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現世


 ⁂


 窓から差し込む朝陽に起こされて、夢は途切れた。

「……また、」

 よく見る夢だった。頻繫ではないけれど、覚えてしまうくらいには。

 現実のような、幻のような。そんな素敵な夢を見た後に思い出す、同じ繰り返しの一日が始まるという怠惰な事実。判で押したような高校生活に新鮮味が全く湧かなくいから困りものだ。


 通学路にある押しボタン式の横断歩道で、男性が信号待ちをしていた。後ろ姿でわかった、平岡さんだ。地元の先輩だから子供の頃から知っている。

 彼は今日も仕事なのだろう、鳶の格好で焦点の合わない目をして前を見つめている。それに、このまま浮遊し始めるんじゃないかって思うくらい、足が地面に接している雰囲気がない。

 隣に並ぶと彼はゆら、とこちらを向いて。失われた前歯の黒ずんだ根元をぬっと見せて笑った。

「のりちゃん、たばこもってる?」

「持ってないよ、ごめんね」

 たばこは嗜まないのだと何回も伝えてある。私がのりちゃんではないことは子供の頃から訂正し続けている。けれど覚えてくれる気配はないから訂正は高校進学を機に諦めた。


 力の無い瞳を横断歩道に向けてしまった彼の隣に、押しボタンの箱がある。よくよく見れば表示窓が真っ黒だった。という事は彼はボタンを押さず、ずっと信号を待っていたのだ。

 私もここを渡りたい。このまま待っていても信号は変わらないから、暗躍する忍者の様にサッとボタンを押してサッと元の位置に戻る。

 妙に気を使った自分を褒めてやりたい。と、顔を戻すと。

 そこにあったはずの彼の姿が無い。

「あれ?」

 この押しボタンは押してもすぐに変わらないのは、毎日通っているから良く知っている。だから歩行者信号はまだ変わっていないはずだ。信号を確認しようとした時、覚束ない足取りで横断歩道を歩く彼の姿を見つけた。歩行者信号は赤なのに。


 その時、坂を上ってくる力強いエンジン音と共に、巨大なダンプカーが迫ってくる。

 けれど彼は未だ横断歩道をよたよた歩いて――

 全身の血の気が引いた。頭の中は真っ白だ。

 なのに自分の意志とは関係なく勝手に足は動き出して、彼の背中まで猛ダッシュ駆けていく。

 これでもかってくらい腕を伸ばして……覇気のない背中を思いっきり突き飛ばした。





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