っていく。
「こっちだよ。」
なんだこいつ!
懐中電灯を持ってるのは陽一郎だけだから陽一郎が奥に行ったらこっちは真っ暗になる。
付いて行くしか無さそうだ。
さゆりの手を取って仕方なくついて行く。
次の間を過ぎると廊下に出る。廊下も広くて見るからにお金をかけた家って言うのがわかる。
陽一郎何か腹立つ。
勝手知った我が家の様にスタスタと進んでいって、時々振り返って早く来いと云わんばかりの表情でこっちをみる。
建物は大きなコの字をした建物の様だ。右側にいくつもの部屋が並んでいる。
廊下は突き当たり、左に向かう。
あれ? 私は違和感を感じていた。そうだ。なんでこの建物は空気が澱んでないんだろう…
一夏締め切っていた家の空気がこんな訳ない。
陽一郎はある扉の前で立ち止まった。
外は襖だったり障子だったりしたのにその扉だけは高さが1メートル位の木製のしっかりした引き戸だった。
陽一郎はガタガタとその引き戸を開けた。
中に入ろうとしている。
さゆりは何だかグラグラしている。
「ちょっと!あなた!さゆりが具合悪いのに一体どこまで行くつもりよっ」
私は我慢の限界が来て怒鳴ってしまった。
「ああ、解ってるよ。ちょっと早かったな…。だから、早く入って!」
陽一郎はさゆりがこうなるのが解ってたの?
私たちは急かされる様にその扉の中に入った。
中は階段になっていて下に向かって延びている。
暫く降りるとまた扉がある。
その扉の向こうは教室半分位の部屋になっていた。
何なのここは…
ボッと音がして急に部屋が明るくなった。
陽一郎がランプに火を付けたんだ。
変色した壁紙。絨毯がしいてある。
革張りのソファーもある。
私はさゆりをソファーに寝かせた。
さゆりはぐったりしている様だ。
でも息は正常にしている。
眠っている様だ。さゆりがあの位のお酒で酔いつぶれる訳はない。
私の頭の中に嫌な考えが浮かぶ。
「まさか…あなた!」
「ああ、やっと解った?薬だよ。さゆりちゃんはたくさんアルコール呑んだからね。もうすぐ君も同じようになるよ」
「あのウコンね?!」
「ほらウコンって独特な匂いや風味があるからさ、多少薬入れても解らないんだよね」
私はさゆりの側に立って陽一郎から守る様にした。
「無駄だよ。君も今に寝ちゃうんだからさ。それとも意識のある内に楽しもうか?」
こいつ鬼だ。
「ふざけんなっ。誰がお前なんかと!」
陽一郎はそれを聞くとうっすらと笑ってポケットからナイフを取り出した。
「ほら、知ってると思うけどここは廃村。叫んでも誰も来ないし、もしここから出れてもどうやって街まで降りる?」
陽一郎はじりじりと近づいてくる。
「…さっき車の中で話したよな。一家惨殺したおっさんの話。あのおっさんはこの家で殺して広場の井戸に放り込んだんだってよ。
お前も抵抗するなら井戸に放り込んでやってもいいんだぜ。どうせ近々この村は水没するんだからな。」
もう目の前に陽一郎は立っている。
「あなたは何でこんな家や部屋の事まで知ってるのよっ?」
「ああ、何度も来てるからな。」
「何人も女の子を…」
「そうだよ。バカな女をさ、合コンで拾って心霊スポットって言えばホイホイついて来るからな。
おらっ!早く脱げよっ」
「あなた最初からそのつもりで…」
「そうだよ。それ以外に何がある?しかしお前もしぶといなっ早く寝ちまえよっ。今日はダチが来れなかったから俺が一人で二人可愛がってやるよ。」
「あのデブはどうしたのよ!」
「はあ?誰がデブなんだ?」
「一緒にいた太った男よ!」
「何訳解らなねぇ事言ってんだよ!最初から三人だったじゃねえか。デブって…」
そう陽一郎が言ってる時、ゴスッと鈍い音がして陽一郎が崩れ落ちた。
木製の柱時計を手に持ったデブがその後ろに立っていた。
「あっ!デブ!」
デブは倒れた陽一郎の傍らにしゃがんでポケットを探り、車のキーを放ってきた。
