未亡人のマリーゴールド 二幕
現地に付くと二人の男性が待っていた。桜さんが紹介してくれて佐藤刑事と新井刑事と言うみたいだ。この二人も俺を探偵事務所を紹介してくれた、安斎さんの部下だという。
「では、私は佐藤刑事と立花稀華子さんと会ってきます。吉正さんは新井刑事と一緒に居てください、絶対一人にならないでください!」
「は、はい」
念押しされてしまった明は少し恐縮する、そして桜は遠くに行ってしまった。
新井刑事が突然手を出してきた、困惑する明は手と新井刑事を見る。
「えっと……」
「俺、新井真輔っていいますよろしくお願いします」
「あ、俺は吉正明です。こちらこそお願いします」
お互い握手をして新井刑事は大きな笑顔で答える。そんな彼の仕草に明はホッとする。
「おそらく桂木さん達は時間が掛かるので、俺たちは近くのカフェで待っていましょう」
新井刑事に促されて俺たちは喫茶店に入った。
明達と別れて桜と佐藤刑事はこれから立花稀華子の元に訪問する。
「今回は当たりですかね?」
佐藤刑事が歩きながら話かけてきた。
「大方当たりで間違いないですね。後は私が確認できれば白か黒はっきりします」
「……いつも思うんですが、怖くないのですか?」
「………………正直分かりません。何も感じないので…………」
「……そうですか」
寂しそうな表情になる佐藤刑事。私には分からなかった、何故佐藤さんがこんな顔になるのかが。話している間に目的の場所についた。大きな一軒家で佐藤刑事がインターホンを押す。女性の声が還ってきた。
「はい。どちら様ですか?」
「すみません。新宿警察署の佐藤刑事と言うものですが」
「ああ、先日連絡があった警察の方ですね!今開けます」
「お待たせしました。どうぞ上がって下さい」
二人は促されてるまま家にあがる。リビングに案内されてお茶を入れるから座ってまっていてほしいと言われ、待つことにした。すると子供が走ってきた。
「お母さん!誰か来たの!?お父さ……ん」
子供は二人を見て驚き黙ってしまい、母親の元に駆け寄った。
「あらあら、優紀今大事なお客さんが来てるから、静かにね」
「……うん」
佐藤刑事は子供に話しかけた。
「ごめんね。少しお母さんとお話しさせてね?」
「…………」
子供は更に隠れてしまい俺は焦った。
「こ、心が折れそう」
「何を言っているんですか?」
そうこうしているうちにお茶を持ってきた。出されたお茶を一口飲んで本題を切り出した。
「ではお話を伺います。3か月前の大型旅行船が沈没した事件について、貴方は体調不良になった男性を付き添って下船していますね?」
「はい」
「その時の様子をもう一度話してください」
「そうですね、あの時気分がすぐれなくて甲板で風にあたっていた所に一人の男性が居たので、声をかけてみたんですがいきなり倒れて従業員さんに言って急遽近くの港で降りました。たしかお医者さんも乗っていらしたので、その人も一緒に降りましたわ」
「その次の日に沈没したニュースを見て恐怖でしたわ、あのまま乗っていたら私も死んでいたのかと思うと」
桜はこの家に入って来てから違和感を感じていた。そしてこの立花と言う人の話す声に感情が感じられない、ましてや嬉しそうに話している。まるであの事件が起きてくれてありがたいみたいに。1つ質問してみるか。
「立花さん、あの船には何故参加したんですか?」
「ずっと家で育児をしていたので、母が気分転換にと行ってきたらと、それで友人と参加しましたわ」
やっぱり声の抑揚が明るい。友人が乗っていたのならば悲しんだり、言葉が詰まるはず。なのにこの人はすらすらと話す。
佐藤刑事が話かけた。
「ご友人が亡くなられて残念ですね」
「……はい、いい友人でした。ですがこの子を一人にしなくて良かったです……」
「それは良かったです。子供にとって母親は一人しかいませんからね」
微笑む立花稀華子、子供はお菓子を食べながら母親を見て首を傾げた。
「ん?」
佐藤さんは悲しげに微笑んだ。
桜は険しい顔をしながら佐藤刑事を見ていて思った。
「(駄目だこいつ罠にかかってる)」
咳払いをした桜は最後に質問をした。
「んん!最後の質問です。他に知っている人は乗っていませんでしたか?」
「…………いいえ。友人以外誰もいませんでしたわ」
「…………………………そうですか、ありがとうございます」
「ママ遊ぼう!つまんない!」
「あら、優紀ちょっと待てて!」
「よし!お兄さん――」
「もうお暇しましょう!」
佐藤刑事の話を遮った桜は立ち上がり玄関に向かった。
「もう大丈夫なのですか?」
「桂木さん!?」
奥さんに挨拶をして慌てて追いかける佐藤。外に出て見送りをしてる立花稀華子は桜に話かけてきた。
「お医者様からの伝言です。準備が整ったから迎えに行く、支度をしておけ」
「!?」
「またお会いできるのを楽しみにしております。桜さん」
喫茶店でコーヒーを飲みながら明は新井刑事と待っていた。
「…………」
「…………」
「(話題がない!何話せばいいんだ!)」
内心慌てながら何か話題がないか悩んだ末、新井から話しかけてきた。
「明さんって今回の事件解決したらどうするんですか?」
「え?」
「この類の事件って結構掛るから」
思考が一時停止した。そうだ個人探偵っていくらするんだ?しかも警察まで関わってきたから、考えていなかった。
喫茶店に一人の男が入ってきた。
「あ、佐藤さんからだ。ちょっと席外しますね」
「…………」
新井刑事が席をたったのだが、未だに思考停止中の明は気付かなかった。
男は店を見渡して明のいる席に近づくそして。
「すまない。相席していいかい?」
「あ……え?」
明は我に帰っていきなり声をかけてきた男に気づいた。
「……えっと……」
なんのことか理解できなくて、男を見たら空いている目の前の席を指さしていた。周りの席を見たが。そこそこ込み合っていって、相席になるしかない状態だ。
「いいですよ、どうぞ」
「ありがとう」
男は優しく笑って座る。注文をした男は明に話しかけてきた。
「意外と込み合っていますね」
「そうですね、気が付きませんでした」
頭を掻きながらコーヒーを一口飲む。
男は目を細めて笑う。そして明に問いかける。
「……もし何でも願いが叶う”物”があったら君は何に使う?」
「え?」
閉まった玄関の扉をじっと見つめている桜、あの人は今何を言った?「準備が整ったから、迎えに行く。身支度をしておけ」どういう意味?
…………父さん?
「あれ?……繋がらないな?」
佐藤刑事の声で我にかえった、問い返す。
「どうしたんですか?」
「それが、新井に繋がらないんですよ。一時間位しか経っていないのに」
「…………!」
「今すぐ明さん達の元に行きましょう!危ないかもしれません!」