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愚者の園  作者: 木原あざみ
案件3.天狗の遠吠え
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06:詐欺師と大家

「やっぱりか」


 行平の『妹』の話を聞いた相沢の反応は、見沢の想定通りのものだった。弌の坊のカウンター席で、ぶらりと長い足を揺らす。


「もう五日よ。紛い物だというあなたの見立てに間違いはないけれど、そろそろ限界じゃないかしら。ついでに言わせてもらえるなら、あのビルにこれ以上の厄介ごとを持ち込まないでほしかったわね」


 女子高生が行ったにしては高度すぎる『呪殺』、迷い込んだ『幼子の魂』。そして今回の『紛い物』だ。厄介なことが起こる頻度としては、あまりに高すぎるだろう。


「あそこは、そういう場所だ」


 苦言をしれっと受け流し、相沢が黒皮の手帳を閉じる。店内にほかの客の姿はない。ほかの客がいるところを見たこともない。そういう場所だからだ。


「あなただって、神ちゃんと同じことができるでしょうに」

「まさか。あの人間外れと同じ馬鹿ができるわけがないだろう。あれと同じ真似をした日には三日は寝込む」

「あなたが?」


 眉を上げた見沢に、相沢は鷹揚に目元を笑ませた。


「あぁ、俺がだ」


 しばしの沈黙のあと、見沢はこれ見よがしに溜息を吐いた。指先でソーサーの端を叩く。


「だから今回もあの子任せなわけ? 署内で止めてくれたらよかったじゃない」

「仕方がない。これに絡んでいるのは、あいつだからな」

「……さっき濡れ鼠で帰ってきてたわよ」

「そうか。じゃあおまえが帰るころには、嵐は止んでいるんじゃないか」


 よかったなと微笑んだ相沢に、見沢はそれ以上は言わなかった。昔から無駄なことはしない主義だ。無駄なことは疲れる。おまけに、ろくな結果を生まない。

 席を立った見沢に、相沢が水を向けた。


「たまにはアンで来ればいい。歓迎してやる」

「なにを言っているの。あたしが、あの子をあなたなんかと二人きりで逢わせるわけがないでしょう」


 メイとアン。表裏一体の双子の兄妹。すげなく言い返し、見沢は弌の坊をあとにした。

 行平は、神野どころか見沢にさえも『妹』を見せていない。

 

 ――いや、『妹』じゃないわね。『紛い物』だわ。


 誰かが泥人形に命と想いを吹き込んで創り上げた、偽物。傘を伝う水滴が見沢の肩を濡らしていく。雨が降り止む気配はない。

 曇天を見上げ、見沢は目を眇めた。面倒なことにならなければいい。ただ、その願いが叶わないだろうこともわかっていた。

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