01:おろかもののはなし
この世には、不可思議が蔓延している。気が付いている人間が、どれほどいるかが定かでないというだけで。
そうして、その不可思議を生業とする人間も、はるか昔から存在しているのだ。
「どうやったら、あの泥人形が創れるか、ですって?」
想定していた通りの質問ではあるものの、自分に聞くかどうかは半々というところだった。自分が選ばれた事実を喜べばいいのか、嘆けばいいのか。見沢はにこりと微笑んだ。
「あたしより神ちゃんのほうが詳しいと思うけど? あなたがよく言ってるじゃない、『呪殺屋』って」
「もう煙に巻かれた」
不貞腐れた応えに、あら、と見沢は首を傾げた。場所は見沢の部屋だ。学生の夏休みも終盤に差し掛かり、見沢の仕事も繁盛している。恋愛、受験、友情。最近のこの部屋は、若い顧客の悩みで溢れ返っていると言っていい。
折角の休日だというのに、今度は住人のお悩み相談とは。なんと自分は働き者なのだろう。
「そんなの、いつものことじゃない」
そこはあんたの指定席じゃないわよ、と言う代わりに、見沢は再びにこりと微笑んだ。
「口にする前に、かわされた」
「それは珍しいって言いたいの?」
「というか。おまえが知ってるなら、おまえに聞いても一緒だろうが」
「拗ねないでよ、嫌ねぇ、ゆきちゃん」
「呪殺屋」に対する行平の気配りに、眉を上げる。以前はなかった配慮だったからだ。家主の思う壺通りの展開も、ここまでくるといっそ清々しい。
「泥人形のことなのよね、ゆきちゃんが気になっているのは」
「あんなもの、おふくろが一人で創れねぇよな?」
「わからないわよぅ。最近じゃ、インターネットでいくらでも検索できちゃうんだから」
情報が正確かどうかをさておけば、ではあるが。一般的なものであれば、いくらでもひっかかるだろう。
「あの人は機械に疎い」
「それだってわからないわよ。あなた、何年も実家に帰ってないでしょう」
見沢の苦言に、行平の眉間に皺が寄った。親不孝の自覚はあるらしい。
「それにしても、だ。おまえらも言っていただろ。あの陵のときも。素人が創るには無理があるって」
苦言を押しのけるように行平が例に挙げたのは「黒い人型」だった。まぁ、たしかにあれはそうだったわねぇ、と。見沢は内心で頷く。
素人が創れるものではなかった。あれは天野の秘術の一種だ。
呪術を生業とする西の一族。その歴史の始まりは、平安の時に遡るらしいが、さすがにそのすべては見沢も知らない。あの子どもは知っているだろうが。
「気になるのなら、あなたのお母様に聞いてみるのもひとつの手だと思うわよ」
切り口を変えて、見沢は笑みを深くした。
「あなたのお母様は、お医者様に貰ったと言っていたわよ。神ちゃんに似ているとも言っていたわね」
「医者」
後半を無視して行平が呟いた。
「本人に聞くのが手っ取り早いわよ。なんでもね」
悩み始めた行平に忠告代わりに言い聞かせ、机の隅に鎮座しているタロットカードに戯れに手を伸ばす。
種も仕掛けもない。ただのカードだ。引き抜いた一枚のカードを、ふいと宙に浮かせる。
運命の輪。いかにも過ぎてつまらない。鼻で息を吐いて、見沢はカードを束に戻した。
正位置に転がるか、逆位置を向くか。
すべては選択で変わっていく。それを誘導することは、無意味だ。少なくとも見沢はそう思っている。
相沢は違うだろうけれど。