「早くここから出た方がいいよ。」
そう言ってさゆりを揺すって起こして、そばに落ちていた懐中電灯を渡してくれた。
「さあ早く!」
私はさゆりを起こして引きずる様に小部屋を出て階段を登った。
後ろで扉の閉まる音がした。
ガチャンと鍵の掛かる様な音もした。
ドンドンと扉を叩く音と「…てめえら待ちやがれっ!!」と言う声が聞こえた。
…うわぁっ!誰だてめえっ
後ろから声は聞こえていたが私はひたすら階段を上って背の低い引き扉をくぐって廊下に出た。
引き扉は私たちが出た途端に後ろでバーンと音を立てて閉まった。
さゆりも目が覚めたらしく不思議そうな顔をしながらも一緒に逃げる。
入って来た窓の所からベニヤ板を押して外に転げ出た。
「ねぇクミコ、何があったの?」
「いいから走って」
すぐ後ろに陽一郎が来ている様な気がして、もつれる足で転びそうになりながらも走った。
懐中電灯の弱い光の中に広場の井戸が見えてきた。
ひっ!
井戸の縁に幾つもの顔が見えた。
分厚いコンクリートの蓋は見あたらなかった。
井戸の中から覗く様にして鼻から上だけ出してこっちを見ている。
四つの頭が見えた。
さゆりも見えたらしく二人で固まる様に逃げるのも忘れてその四つの顔を見ていた。
ズリッ…ズリッ…
と音がする。縁に手が見えた。
這い上がってくるっ!
私はさゆりの腕を掴んで井戸を迂回するように集落の出口に向かった。
フェンスの向こうの集落の外にあの下品で大きい陽一郎の車が停まっているのが見えた。
「ぬしら、どうした?」
ひっ!
いきなり声を掛けられてびっくりしてしゃがみこんでしまった。
・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー
〈少しだけ時間を戻す。〉
「何でこんな時間にこんな所に来なきゃならないんだよっ」
「ぼやくな高山。
明日はこの件で別の用事があるんじゃ。今夜中にその井戸を見ておかねばならんのだ。」
「高山さぁ、単に怖いだけなんじゃないの?」
下田が言う。
「そんなこと…」
…いや、…本当はマジ怖いよ。
大塚の運転する車は山道をグネグネと上っていく。
「お、先客がおるようじゃな」
車のヘッドライトの明かりの中に白い高級車が停まっているのが浮かび上がった。
車を置いて歩き始める。
嫌な感じの所だ。
車の向こうにはフェンスがあり侵入を拒んでいる。
「なぁ、大塚、ここは何なんだよ?」
「知らんか?何年か前に父親が一家を殺して自分も自殺した事件を。」
その事件なら覚えてる。
確か父親が錯乱して家族四人をバットで家族を惨殺したんだ。そして最後に自分は自宅で服毒自殺したっていう事件だった。
「覚えてるよ。イヤな事件だったよな。…え?それがこれから行く所なのか?」
「そうじゃ。知らんかったのか?
その集落は今度できたダムで水没するのだ。
…そこに住んでた人たちは代替地と契約金を貰って移住する事になったんだが…最後まで判を押さなかった一家があってな。一番山林を持っていたんだ。そこの一家が持っている土地の買収が終わらないと契約金も全額は出ない、工事を一旦中止して裁判になる取り決めだったんだ。
まぁ、そんな事件があって最終的にはダムは出来たんだが…。」
「移住した人たちがみんな怪死していってるんだよな。」
下田が続けた。
「原因はこの集落にあると思うのだ。だから来てみた。」
「ああ、夕方会った老人がこの村の村長だったんだな。」
僕はここに来る前にあった意地悪そうな痩せた老人…今回の依頼人…を思い出した。
やっと僕の中で話が纏まった。いつものごとくあれよあれよと言う間に連れて来られたから解らなかったんだ。
僕らはフェンスをくぐった。
「待て、誰か来る」
向こうから懐中電灯の明かりが揺れながら近付いてくる。
出たか?!
