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未亡人のマリーゴールド 一幕

「先生~なんでここって、いつもこうばしい?いい香りがするの?」

 桜は椅子に手をついて、足をぶらぶらしながら匡人(まさと)に聞いた。

 「いい香りでしょ、君が大きくなったら教えるよ」


 教えてもらえずいじける桜、顔を膨らませて唸る。けれどこの香りが鼻に付くと深く吸い込み、芳醇(ほうじゅん)で香ばしい匂いを堪能した。


 「ぶぅ~、……でもいい香り~。いつもアルコールの消毒液とか変な薬の匂いしか嗅だことないから、ここは好き!」


 私がそう答えると匡人先生は少し困った顔になって笑う、分からないなんで?だってお父さんのやっている事は人の役に立つ事なのに、他の先生もお父さんのこと褒めてるのに。先生とお父さんは仲が悪いのかな。


 桜の考え事を他所に匡人は検査を終えて、パソコンを見ながら話す。

 「よし、特に異常はないよ。このまま戻って大丈夫」

 「本当!」

 「うん、だけど最近脈拍が不安定だから無理しちゃだめだよ」

 「はーい!」


 無邪気に答える彼女をみて肩を落とす、本当にわかっているのだろうか。こう見えてまだ九歳の彼女にはまだ分からないのだろう。気を付けて見ておかなければと思う匡人だった。

 「またね!先生!」

 「またね」


 そう言って私は医務室を出て行った、医務室は好きだ知らない物や香り、何でも答えてくれる先生凄く楽しい。







 

 朝、太陽が昇り暖かくなってくる時刻、匡人は桜の部屋がある階まで来た。ノックをしようと片手を扉の前まで近づけたが、一瞬止まってしまう。本当はこのままそっとしておいた方がいい、無理に部屋から出すことはない。匡人はノックをせず声をかけるだけにした。


 「…………桜、朝ごはんあるからお腹すいたら食べな……」

 「…………」


 案の定返事は無かった。そのまま匡人は下の階に降りて行った。

 桜は匡人の声で目が覚めた、長い時間寝ていたのか意識がまだぼんやりしている。お腹が鳴った音を聞いた桜は溜息を吐いた。


 こんな時でもやっぱりお腹は減るんだ、寝ぐせを整えて階下に降りた。そこには匡人と明さんがいた匡人は私が用意した資料を見ながらコーヒーを飲んでいた。明さんは食器洗いをしている、なんだか物凄く馴染んでいる。桜は恐る恐る二人に声をかけた。


 「お、おはようございます」

 桜の姿に気づいた明は心配して手を止めて近寄った。

 「桜さん!大丈夫ですか!」

 「すみません、心配をおかけしました」


 明は優しく笑って気遣う。

 「降りてきてくれてよかったです、ごはん探偵さんが作ってくれたのでありますよ」

 「あ、はい。ありがとうございます」


 「桜」

 「先生……」

 「おはよう」


 匡人は桜の頭をなでる、思わず彼女は微笑んでしまった。

 桜はまだ暖かい朝食をたべる。明と匡人は休憩がてら、ニュースを見ていた。


 「今日の新宿は霧が薄く、広く晴れるでしょう。東京は夜霧が濃くなります車の運転には注意してください。次のニュースです、女性連続殺傷事件について……」


 食事が終わった桜は入浴しようと支度していると、二人は下の階に降りようとしている所で匡人が声をかけた。

 「桜僕たちは事務所に行ってるから終わったらおいで」


 数分後。髪を乾かしてリビングのニュースが目について見た、話題は最近夜になると女性が切りつけられる事件だ。桜は眉に皺を寄せてテレビを消した。そして駆け足で、事務所に向かった。



 「ああ、分かった。ありがとうな安斎じゃあまた後で」

 「すみません。お待たせして」


 匡人が電話を切って直ぐに桜が事務所に来た。

 「よし!今日のやることが決まったぞ諸君!」

 「はあ」

 「桜と明くんは事件の生存者立花稀華子さんの所に行ってくれ、俺はもう1人の方に行ってくる」


 そう告げると明は驚いて声を上げた。

 「ええ!大丈夫ですか俺!」

 「うーん……多分大丈夫だよ」

 「多分ってそんな」


 「桜が一緒だから平気平気」

 「あ、っとそうだ桜行きながらこれ、読んでおいてね」

 「わかりました。先生もお気をつけて」

 「ありがと。それじゃあふたり共きをつけて!」



 探偵事務所を出てタクシーに乗っている桜と明。明は不安でたまらなくなり大きなため息とともに桜に話しかける。

 「ねえ!桜さん!俺行って本当に大丈夫かな!?怖いんだけど!」


 隣に座っている桜は匡人から渡された資料を読み込んでいる。紙をめくりながら話す。

 「大丈夫です。現地に付いたら刑事の人がいますので、明さんは近くのファミレスで待っていください」


 「え?会わなくていいんですか?」

 「はい。あなたはあちらに顔が知れていますので、直接は会わないです」

 「…………よ、よかったぁぁ~!」


 安心した明はへなへなと窓にもたれかかる。そんな彼を見た桜は少し心配の顔になってしまう。

 「不安なのは分かりますが余り気に病まず、任せてください」


 緊張をほぐす為微笑む桜、励まされた明はちょっと照れてしまい恥ずかしがる。

 「あ、ありがとうございます。桜さんは大丈夫ですか?昨日様子が変だったんですけど」

 「……ごめんなさい心配させてしまって、……調べてたら知ってる人の名前が出てきたので…………」


 そのまま何も話さなくなった彼女を見て明は慌てた。

 「だ、大丈夫です!話さなくて!言えない事の1つや2つありますよ」


 「…………子供の頃父が全てでした、でも今いる探偵事務所に来て生き方が変わりました。……今でも心の何処かに父に期待しているのかもしれないです」


 桜が自身の事について話したのに驚いた明は一瞬思考停止した後口を開いた。

 「……親は親だよ。全部してくれる訳じゃない、何時か子供は一人で生きていかなきゃいけない……」


 「……………………」


 明の言葉が何故か胸に重く響いて言葉がでてこなかった。

 「(親は親。何でもしてくれるわけじゃない……私はまだ期待してるのかな)」


 車の窓の景色をぼんやり見ながら桜は目を細める。現地に着くまで二人は会話をしなかった。お互いこれ以上踏み入ってしまわないように。

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