13:もう一人の呪殺屋
「大変やねぇ。探偵さんは、女子高生のアフターケアまでせなあかんねや」
行平が追いかけてくることもわかっていたという顔で、石段のたもとで男が振り返る。やはり、自分とさほど変わらない年頃だと思った。男にしては長い髪が襟足で束ねられて揺れている。
「おまえが唆したからだろう」
「探偵さんまで人聞きの悪い。さっき聞かせてあげたやないですか。僕はなにひとつ強要してなかったでしょう?」
にこりと笑う男のそれは、ひどく嘘くさかった。
「弱った子どもに凶器を持たせて、そのくせ振りかざすのはおまえの自由だと突き放す。それがおまえの『呪い』か」
少なくとも行平の知る呪殺屋は、そんなことはしないと思うし、信じている。男は笑った。
「探偵さんは僕の呪いなんて目ぇやないくらいのえらいもの、憑けてはるけどね」
男の指先が行平を指す。正確には、行平の背後、かもしれなかった。途端、ぞわりとした感覚が背筋を突き抜けていく。なにがなんでも後ろを振り向きたいような、焦燥。それを振り払って、行平は男を正面から見据えた。
「払ってあげましょうか? それ」
底の見えない笑みを瞳に浮かべ、男が指先をくいと動かした。
「俺がおまえに返せるだけの見返りがあるとは思えない」
溜息交じりの応えに男は肩をすくめた。「そんなことはないんやけどね」
「まぁ、でも。それもええんとちゃう? 探偵さんが望むんやったら」
含みのある言い方も、『呪殺屋』共通のものなのだろうか。黙った行平に男はもう一度微笑んだ。
「ただ、僕はおすすめはせんけどね。早く逃げたほうがええと思うよ。呪いの元凶から」
「呪いの、元凶?」
「そう。元凶。きみはきっと後悔することになる。その呪いが解けたときに」
嫌な風が吹いて、遊環が揺れる。男は笑ったままだ。その瞳はまったく笑っていなかったけれど。
行平から背を向けようとする男に、行平は声をかけずにはいられなかった。訊こうと思っていた問いはまだひとつ残っている。
「おまえは、いつまでこれを続けるつもりなんだ」
この『呪殺』を。どこまで続くのかわからない、負の連鎖を。
「さぁ、いったいどれのことなんやろ。わからんな」
振り返るだろうかと案じていた男は、果たして歩みを止めた。
「お天道様に顔向けでけへんことばっかりやからね。僕ら呪術師の行く道は」
「そんなことはないだろう! それこそ選んでやっているのがおまえじゃないのか」
少なくとも、行平のよくよく知っている男は、違う。そうじゃない。
「そうやね。これは僕の復讐やから。選んでやってるのは否定せぇへんよ。そして僕を求める誰かが大勢いる、ということもね」
呪殺屋サイトを求め、縋りつく誰かがいる限り、終わらない。そうして負はどこまでも続いていく。
「止めたかったら、止めたらえぇよ。今日みたいに。僕はそれでも構わへんから」
止められるものだったら、好きにしたらいい。
嘯いて、男がくるりと背を向けた。今度はもう振り返らない。行平は金縛りにあったように、消えていく背中を見つめることしかできなかった。