近付いて来たのは女の子二人だった。
明らかに様子が変だ。
「ぬしら、どうした?」
大塚が声を掛けると ひっ! と言ってしゃがみこんでしまった。
「心配せずともよい。大丈夫か?」
「…お…追われて…るん…です」
「誰に?」
「よ…陽一郎と言う男にっ。薬飲まされて襲われそうになったんですっ」
「なにぃ?!」
下田がキッと暗闇を見る。
ヤバいな…相手の男が…
僕らはとりあえず大塚の車に二人を乗せて、持ってきていた水を飲ませた。
「説明は落ち着いてからで構わんから。まずは落ち着け。」
クミコと名乗った女の子は水を飲むといきなり話し始めた。
さゆりと言う女の子は薬の影響らしく頭が痛いと言って横になった。
僕らは話を聞いて激怒した。
特に下田が酷かった。話を聞きながら目の前に停まってる車のナンバーと車種を仲間に電話してた。
下田ネットワークなら誰か知り合いもいるかもしれない。
…タダじゃすまないな。
「高山、警察に電話しろ。未遂とは言え強姦だ。傷害は立件できる。…いや、待て、その前にその男は一体どうしたんだ?追いかけて来ぬが…」
「まだ部屋から出られないのかも…」
「…見に行くか。」
みんなが大塚を見た。
わざわざ行かなくてもいいじゃん。
正直そう思ったんだけど…
「下田、行きたいのは解るがこの者たちを守ってやってくれ。高山、行くぞ」
…はいはい …行きたくないなぁ
大塚と二人で集落を進む。
誰もいない。
途中広場があり井戸があった。クミコに聞いた通りだったが四つの顔は見あたらなかった。
ただ、感情が怒りの様な寂しい様な独特な高ぶりがあった。
僕らは井戸を抜けて更に進む。
正面に大きな屋敷が見えてきた。これがさっきクミコの言ってた建物か…
歌舞伎門はびたりと閉ざされた上、木が打ち付けてある。
さっき聞いた様に建物を回り込むと塀の崩れた所がある。
入り込み、縁側のある窓まで進む。
ベニヤ板の覆いを外すと確かに人が入れる程の隙間が出てきた。
ぽっかりと空いた穴は深い井戸を覗いた時の様に背中がゾクゾクとした。
「ぬしから入れ」
「…」
いつもこうなんだよな。
四つん這いになって中に入り込む。
日本間の様だ。
後から大塚も入ってきた。
言われていた通りの道順で進むと、背の低い引き戸があった。
「これか…」
指を掛けて引くと簡単に空いた。
階段が続いている。
「防空壕か地下室…いや、隠し部屋か…」
階段を降りると木でできた扉がある。
扉は少し開いていてそこから光が漏れている。
「入ってみよ」
僕が扉を開くと中にはランプと壊れた壁掛け時計とソファーが見えた。
他には人もいないし物もない。
「誰もいないじゃないか」
「…よく壁と床を見てみよ」
大塚の指す所を見ると壁紙に引っ掻いた様な傷と血が。
爪でも割れたのか
床には何かを引き摺った様な跡が付いている。
床の跡は幅が30センチ位の二本が出口に向かっている。
「なぁ大塚、これって誰かが引き摺りだされた跡だよな…陽一郎が引きずり出されたのか?
」
「…ここには…悔しさと怒りの残滓はあるが…恐らくその陽一郎とやらはここで悪行を繰り返しておったのだろう」
「被害にあった女の子の感情って事か? 一家惨殺された霊じゃないのか?」
「ぬし、何か勘違いしておるな。
ここは一家惨殺の家ではないぞ。
門の表札の名前が違ったであろうが。」
「え?」
「ここはさっきの村長の元の家だ。村内の水没しない高台に土地を貰って、自分は街に住んどるがな。」
「そうなのか?じゃここにある怒りの念は…陽一郎に対しての怒りの念なのか…。
惨殺された家ってのはどこなんだよ?
