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未亡人のマリーゴールド 三幕

男は鼻歌を歌いながら歩いていた。気分が良かったこれから始まることに心踊っていた。

 「ふ……ふふ、あははは!」

 たれきれず口に出して笑う男、すれ違う人は男をみて悲鳴をあげて逃げる。彼の服や顔に渇いていない血糊が付いていて、虚ろな目で笑っていたからだ。

 「きゃああ!」

 「うわっ!」

 「……はぁ、これからが楽しみだよ。八重子」

 男は霧の中にゆっくりと消えていった、軽い足取りで歩きながら。




 桜と新井は待ち合わせの喫茶店に急いで向かいたどり着いた。目の前の光景に息を飲んだ。大量の血だまりと血飛沫が店の入り口にあった。

 「…………」

 「佐藤さんここに居ても何も分かりません……中に入れますか?」

 「……ああ、大丈夫だ今に始まったことじゃないからな」

 「頼もしいですね」


 桜が扉を開けた。店の中は一言で言うならば血だらけだった、壁や天井に血糊と血飛沫が飛散していて喫茶店の原型を留めていない。人影は無く明と新井だけがいた。ふたりは血の水音を立てながら歩み寄った。

 佐藤は吐き気を堪えながら声をかけた。


 「新井!起きろ!大丈夫か!」

 「明さん!生きてますか!」

 明の肩を強く揺さぶるが中々起きない、新井も同様だった。

 「新井!何があった!?起きろ!」

 「…………」


 二人は全く反応がなく、起きなかった。


 「…………」

 沈黙が続く。桜が溜息を吐いて沈黙が破られる。

 「このままでは埒が明きません、佐藤刑事救急車と警察を呼んでください。私は先生に一旦連絡します」

 「ああ……わかった、取り敢えず二人を外に出そう。ここじゃあ空気が悪い」



 暫くして救急車の音とパトカーのサイレンが聞こえてきた。寝ている二人を見て桜の顔は暗くなる。「身支度をしておけ」この言葉は恐らく私の人間関係のことを言っていたのだろう。あの男の計画に必要だから、余計な者は捨てなさいと無言で言ってるような気がした。








