第1章:孤独な始まり
朝の光が、静かな住宅街の窓を淡く照らしていた。
カーテンの隙間から差し込む光に、少女の細い影が揺れる。
彼女の名前は 坩堝。
小さな手に握られたぬいぐるみは、昨日の夜にさえぎられた悪夢の名残だった。
心の奥に、説明のつかない恐怖が棲みついていた。
「……ママ、パパ……」
小さな声が部屋にこだまする。
しかし応える者はいない。
両親は、異能力者だった。
父は物質を自在に変化させる力を持ち、母は時間を操る能力を有していた。
幼い坩堝にとって、その存在は神のようでもあり、恐ろしいものでもあった。
だが、両親はある日、突然この世を去った。
表向きは事故――
だが、少女の心は、直感的にその「事故」が不自然であることを知っていた。
それ以来、家は静寂に包まれ、孤独だけが彼女の隣に座った。
夜、ひとりで眠ると、暗闇が揺れる。
目に見えぬ力が、まるで呼吸するように彼女の周囲を取り囲む。
小さな部屋で、少女はじっと自分の手を見つめる。
何度も、何度も指を握りしめる――
そのたびに、微かにだが、空気が震え、ものがほんの少し動く。
「……私……なんで、こんなこと……」
理解できない感覚が、少女の胸を締めつける。
これは、両親の力の一部が、無意識のうちに彼女に宿った証だった。
まだ制御できない力。
だが、その片鱗は確かに存在していた。
友達はいなかった。近所の子供たちは、何かを察してか、近づこうともしない。
孤独の中で、坩堝は唯一の慰めを求める――それは両親の残した記憶。
写真の中の笑顔、日常の温もり、ほんの短い時間の幸せ。
だが、どれも指の間から零れ落ちる砂のように、手に残らなかった。
「……寂しい……」
小さな声で呟く。
そして誰もいない部屋に向かって、ただ両手を広げる。
手のひらに、微かに光が宿る。
それは誰も教えてくれなかった、少女自身の力の目覚めの瞬間だった。
――孤独。
――恐怖。
――力。
すべてが坩堝の運命の始まりを告げていた。