それより、陽一郎はどこに行ったんだ?あとクミコの言ってた太った男は?」
「一度に聞くな。わらわにもまだ解らぬ。
追い追い解ろう。出よう。」
大塚はそう言うとランプを持って部屋を出た。
僕らはランプであちこちの部屋を調べながら回ったが、屋敷内には家具も物も殆ど何も残っていなかった。
「何にも無かったな」
と屋敷を出てから大塚に言うと
「この屋敷は単に陽一郎に使われただけの様だな」
と言った。
僕らは他の廃屋に残っている表札を順番に見て行った。
村長の家から何軒か離れた家を覗いた時だ。
うわっっ!
玄関の横のガラスの抜け落ちた窓から歪んだ顔がこっちを見ていた。
いきなり悲しみと怒りの感情が僕に流れ込んでくる。
「この家だ。」
うん 言われる前に解ったよ… 思いっきりこっち見てるじゃん
「…」
大塚は手印を組んで祓いを始めた。
窓から覗いていた顔は暫くじっと見ていたが、
ゆっくりと左右に揺れはじめた。
このまま消える… と思いきや窓から這い出てきた
うわぁぁぁっ!
驚いて尻餅をついた
霊はそんな僕のすぐ横をすうっと抜けて行った。
「大丈夫か?」
「…出てきたぞ。どこに行くんだ?」
僕たちは霊の向かった方に進んだ。
道は一本しかない。
先には広場が…あ、井戸か!
井戸には半円形の厚いコンクリートの蓋がしてある。一枚だけが少しズレていた。
クミコの話だと蓋は無かったはずなんだけどな…
あれ?行きには気付かなかったな。
ゴッ…
半円形の蓋が少し動く。
隙間から手が出ていて蓋を閉めようとしている。
その手は骨ばって白い。
対して力を入れている様子でもないが何十キロもある蓋が難なく動いている。
「大塚…」
「…」
大塚は何も言わず見ている。
大塚には僕と違うモノが見えているのだろうか
ジャリッ と音がして二枚の蓋がキチンと閉まった。
「…解らぬ。一旦下田の所に戻ろう」
大塚は祓うでもなくスタスタと戻って行く。
どうしたんだ一体…
フェンスの所に近付いて気付いた。こっちも大変な事になっていたみたいだ。
大塚の車の後ろにパトカーがいた。
警官の一人が僕らの近づくのに気付いた
下田も気付いてホッとした表情をしてこっちを見た。
「君たちはこの人達の友人?」
警官にそう聴かれた
「はい。陽一郎という男は来ましたか?」
「いや、話は聞いたんだけど戻って来てない。君たちは中で何をしてたんだ?」
「陽一郎を探しに行ったんです。お巡りさんは何でここに?」
「110番があったんだよ。助けてくれって」
「誰から?」
「○○陽一郎って名乗ったんだよ。」
僕たちはパトカーの先導で一旦街まで戻った。
入れ違いに陽一郎の探索の警官が多数廃村に向かったらしい。
僕たちは会議室に通されて三人の警官から代わる代わる全員にしつこく聴かれた。
なぜあそこにいたのか?何をしていたのか?と。
僕らは霊の話は抜かして全て事実を話した。
そして村長に連絡をしてもらって無実を証明してもらった。
女の子二人は陽一郎の車にあった睡眠薬入りの小瓶やメールなどで証明した様だ。
ただ、デブの男に関してはさゆりも見ていないし覚えてもいないと言う。
見たのはクミコだけだ。
『最初から陽一郎と私たちだけだったじゃん。…そう言えばクミコ、飲んでる時も車でも独り言を言ってたね。』
そうさゆりは言った。
そして飲み屋のレシートを見せた。
ポイントを溜めてると言う理由でみんなからお金を集めてさゆりがカードで支払ったんだ。
『テーブル8…人数3…ほらね』
警官はそのレシートを見て、クミコの勘違いだと纏めた。
クミコは納得いかない様子だった。
さゆりは警察の勧めもあって被害届を出した。
