06:詐欺師と大家
「やっぱりか」
行平の『妹』の話を聞いた相沢の反応は、見沢の想定通りのものだった。弌の坊のカウンター席で、ぶらりと長い足を揺らす。
「もう五日よ。紛い物だというあなたの見立てに間違いはないけれど、そろそろ限界じゃないかしら。ついでに言わせてもらえるなら、あのビルにこれ以上の厄介ごとを持ち込まないでほしかったわね」
女子高生が行ったにしては高度すぎる『呪殺』、迷い込んだ『幼子の魂』。そして今回の『紛い物』だ。厄介なことが起こる頻度としては、あまりに高すぎるだろう。
「あそこは、そういう場所だ」
苦言をしれっと受け流し、相沢が黒皮の手帳を閉じる。店内にほかの客の姿はない。ほかの客がいるところを見たこともない。そういう場所だからだ。
「あなただって、神ちゃんと同じことができるでしょうに」
「まさか。あの人間外れと同じ馬鹿ができるわけがないだろう。あれと同じ真似をした日には三日は寝込む」
「あなたが?」
眉を上げた見沢に、相沢は鷹揚に目元を笑ませた。
「あぁ、俺がだ」
しばしの沈黙のあと、見沢はこれ見よがしに溜息を吐いた。指先でソーサーの端を叩く。
「だから今回もあの子任せなわけ? 署内で止めてくれたらよかったじゃない」
「仕方がない。これに絡んでいるのは、あいつだからな」
「……さっき濡れ鼠で帰ってきてたわよ」
「そうか。じゃあおまえが帰るころには、嵐は止んでいるんじゃないか」
よかったなと微笑んだ相沢に、見沢はそれ以上は言わなかった。昔から無駄なことはしない主義だ。無駄なことは疲れる。おまけに、ろくな結果を生まない。
席を立った見沢に、相沢が水を向けた。
「たまにはアンで来ればいい。歓迎してやる」
「なにを言っているの。あたしが、あの子をあなたなんかと二人きりで逢わせるわけがないでしょう」
メイとアン。表裏一体の双子の兄妹。すげなく言い返し、見沢は弌の坊をあとにした。
行平は、神野どころか見沢にさえも『妹』を見せていない。
――いや、『妹』じゃないわね。『紛い物』だわ。
誰かが泥人形に命と想いを吹き込んで創り上げた、偽物。傘を伝う水滴が見沢の肩を濡らしていく。雨が降り止む気配はない。
曇天を見上げ、見沢は目を眇めた。面倒なことにならなければいい。ただ、その願いが叶わないだろうこともわかっていた。




