01:あるかけのはなし
この世に一番蔓延している呪いはなにかって、前に話したことを覚えてる?
そう、親が子にかける呪い。え? いや別に俺がどうして『呪殺屋』になったかなんてつまらない話じゃないよ。だって、滝川さんは興味ないでしょう?
まぁいいや。話を戻そうか。親は子どもを呪うことができる。いとも簡単にね。
幼い子どもにとっての親が絶対で、支配者だからだ。道理の通らないことも、その口から放たれたというだけで、本当になる。
思い込みって、怖いよね。
そうそう、滝川さんの右手と一緒だ。『視える』はずなのに、あんたが『視えない』、あるいは都合の悪い真実は『視たくない』と念じるから『視る』ことができなくなった。
いやだな、別にあんたを糾弾しているつもりはないよ。俺には関係のないことだしね。
そうだね、昔の話だ。ずっとずっとあんたにとっては昔の話で、俺にとってはそうでもない話。
俺には親はいない。もちろん、俺だって木の股から生まれたわけではないよ。ただ、親はいなかった。
別に珍しい話でもないでしょう、滝川さん。あんたって、無表情を気取っていても、瞳が雄弁だよね。
なにを考えてるのかわかりやすい。いやだな、だから揶揄ってなんかないってば。
そうだね、嬉しいよ。あんたのそのまっすぐなところ。え? これが嘘かって?
さぁ、どうだろうね。だって、まだ話の本筋にも入っていないんだよ。
俺の生まれた家は、古いところでね。たぶん、あんたじゃ想像もできないような嫌な世界だ。
そこで俺は生きてきた。悪趣味で、閉塞的な旧家。と言っても、そこが悪趣味だったと気が付いたのも、外のことを知るようになって、やっとだったんだけどね。
閉じた環境は人を蝕むよ。良くも悪くも。でも、それもどうでもよかったんだ、あの日までは。
あのね、滝川さん。ひとつ教えてあげよう。どうでもいいと心の底から思うのは、周りに無関心であると同時に、周りが無関心だからだ。
それでもたったひとつのきっかけで世界が一変することもある。俺の場合は、とある子どもの瞳が俺を認識したと知った日だった。
だからその顔は止めてってば、滝川さん。あんた、これが全部、俺の嘘だったらどうするの。え? 嘘なのかって? それを判断するのは、俺じゃなくて滝川さんでしょうが。
ある日ね、馬鹿な子どもがやってきたんだ。
神様の居場所を教えてくださいって。なんで俺に縋ったのかは知らない。でも、縋ったんだ。
神隠しに遭った子どもは帰ってこない。帰ってきたとしても、きっと元の子どもじゃない。
ほら、浦島太郎がいい見本だ。あの世とこの世は時間の流れが大幅に違う。だから相いれない。
なのに、馬鹿な子どもは神様に逢って取り戻したいと必死に言うんだ。神様の居場所を教えてほしいと。
馬鹿だと思ったよ。なんで自分ができないことを、俺だったらできると思えるんだろうね。
俺は、神様でもなければ、魔物でもない。あんたがどう思っているのかは知らないけどね、本当だ。
だから、忘れさせてやろうかと思ったんだよ。まぁ、催眠術みたいなものだと思いたかったら思えばいいよ。呪いだと思いたければ、それで構わない。
そうすれば、思い悩むこともない。え? なに? そんなことをすれば、いなくなった子どもと過ごした記憶もなくなってしまうだろうって?
だって、滝川さん。じゃあ、あんたは二度と戻ってこない誰かの記憶を一生引きずったままでいろって言うの。案外、残酷だね。
まぁ、でも安心したらいいよ。俺は結局しなかった。代わりにひとつだけ、その子どもに呪いをかけた。いつか解けるだろうけど、解けなくても別に問題はない呪いだ。
祝いも呪いも紙一重だからね。つまり、そう悪いものではないっていうこと。だから、そんなに怖い顔しないでよ。捉えようによっては、その子どもは幸せになる一手をもらったのかもしれないよ。
え? 自分の行為を正当化するなって? 仕方ないでしょう。支配者である親が子どもを呪いで縛ることができるのと一緒で、力あるものが行使すれば、弱いものは受け入れるしかないんだから。
ただ、そうだね。この話はその瞬間の気まぐれでは終わらなかった。そういうことだよ。
あれから時が経って、ふと気になったんだ。あの子どもにかけた呪いはどうなっているのか、ってね。
だから、俺は『呪殺屋』になったんだ。その子どもの呪いの行末を見届けるために。
なにか言いたそうな顔だね、滝川さん。おまけに質問の答えを今あげようか。
神隠しは、存在しうる。俺みたいなのがいるんだから、性根の腐った神様の一人や二人いても別に不思議はないでしょう。
複雑そうな顔しちゃって。可愛いね、滝川さん。茶化すなっていうのなら、そうだな、そんなに心配しなくてもいいよ。気にしなくてもいい。あんたはすべて忘れていい。
だって、この話は全部嘘だから。全部、全部嘘だから。