朝が来て5人は解放された。
5人は大塚の車で近くのファミレスに行った。
「参ったよ。車の窓を叩かれて振り返ったら警官だもの」
下田は笑いながら言った。
「しっくり来ないんじゃ。」
大塚は悩んだ様子なのにバクバクとホットケーキを食べながらそう言った。
「何が?」
「ちぐはぐなのだ。解らぬか?わらわ達は怪死する村人の原因を調べに行った。
クミコ達は陽一郎に騙されて連れて行かれた。
確かにあそこには惨殺された一家の霊はいた。しかし、それを封じようとするわらわ達には霊は何もしなかった。逆に霊には全く関係なく、違う家に連れ込んでいた陽一郎は霊に連れて行かれた。」
「霊も陽一郎に腹をたてたんじゃないの?」
下田は言った。
「それはあるかもしれぬな。だが、何か在りそうだな…少し調べてみようと思うのだが、ぬしら手伝ってはくれぬか?」
…頷くしかないよな
僕らは夜また会う事にしてそれぞれ調べる事になった。
大塚と僕は一家惨殺の事件について。下田は陽一郎について。
クミコとさゆりは一旦休んでから陽一郎との出会いとクミコしか見ていないデブの事について細かく思い出して書き出す様に。
みんなと別れた僕らは開いたばかりの図書館に向かった。
「なぁ大塚、調べるって何を調べるんだ?大体テレビや新聞である程度みんな知ってるだろ?」
「黙ってよく読め。何かおかしい所はなかったか?」
「…さっきから読んでるけど目新しい事はないぞ。…あ、一家惨殺だと言ってたけど一人生きてるんだな。」
「なに?!どこじゃ?」
僕はパソコン画面のページを戻した。
それは地方紙一社だけ、一行だけ載っていた。
『別居していた次男は無事』
「…解ったぞ。次は○○建設のホームページを出せ。早くっ」
「○○建設?そこは今回のダム工事には関係ない会社だろ?」
「いいんだ。」
大塚はその建設会社の広報部の電話番号を控えた。
…何が解ったんだよ…?
図書館を出るとどこかに電話をした。
切ると次は地方新聞社に電話をして記事を書いた人に繋いで貰えるよう依頼していた。
「…そうですか。解りました。ではお電話頂けるのをお待ちしてます。」
そう言って電話を切った。
「なぁ、何だって?」
「ああどうせ元請けの建設会社の広報は何も教えてくれぬからライバル会社の担当者に詳しい事を教えて欲しいと頼んだんだ。
新聞社はあの文章は誤報で記者は解雇になったそうだ。
今はフリーの記者らしいから連絡をして貰うように頼んだ。」
「間違った文章って事か?」
「何も無いのに書くことはせんだろ。聞いてみなくてはな。」
…調べようと思い労力を惜しまなければ大抵の事は解るんだな…変に納得した。
その後一旦、僕はバイトに行き、大塚は黄梅院に帰った。
「電話を待ちながら少し寝る」
と言ってた。
僕はバイト先で授業をしながら陽一郎はどうなったんだろうと思っていた。
夜になって授業が終わり自転車飛ばして黄梅院に寄る。
既に下田と(多分呼ばれて来た)ユージとさゆりとクミコは来ていた。
「おー高山お疲れ。さあ始めよう」
大塚は話始めた。
「まず、警察から連絡があった。
陽一郎は発見された。
あの広場の井戸の中でな。深さ25メートルの底にいたそうだ。枯れ井戸なのに怪我もなくな。」
「それって…」
「まぁ聞け。陽一郎は手に紙切れを握っていたそうだ。それは惨殺された家族の一人が書いたものだ。内容は後で話す。
さゆりもクミコも一家惨殺の事件は知っておるな。
あれは主人の犯行ではない。」
みんなが大塚を見る。
「ダム建設に当たって契約で揉めたのは知っておろう。
あの主人は最後まで判子を押さなかったのだ。
一番山林を持っていたあの一家が判子を付かねば契約は流れる。
