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第四話 こうして俺はダンジョン配信者になった

 しばらくすると悪寒は治まったものの、身体の芯の方に何かよくないものがこびり付いている感覚が拭えない。花子さんは「呪い」と言っていたが、いったいどういう呪いなのだろうか。


「それは、あんたがトイレから離れられなくする呪い。トイレから離れれば離れるほど、あんたは生気を失い、強引に離れた場合は普通に死ぬわ。つまり、私とあんたはこれから一蓮托生。よかったわね。こんな美少女と命運をともに出来て」

「よ、よくないよ! トイレから出られないんじゃ、ここからも離れられないってことじゃないか! そんなことして何になる――」

「あんた、バカ? そのための簡易トイレでしょうが」


 言われて気が付く。先ほどの花子さんの理論をそのまま受け入れるなら、この簡易トイレを持っている限りは、俺は自由の身。多少の不便はあれど、普通に生きて行くことも出来なくはない。しかし、ここで俺は気が付く。


「さっきの条件だと、屋外じゃ簡易トイレを持ってても意味ないんじゃ?」

「……まぁ、そこに気が付いたので一応合格にしてあげる」


 花子さんが言うには、俺にかけられた呪いは、花子さんと同じ呪縛と言うほどではないらしい。花子さんは完全にトイレの個室と言う概念が必要だか、俺はそこまでではないとのこと。今、手元にある簡易トイレさえ持っていれば、屋外で呪いが発動することはないようだ。


「とは言え、よ? ここには滅多に人間は現れなくなっちゃった訳だし、あんたに協力させないと、ジリ貧なのは変わりない。だから、一発逆転の策を講じる訳」

「……それがダンジョン?」

「そういうことよ」


 確かに、トイレの花子さんがダンジョンに現れたとなれば、一定数興味を持つ人間は出てくるだろう。問題は、実際にダンジョンにいる彼女を撮影したとして、それが本物のトイレの花子さんであると、何人の人間が信じてくれるか、という点だ。


「花子さんは、自分が本物のトイレの花子さんであるってことを実証出来る訳?」

「それはもう、ことトイレの中ならば最強と言っても過言ではないわ。トイレにあるものならば何でも操れるし、元々死んでるんだから、これ以上死ぬこともない。ある意味チートでしょ?」


 彼女の言い分もわからないでもないが、やはり問題がある。


「でも、ダンジョンにはトイレ用具はないよ?」


 当然だが、ダンジョンにトイレなどある訳もない。簡易トイレでダンジョンに入れるようになったからと言って、その他の用具が降って湧くことはないのだ。


「そのためのあんたでしょ?」

「……それってつまり」

「そ。あんたはカメラマン兼荷物運び。常に私をサポートしつつ、この私を美しく撮影する役が出来るんだから、泣いて喜んでいいわよ?」


 呪いで無理やり従わせようとしているくせに、いいご身分だ。


「それを手伝ったら、俺にかけた呪いは解除してくれる訳?」

「それは、あんたの働き次第。中途半端な仕事をするようなら、一生こき使ってやるから覚悟しなさい」


 思わずため息が漏れる。内容は滅茶苦茶だが、このまま放置すればもっと悪条件になりかねない。であれば、この辺りで承諾してしまって、さっさと呪いを解いてもらえるように尽くした方が、被害は少なくて済むはず。俺は仕方なく、首を立てに振った。


「わかったよ。協力する。要はトイレの花子さんの存在を、ネットで宣伝すればいいんでしょ? そのためのダンジョン配信だと思えば、俺の元々も活動とも被ってなくはないし。それで生き長らえることが出来るなら御の字だ」

「それじゃあ、契約成立ね?」

「明らかに不平等契約だけどね」


 こうして、俺は心霊系配信者からダンジョン配信者に鞍替えすることとなる。花子さんの呪いと、ダンジョンに潜む危険。二重の意味で命がけになるのだから、事前情報は抜かりなく、最善の準備をした上でダンジョンに潜るとしよう。


 とりあえず、花子さんにお願いして、これまでの一連の流れを整理した動画を撮影させてもらい、ダンジョン配信の前動画として、YuiTube上にアップさせてもらうことに。しばらくすると、いくつかのコメントが俺のチャンネルに寄せられたが、大半は疑いのコメントばかりだった。やれ「やらせ」だの何だのと非難を浴びたが、こういう連中には言わせておけばいい。俺のチャンネルは、ほんの一部のファンに刺さってくれればそれでいいのだ。


「後は花子さんの活躍次第か……」


 初ダンジョン配信を翌日に控え、俺は枕元に置いた簡易トイレに触れる。こいつに俺の命がかかっていると思うと、やるせない気持ちになるが、それでも、これは今の俺にとっては生命維持装置。無碍には扱えない。


 とりあえず布団に入った俺は、若干の不安を抱きつつ、眠りについた。翌朝、とてつもない目に遭遇するとは、想像もしないまま。

読んでいただきありがとうございます。


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