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愚者の園  作者: 木原あざみ
案件4.愚者の園
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05:探偵と少女

 永原悠は、意外にも行平の着電を嫌がらなかった。あの夜よりもずっと落ち着いた口調で応じた少女に、勝手な安堵を覚える。ずっとどこかに引っかかっていたのだ。

 その彼女が指定した待ち合わせ場所は、少女の家の近くにある大手のコーヒーチェーン店だった。

 自分と話す内容で、少女の心は、また不安定になるかもしれない。

 その可能性も理解した上で、行平は永原悠に逢いたいと思った。できることならば、彼女にとって良いきっかけになればいいと願ってはいたけれど。



「陵は辞めることにしたんです」


 挨拶のあとの探り合いのような沈黙を経て、永原悠はそう口火を切った。記憶よりも短くなった毛先が肩もとで揺れる。自嘲の見え隠れする微笑を浮かべたまま、ストローでアイスティーを掻き回すしぐさは、どうにも落ち着かないふうだ。

 夏休みであることも相まって、客席の半分以上が彼女と同年代の学生である。ざわめきのなかで、行平は少女の声に耳を澄ませた。


「公立の高校に編入することになりました。二学期からだし、ちょうどいいかなって。母は陵に折角合格したのにって残念がっていましたけど。恭子のこともあったから、しょうがないねって」

「恭子さんとは幼馴染だって言ってたもんね」

「ええ。だから、母も恭子のことは、よく知っていますし。……実は、恭子の自殺はいじめによるものだって公表されることになったんです」


 意外な成り行きに行平は瞳を瞬かせた。

 彼女へのいじめは公なものとして認識されていなかったはずだ。だとすれば、永原悠が尽力したのだろうか。少女は行平と視線を合わせることなく、一心にアイスティーの水面を見つめている。


「あの女、……鳴沢さんが、恭子の家に来たときに、謝ったらしくて」


 ストローが折れ、少女の細い指先に力がこもったことがわかった。


「べつに、それで恭子が救われるとは思えないんですけど。恭子のお母さんも、もしかしたら余計に傷付いたのかもしれないけど」


 どうなのだろう、と考える。だが、おそらく、彼女は否定も肯定も求めていないに違いない。黙ったままを選択した行平に、少女はそっとした笑みを浮かべた。


「あたしはわからないです。これからもずっと、ずっとずっと後悔が続くと思う。いつか薄らぐ日が来るのかもしれないですけど、そのいつかはあたしにはまだ見えない」


 もし、訪れることがあったとしても。それはずっとずっと先のいつかだろう。

 行平は、もう十五年。後悔を腹の中に飼い続けている。


「探偵さんが言ってたサイトなんだけど。実はあたしも、もう一度、あの人に逢ってみたくて、アクセスしようとしてたんです。でも、たった一度、辿り着いたあの日以来、見つけることができなくて。履歴から辿ろうとしても、履歴がないの。おかしいでしょ?」

「履歴が、ない?」

「そうなの。まるで、全部夢みたいに消えちゃってる」


 そこではじめて、永原悠は視線を上げた。幼さの消えた瞳が行平を射る。


「ねぇ、探偵さん。あたしへの罰って、いつ下るんだと思う?」


 それは、大切だったはずの幼馴染に、最後の一手を下してしまったことに対して、だろうか。

 それとも、憎い一心で、呪殺に手を出したことへ、だろうか。

 答えることのできないまま、だとすれば、と行平は思った。俺への罰は、いつ下るのだろう。

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