理由?あの主は村議会で村長と争っていたんだ。ダム推進派の村長と反対派のその一家でな。
あの集落の人達はあの一家以外はみんなダム推進派だったんだ。
その人達はさっさと判を付いて契約金貰って同じ村内の新しい住宅地に引っ越ししたいと思っていた。
国や県との契約には期限があってな、その期限までに集落全体の意見を纏めないとまた期限が伸びるんだ。
実はあの村では、すぐ後に村長選挙と村議会選挙がある予定だったんだ。
それでもし現村長派が負けて反対派のあの一家の主が村長になると村全体が反対という結論になる。
契約も難航するよな。
もし強制執行になったら土地の相場の金額にしかならん。
しかも建設会社も一次工事は済んでいる。二次工事から完成まで持っていかないと入金もない。
契約金をアテにしていた賛成派は困った事になる。勿論建設会社もな…」
「おい、それって…」
下田が言った。
大塚は続けた。
「ああ。恐らく反対派があの一家を惨殺して主の犯行に見せかけたんだ。」
「でも警察が介入して調べただろ?」
「他の村人みんなが『あの主人が死体を井戸に投げ入れていたのを見た』だの『血の付いたバットを持っていた』だの証言したのだ。警察が信じるのも無理はなかろ?」
「じゃああの一家は…」
みんな静かになった。
そんな恐ろしい事ができるものなのだろうか…
「次にこれを見てくれ。」
大塚は茶封筒から一枚の写真のコピーを取り出した。
「あっ!デブ!この人よっ!」
クミコが叫んだ。
写真には銀縁メガネの色白な太った男が写っていた。
「…こやつは○○次郎と言ってな、惨殺された一家の次男だ。当時地方紙で記者をしていた人間に持っていた資料からFAXしてもらったんだ。
実は次郎は事件の一年程前に東京に出ておってな…
一応村人には『父親と折り合いが悪くて勘当した』と言う事になっていたが…父親は毎月仕送りをしていたそうだ。」
「何のために?訳解らんな。勘当して仕送りって」下田が言う。
「逃がしたんじゃ。ダムの話がこじれて暴力団やら何やらが嫌がらせや圧力をかけ始めたのが一年半前。
大きな利権が関わる事業が故、反対派には酷い嫌がらせがあったそうだ。
こっちの写真を見てくれ。」
次の写真は痩せ気味だが精悍な感じの青年の写真だ。
「これが村にいた頃の次郎だ。」
「えーっ!」
「別人じゃん」
みんなが言う。
「そう。別人になるように無理に太ったんだ。
恐らく父親の指示だ。
…しかしな、村で事件がある前日に東京で通り魔に襲われて死んでおる。」
「うそっ!」
クミコは口に手を当てて驚いている。
「本当じゃ。警察の五十嵐に聞いたが犯人は解っていない。反対派がヤったんだろう。あと、次郎の部屋は荒らされておってな。何を探したのか何が無くなったのか解らぬままなのだそうだ。
これも憶測じゃが、父親が反対派の違法行為の資料や証拠を送って保管させていたのではないかな。村にあっては危ないと思ってな。
しかし見つかって殺された。」
「いや、しかしだな、そこまでするか普通?」
「普通では無かったんだろう。あと、陽一郎が何者か解ったか?わらわの方でも調べたが。」
「ああ解ったよ。最近クラブや飲み屋街に現れた奴で、羽振りが良かったらしいぜ。なあユージ」
「あいつ新興街金の社長っすよ。△△金融って会社の。近くのスタンドのダチが知ってました。あんまりいい商売して無かったみたいっす。手形回したり取り立て行ったりするのが主だったって。」
「ぬし、よく調べたな。
…そしてもう一つ。
陽一郎は…あの村長の息子なんじゃ。」
みんなが大塚を見つめる。
マジかよ。
今回の件を依頼してきた奴の息子…。