 数時間前。匡人と安斎は警察署の駐車場で車を待っていた。

 「…………」

 「…………」

 「…………なんか言ったらどうだ?」

 安斎が最初に口を開いた。

 「……今回は当たりなのか?」

 匡人はそっけない感じで答えた。


 「相変わらずそっけないな!誰のお陰であの男の居場所分かったと思ってんだ!」

 「そっちこそ!なんで明くんのこと事前に連絡しなかったんだ!本当の事知ったら彼泡吹くぞ!なんで警察で対応しなかったんだ?」


 「……そ、それは……」

 「そ、れ、は?」

 「…………くっ、今まで警察が関わってたから尻尾が掴めなかったんだ。だから、君の所の住所だけ教えたんだ……」


 「囮に使ったんだな?」

 「…………」

 「いつか自分で謝れよ。俺は助けないからな」


 匡人ふんと顔をそらした。逆に安斎は俯いて暗い表情になった。そこへ車がやってきて二人の雰囲気を見て恐る恐る声をかけた。


 「お……お待たせしました……」

 「…………」

 「…………」


 運転手はこの気まずい空気の中に居たくなかった。

 「(早く目的地についてくれ)」


 「……なぁ、匡人。最近おきてる事件知ってるか?」

 「朝ニュースでよく見る。東京のジャックザ・リッパーだな」


 「前に捕まえられそうだったけど逃げた奴だな、……恐らくまたお前らに接触してくるぞ」

 以前匡人達は殺人鬼を追っていたが、直前で逃げられた。あの時桜が混乱して建物一軒を壊してしまう事になった。その混乱にジャックザ・リッパーは逃げた。


 「あの時は……桜が混乱して、落ち着かせるのに手一杯だった」

 「……ああ、だから気をつけろ」

 「ありがと」


 運転手は更に気分が重くなっていた。

 「(なんでこの二人はいつも険悪なんだ)」

 匡人と安斎は高校の同級生で、昔は今ほど悪くはなかった。過去に起きた出来事で今は険悪な仲になってしまった。




 暫く車で移動してある病院にたどり着いた。二人は打ち合わせを始める。

 「匡人お前は先に行ってホシを捕まえろ、居なかったら証拠を押さえておけ。俺は時間がかかる」

 「了解!行ってくるわ」

 匡人が先行して病院に入っていた、安斎は同行している刑事達と話し合う。

 「これからホシが潜伏していると思われる場所に向かう、準備はいいか」

 「はい!」


 匡人は病院に入ったが、焦らず待合室の椅子に座った。すると安斎と刑事達がやって来て捜索の紙を出して、周りが慌ただしくなる。安斎と目が合って顎で行けと促されて動いた。向かうのは二階にある一室だ。エレベーターに乗って降りる立ち入り禁止区画にはいって探していたが、途中で職員に止められた。


 「すみませんここは一般の方は立ち入り禁止ですよ!」

 見つかってしまい冷や汗が出た。

 「……すみません。私桂木先生の知り合いの弁護士で先生の部屋はどこかと探していたら迷ってしまい……」


 職員が首に掛かっている入院証をみて安心した。そして匡人は弁護士の名刺を出して渡した。

 入院証は先程の混乱に乗じて盗んだ。


 「桂木先生のお知り合いだったんですね!失礼しました。……ですが先生は三日前にお辞めました」

 「え、そうですか……ちなみに先生が使っていた私室か机とかありますか?」

 「……小さい事務室ならありますが」

 「案内してください!」



 案内された部屋に入ると何もなく閑散としていた。

 「また逃げられたな」


 近くのパソコンに一冊の本が置いてあった。見たことのある表紙だったから直ぐハンカチで手に取った。職員は不思議に思っていたやめた聞けば帰るかどこに行ったのか聞くはずなのに、まるで刑事みたいだ。そう思っていたら走ってくる足音が聞こえてきてみてみると、また一般の人間が入ってきたから驚いた。

 「あ!すみません!ここは――」

 刑事はこちらに向かってきて無理やり部屋に入ってきた。そして匡人に話しかけた。


 「匡人さん!いた!どうですか、居ましたか!?」

 「ちょっとあなたなんですか!勝手に――」

 「すみません、警察です。この病院は捜索令状が出ています協力をお願いします」

 職員の後ろから複数の刑事が声をかけると驚き混乱していた。


 「……匡人さん……」

 「すまない。これを安斎の奴に渡してくれ」

 「はい」


 本を渡すと匡人は病院の外のベンチで空を見ていた、桜と明君は大丈夫だろうか何事も起きてないといいな。深く深呼吸をしていたら安斎がこちらに歩いてきた。


 「……また逃げられたな、証拠も消されている。また最初からやり直しだな……はぁ」

 「いや、目と鼻の先まできたよ。後は手を伸ばして捕まえる」

 「え?」

 「さっきお前の部下に”本”を渡した、あいつは暫く隠れるはずだ。……立花稀華子を追う」

 「…………なるほど」


 安斎も深く息を吸って吐いた、四月の空気は暖かくて気持ち良かった。桜の蕾が今にも咲きそうだった。すると匡人の携帯が鳴る電話に出る。

 安斎は着信音のメロディーが変だったので眉が八の字になった。いきなり匡人が大声で叫んで驚いた。


 「なんだって!息はしてるの!?……よかったぁ、今行くからね!」

 お茶を飲みながら声をかけた。


 「どうした……?」

 「明くんと新井刑事が意識不明になったって!今すぐ行かないと!」

 「車を呼ぶからちょっと待ってろ、……すまない病院の入り口に居るか?ああ、ありがとう。行くぞ匡人」

 「助かる!」



 「…………お前携帯の着信音少し変わってるな……」

 「え?誰のか分かりやすくていいじゃん」



 「………………………………あ、そ」

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