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杏の霊譚  作者: ビスコ
14/29

通り道 〈短編〉

今日も夕方になって隣の保険会社のビルの日陰に入った。

少し風が吹いてきた。



今日も暑かったなぁ…



チリリン…



軒に吊した風鈴が風に揺らいで涼しげな音を奏でる。



今日もお客さんは来なかったけれど、午前中に婆ちゃんの所に行って来られたし、洗濯物も乾いたし、コーヒー豆も買って来れた。

よしよし。



さて、表に出してあった朝顔の鉢植えを裏庭の方に運ばなきゃ。



植木鉢を抱えて、体を横にして黄梅院の建物の横を通っていく。



庭はブロック塀で囲まれている狭い土地だ。



婆ちゃんの植えた様々な草木がある。


ブロック塀の上をミケが歩いていく。

塀の上は、この辺りの地域猫の通り道なんだ。


ミケは野良だ。

時々黄梅院の縁台に乗って昼寝をしてる。

痩せてて尻尾の先がちょっと曲がってる。名前は私が勝手に付けた。



ミケは今日は忙しいみたいだ。

『大変だねぇ』といった表情でこっちをチラリと見て通過していく。



「手伝え」と言ってみるが無視された。



ミケがピタリと止まった。

体を低くして前のめりで威嚇の姿勢をとる。背中の貧相な毛を無理に逆立てている。



ミケの先を見ると、居た。

半分透き通った猫。

この前も見かけたけど逃げちゃったんだ。

透き通ってて、体が半分しかない。

車に跳ねられたのかな。

後ろ半分がぺちゃんこだ。



ミケには見えてるらしい。



今日こそは成仏させてやろう。



手印を組み、真言を唱える。

唱えながら、

『お前は実は死んでいるんだよ。あの世に行きなさい。それがお前にとって幸せだよ。』と念じる。



半分の猫は、私を見てユラユラと揺れていたが、スッと消えた。



「成仏したな。」



ミケは目の前の『半分猫』が居なくなってまた歩き始めた。



「ニャ」

と一声ないた。



礼だったんだろうな。



『おーい大塚ー不用心だなぁー』

店の方から声がする。

丁度良かった。手伝ってもらおう。



「裏におる!」

そう言って店に向かった。



『たい焼き持って来たぞー』


やっぱり今日はいい日だったな。




      おしまい

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