それならあの家の構造も何もかも知ってるのは当たり前だ。
「陽一郎が握っていた紙にはな、惨殺された一家の主の自筆で自分が命を狙われている。
元村長と陽一郎の会社の人間に殺されるかもしれない。と嫌がらせをされた内容や日時が詳しく書いてあったのだ。
…果たして誰がどこに隠していたのかは解らんがな。
一家の霊は陽一郎にそれを握らせたんだ…。」
「警察はそれを見つけたんだな。」
僕は確認を取った。
「ああ。警察も確認しておる。今頃は大騒ぎであろうな。」
「大塚さん、私が会ったあの次郎って人は、何で私だけに見えたんでしょうか?」
クミコが聞いた。
「解らぬが、クミコが元々霊能が強いか…次郎が敢えて姿を見せたかったからか。少なくともクミコを助けたかったのであろう。」
「…それは恋だな。恋の伝道師フランシスコ・ユージに言わせるとよ。醜い自らの姿をさらしてもあんたを助けたかったんだよ。解るか?この男心がだな…」
「ユージ喧しい!…こんな馬鹿の話はともかく、守って貰って良かったな。」
下田は一刀両断で打ちきった。
「…姐さん酷いっす」
みんなで笑った。
「後は証人として見ていて欲しかったのかもしらん。もし、さゆりだけだったなら戯言として処理されたかもしらんであろう。」
僕らはその後色々話をしたが今日はここまでしか情報が無かったので解散になった。
みんな帰った後、大塚と二人で話をした。
「なぁ、これからどうする?」
「病院に行くぞ」
「…息子…陽一郎か」
僕らは車で陽一郎の収容された病院に向かった。
病院は隣の県の有名な大学病院だ。
正面玄関こそ閉まってはいるが夜間受付には患者が沢山いる。救急車溜まりにも赤灯をピカピカと点けた救急車が何台も停まっている。
受付横の守衛所に寄って村長の名前を告げると守衛はどこかと内線で話をしていたが、何度かこちらを見て頷いて首から掛けるパスを渡してくれた。
12階の特別室に行くと部屋の前に警官と村長が立っていた。
警官に会釈して村長に話しかける。
挨拶するとかすれた声で「どうぞ」と言って中に入れてくれた。
僕は気付いていた。
村長の足首にしがみついている女の霊に。
その霊は頭がいびつに凹んでいて左目が半分位飛び出ている。
叫びたい衝動に駆られたが堪えた。
病室には拘束具で固定された若い男がじっと天井を見上げていた。
天井には男の霊が張り付き下の陽一郎をじっと見ている。
我々が来たのも気付いていないようだ。
「今は暴れて疲れたのと鎮静剤で静かにしていますが、来るな来るなと叫びながら暴れまして…。」
「…」
「何人かの村人の怪死した後ですし…次は我々の番なのかなと。」
「…順番が違う所を見ると殺す気は無いんじゃないですか?」
「それはどういう意味だ?」
村長の目がギラリと光る
「ご自分が一番ご存知でしょう。あの一家の念は一生付いて回るんではないですかね?」
「…!」
大きく目を見開き僕たちを凝視したまま動かなくなった。
「…では失礼します。」
何も話さなくなった村長にそう言うとスタスタと病室を出た。
病院を出て、車に向かう途中で後ろから声を掛けられた。
「すみません」
振り返ると太った銀縁メガネの男が立っていた。
「…次郎さん」
僕にはそれが霊だとは思えなかった。
深夜にも関わらずハンカチで汗を拭いている。
あまりにリアルだ。
「あなた達はうちの一家の霊を浄霊も除霊もできただろうに、敢えて手を出さなくてくれてありがとう。目的を達したらちゃんと行くべき所に行きます。」
「む。それが良かろう。クミコを助けてくれてありがとうな。」
「…本来ならもっと早く陽一郎を今の様にしておけば良かったんですが…。
陽一郎の悪行と我々一家の恨みを一度に晴らしてしまおうと。
あいつは私の妹まで…。
妹は最後まであいつを信用していました。自分の頭をバットで潰されるまでね。
陽一郎は利権の為に部下を使い私の家族を皆殺しにしたのです。
その後は無人となった集落に女の子を連れ込んでは悪行三昧。
ただ殺す訳にはいかないと思いました。
陽一郎にあの手紙を持たせて警察に発見させようと計画しました。
その際、陽一郎があの家から姿を消したと言う証言をして欲しかったのです。
本来なら女の子から警察に電話して欲しかったのですが、錯乱した陽一郎自身が電話したので…。結果的にはあれで良かったのですけど。
…理由はともかくクミコさんには嫌な思いをさせました。
謝っていたとお伝えください。」
次郎はそういうとクルリと振り返り闇に消えていった。
「…なんだかなぁ…」
「釈然とせぬじゃろ?意識に入り込んで自殺させたり苦しめたりしたらいいと思うのだが、
敢えて困難でややこしい状態を作り上げた。」
「ああ。僕ならもっと簡単にするのに…」
「…あやつはあの親子を一番苦しめる状態にしたのだ。
村長も陽一郎もいずれ逮捕されて社会的に抹殺される。しかも裁判では意識操作されて自分の不利益な事を喋らされる。
散々苦しんだ挙げ句、拘置所で霊が現れてじわじわと精神的に弱らせる。
自殺したくても拘置所ではできまい。
もし、外に出れても今回、ダムの建設に携わった会社もダメージを受ける訳だから組織からも狙われるだろうし。」
「…地獄だな。」
「まぁ、どこまであの家族がするのか解らんがな。
…因果応報じゃな。」
そう言う大塚はキツい表情をしていた。
後日、テレビも新聞もダム建設にあたりおきた殺人は大ニュースになった。
事件関係者12人が逮捕された。勿論、あの村長も含まれていた。
村長は建設会社から、集落の立ち退きの取り纏めをすれば報酬が出る事になっていたらしく、建設会社にも捜査が入っていた。
陽一郎だけは精神的に障害が残り起訴猶予になった。 ただ、改善すれば即起訴、逮捕される。
…毎晩、何かに怯えて叫んで暴れていると言うから逮捕は当分先になるだろうが。
「…姐さん、男の愛と言うのはですね女の子が考えてるよりずっと深いんっすよ。ピュアって言うんですかね…」
「喧しい!お前は愛を語れる程恋愛なんかしてないだろ!」
「何言ってるんすか姐さん。俺だって愛は沢山してますよー。…ワンウェイラブっすけどね」
黄梅院のカウンターだ。
今日はさゆりもクミコも来ている。
さっきからユージと下田の会話で笑わして貰っていた。
これからこの前の集落に花を供えに行こうという話になったのだ。
「待たせたな。さて参ろうか。」
着替えて来た大塚が二階から降りてきた。
「…あ、わらわの車は6人は乗れんぞ」
「ユージ、お前バイクで来い」
下田が言う。
「…だろうと思ってましたよ…。」
そう言って苦笑しているユージにクミコが話かけた。
「ねぇ、後ろ乗せて貰えないかな?」
びっくりした顔でユージがクミコを振り返る。
「えっ!…今、クミコさん…何て言ったの?」
「だから、乗せて貰えないかなって。」
「乗ってくれるんすかっ?!」
「クミコちゃん止めときなってユージの後ろなんて」
下田が言ったがクミコは
「さぁ行こうユージくん」
と外へ。
「まぁ、ユージなら問題あるまい。根っからの悪人ではないからな。」
出て行く二人を見ながら大塚が笑った。
「ああ。確かにあいつは悪人になりたくてもなれないタイプのバカだからな。」
下田が苦笑いしながら言った。
「みんな~早く行きましょうよ~」
外から甲高いユージの声が聞こえた。
おしまい